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33-1 行方不明
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リョウは書庫で先に調べものをしていたが、待ち合わせの時間になってもなかなかやって来ないアキラ。部屋のなかにある壁に付いた時計をチラリと見る。アンティークのようなレトロな時計は城の書庫という厳かな雰囲気によく似合っている。時計の針が指す時間を眺め、リョウは怪訝な表情となった。
「兄貴のやつなにやってんだ?」
小さく溜め息を吐きつつ、アキラを探しに行くため、読んでいた書物を棚へと戻し、書庫を後にした。
大方、ジウシードに拗ねられ、部屋を出るのに手間取っているのか、と、そう判断し、リョウはアキラたちの部屋へと向かった。しかし、部屋の扉をノックしてもなんの反応もない。
「? もう出た後か? どこ行ったんだよ」
仕方なくあちこちうろつく羽目になり、彷徨っている間に演習場ではジェイクとウェジエが剣で摸擬戦をしているところに出くわす。
摸擬剣で戦っているのだろうが、それでも剣がぶつかり合う音が響き迫力がある。ふたりとも楽しそうな顔をして戦っている。リョウはしばらくそれを眺めていた。
「なかなかかっこいいじゃないか」
普段見ることの出来ない貴重なジェイクのかっこいい姿に、リョウはハハッと笑った。
「褒めるとは珍しいですね」
気配なく突然背後から声を掛けられ、ビクッと振り向くとそこにはフェシスがいた。さらりとした長い髪をひとつにまとめ、涼し気な顔で立っている。
演習場みたいな男臭い場所にいるのが違和感しかないな、とリョウは苦笑する。
「まあたまにはね。それしか褒めるところがないしな」
「単純馬鹿ではありますが、そんなところが可愛いと思っているのでは?」
フッと鼻で笑うように言うフェシスに、ピクリと反応するが、そこは冷静なリョウ。他人からからかわれるのを許す人間ではない。
「あんたこそウェジエのことが可愛いんだろ? 幼馴染だもんな、ずっと好きだったのか?」
ニヤッと笑い、やり返すかのような目線を向けたリョウは、フェシスの顔を見た。フェシスは僅かにピクリと反応するが、しかし、表情が変わることはない。
「弟みたいなものでしたからね。それなりに情はありましたよ。だからこそ運命の相手として受け入れたのですから。貴方はジェイクのことをちゃんと好きになったのですか?」
「うん? そりゃまあねぇ。売り言葉に買い言葉だったにしろ、好きでもないやつと寝たりは出来ないしな」
そんなことをお互い冷静なまま言い合っていると、ダダダダッとなにやらこちらに駆け付けてくる足音が……。
「お、お前ら、な、なにを言い合ってやがる!!」
ジェイクが顔を真っ赤にさせながら叫んだ。
「フェ、フェシスもなに言ってんだよ!!」
リョウとフェシスの間に割り込むようにジェイクとウェジエが身体をねじ込んだ。そしてお互いの伴侶の肩を掴み、会話を制止させる。
周りでは同じく演習場で訓練をしていた騎士たちの視線がリョウとフェシスに向けられ、ニヤニヤとする者、顔を赤らめながらも聞き耳を立てている者など、どうやら注目を浴びていたようだ。
「小っ恥ずかしいこと口にしてんじゃねーよ!!」
「ん? 今さらなにを照れてるんだ? 本当のことだろうが」
「お、おまっ」
真っ赤な顔のまま口をパクパクとさせているジェイクに、呆れるように言い放つ。そんなやり取りにウェジエは苦笑しつつも、フェシスに小声で話す。
「フェシスも!! あ、あんまり俺たちのことをべらべらとは……」
「別にべらべらと喋っているつもりはないが? 伴侶との関係は愛し合っていて当然なのだから、これくらいの会話普通だろう」
「うぐっ」
シラーッとしているフェシスに対し、ウェジエはぐうの音も出ない。ジェイクもウェジエも、お互いの伴侶に言いくるめられ、なにも言葉にすることが出来ず固まった。
「あ、そういえば、俺の兄貴を見なかったか?」
このやり取りに赤面するでもなく、全く表情の変わらないままリョウはそういえばと思い出す。兄を探しに出たのだった、と本来の目的を思い出し三人に聞いた。
「ん? アキラか? いや見ていないが……」
「俺も知らんな」
「私も見掛けてはいませんね」
三人とも、誰もアキラを見ていない。ふむ、とリョウは考え込み、踵を返す。
「ありがとう、ジウシードを探してみるよ」
「ジウシードもいないのか?」
「あぁ、部屋に誰もいなかった」
「ふたりでどこかでイチャついてんじゃないのか?」
ニヤッと笑いながらジェイクが言ったが、リョウは呆れたように小さく溜め息を吐き、シラーッとした目を向けた。
「な、なんだよ、間違ってねーだろうが!!」
「単純なやつはいいよな」
「はぁ!? なんだこら!! 喧嘩売ってんのか!?」
「売ってはいないが、ま、それは夜にでもな」
ニヤッと笑ったリョウはひらひらと手を振り、その場を後にする。ジェイクは声にならない叫び声を上げ、怒りながらも再び顔を真っ赤にさせていた。その横でウェジエは苦笑し、フェシスはスンとしていた。そして騎士たちからジェイクはなにやら生暖かい目を向けられているのだった……。
「兄貴のやつなにやってんだ?」
小さく溜め息を吐きつつ、アキラを探しに行くため、読んでいた書物を棚へと戻し、書庫を後にした。
大方、ジウシードに拗ねられ、部屋を出るのに手間取っているのか、と、そう判断し、リョウはアキラたちの部屋へと向かった。しかし、部屋の扉をノックしてもなんの反応もない。
「? もう出た後か? どこ行ったんだよ」
仕方なくあちこちうろつく羽目になり、彷徨っている間に演習場ではジェイクとウェジエが剣で摸擬戦をしているところに出くわす。
摸擬剣で戦っているのだろうが、それでも剣がぶつかり合う音が響き迫力がある。ふたりとも楽しそうな顔をして戦っている。リョウはしばらくそれを眺めていた。
「なかなかかっこいいじゃないか」
普段見ることの出来ない貴重なジェイクのかっこいい姿に、リョウはハハッと笑った。
「褒めるとは珍しいですね」
気配なく突然背後から声を掛けられ、ビクッと振り向くとそこにはフェシスがいた。さらりとした長い髪をひとつにまとめ、涼し気な顔で立っている。
演習場みたいな男臭い場所にいるのが違和感しかないな、とリョウは苦笑する。
「まあたまにはね。それしか褒めるところがないしな」
「単純馬鹿ではありますが、そんなところが可愛いと思っているのでは?」
フッと鼻で笑うように言うフェシスに、ピクリと反応するが、そこは冷静なリョウ。他人からからかわれるのを許す人間ではない。
「あんたこそウェジエのことが可愛いんだろ? 幼馴染だもんな、ずっと好きだったのか?」
ニヤッと笑い、やり返すかのような目線を向けたリョウは、フェシスの顔を見た。フェシスは僅かにピクリと反応するが、しかし、表情が変わることはない。
「弟みたいなものでしたからね。それなりに情はありましたよ。だからこそ運命の相手として受け入れたのですから。貴方はジェイクのことをちゃんと好きになったのですか?」
「うん? そりゃまあねぇ。売り言葉に買い言葉だったにしろ、好きでもないやつと寝たりは出来ないしな」
そんなことをお互い冷静なまま言い合っていると、ダダダダッとなにやらこちらに駆け付けてくる足音が……。
「お、お前ら、な、なにを言い合ってやがる!!」
ジェイクが顔を真っ赤にさせながら叫んだ。
「フェ、フェシスもなに言ってんだよ!!」
リョウとフェシスの間に割り込むようにジェイクとウェジエが身体をねじ込んだ。そしてお互いの伴侶の肩を掴み、会話を制止させる。
周りでは同じく演習場で訓練をしていた騎士たちの視線がリョウとフェシスに向けられ、ニヤニヤとする者、顔を赤らめながらも聞き耳を立てている者など、どうやら注目を浴びていたようだ。
「小っ恥ずかしいこと口にしてんじゃねーよ!!」
「ん? 今さらなにを照れてるんだ? 本当のことだろうが」
「お、おまっ」
真っ赤な顔のまま口をパクパクとさせているジェイクに、呆れるように言い放つ。そんなやり取りにウェジエは苦笑しつつも、フェシスに小声で話す。
「フェシスも!! あ、あんまり俺たちのことをべらべらとは……」
「別にべらべらと喋っているつもりはないが? 伴侶との関係は愛し合っていて当然なのだから、これくらいの会話普通だろう」
「うぐっ」
シラーッとしているフェシスに対し、ウェジエはぐうの音も出ない。ジェイクもウェジエも、お互いの伴侶に言いくるめられ、なにも言葉にすることが出来ず固まった。
「あ、そういえば、俺の兄貴を見なかったか?」
このやり取りに赤面するでもなく、全く表情の変わらないままリョウはそういえばと思い出す。兄を探しに出たのだった、と本来の目的を思い出し三人に聞いた。
「ん? アキラか? いや見ていないが……」
「俺も知らんな」
「私も見掛けてはいませんね」
三人とも、誰もアキラを見ていない。ふむ、とリョウは考え込み、踵を返す。
「ありがとう、ジウシードを探してみるよ」
「ジウシードもいないのか?」
「あぁ、部屋に誰もいなかった」
「ふたりでどこかでイチャついてんじゃないのか?」
ニヤッと笑いながらジェイクが言ったが、リョウは呆れたように小さく溜め息を吐き、シラーッとした目を向けた。
「な、なんだよ、間違ってねーだろうが!!」
「単純なやつはいいよな」
「はぁ!? なんだこら!! 喧嘩売ってんのか!?」
「売ってはいないが、ま、それは夜にでもな」
ニヤッと笑ったリョウはひらひらと手を振り、その場を後にする。ジェイクは声にならない叫び声を上げ、怒りながらも再び顔を真っ赤にさせていた。その横でウェジエは苦笑し、フェシスはスンとしていた。そして騎士たちからジェイクはなにやら生暖かい目を向けられているのだった……。
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