【完結】異世界転移で落ちて来たイケメンからいきなり嫁認定された件

りゆき

文字の大きさ
67 / 120

34-1 拉致

しおりを挟む

「アキラ!! アキラどこだ!?」

 ジウシードは部屋のなかを隈なく探したが、アキラの姿はない。部屋から飛び出そうとしたとき、リョウに止められる。リョウはジウシードの腕を掴み制止させるが、騎士としても力があり、体格も明らかにリョウよりも大きい。リョウの手を強引に振り払おうと腕を振り上げるジウシード。

「待て、落ち着け」
「落ち着いていられるか!! もしかしたら母上になにかされたのかもしれないんだぞ!!」
「だからこそ落ち着けって言っているんだ。なにか事件に巻き込まれたのだとしたら、闇雲に探して見付かるはずがない。だから詳しく状況を話せ。さっきの女はなんだ?」

 怒りに我を忘れそうになっていたジウシードはリョウの冷静な姿を見ると、眉間に皺を寄せながらも大きく深呼吸をした。

「さっきの女はメイドのフリをして俺たちの部屋にやって来た。あれは俺の母に雇われ忍び込んだ奴だ。まだ裏付けはしていないが、あの女に聞いた限りではおそらく事実だろうと判断出来る」
「聞いた、ねぇ……」
「お前が来なければ、もう少し詳しく聞けたかもしれないがな」

 そう言いながらジロリとリョウを見る。しかしリョウはそんなジウシードの視線を気にするでもなく、鼻で笑った。

「ハハ、でも俺が来なければ兄貴が行方不明になっていることに今まだ気付けていないだろう」
「フン」

 リョウがアキラを探してうろついていなければ、アキラの行方不明に気付くのが遅れたはず。それはジウシードにも分かっていた。だからこそ、それ以上なにも言わない。

「おそらくその女は囮だろうな」
「囮……」
「そいつにジウシードを誘惑させて兄貴から遠ざけようとしたのも事実かもしれんが、おそらくそれだけでジウシードが兄貴から離れるとは思わないだろう。きっと他に侵入者がいる」

 そう言ってリョウはキョロッと回りを見回す。そして窓の付近に近付き、うろうろと歩き回り床や壁、天井や窓を見る。そして窓からバルコニーへと出て、手すりを見たかと思うと、身を乗り出し下を眺めた。

 ジウシードは逸る気持ちを抑えながらも、リョウの後に続く。

「窓から侵入されてるな……で、拉致られた……」
「!!」

 部屋の一番端にある窓、そのすぐ傍の床には少しの土が落ちていた。足跡と呼べるほどのものはないが、それでも明らかに何者かが侵入したのだろうと思われるほんの少しの不審な靴跡。そしてその窓からバルコニーへと出ると、柵の手すりにはなにやら不審な痕が。

「おそらくここから登り、そして兄貴を連れて再び降りた。王城の敷地内といえど、このバルコニー側から見える景色は森だ。あの森へ逃げたんだろう。その床に付いている土はおそらくこの下の土。少し離れたところから芝生が広がっているが、真下は土も広がっている。なにやら不審な足跡もあるしな……」

 ジウシードはガバッと手すりにしがみ付き、身を乗り出し下を眺めた。リョウが言うように、なにやら複数人の足跡が見える。ジウシードはギリッと奥歯を噛み締めた。

「くそっ!!」
「森へ逃げたとなると……どこか隠れられそうな場所とか心当たりはないのか?」
「森……」

 逸る気持ちを抑えながら、王城裏手に広がる森を思い出す。この森は国の敷地であるため、一般人はほぼ入ることなどない。特に柵などが設けられている訳ではないが、暗黙の決まり事として、国所有の敷地へ無断で入ることなどはしない。普通ならば。森の奥地などには野獣なども多く生息しているため、戦う能力のない者はかえって命取りになる場合もあるからだ。

 だから森へ逃げたと言われてもピンと来ないというのが正直なところでもあった。ジウシードは必死に頭のなかでこの辺り一帯の情報を引き出してくる。

「隠れられそうな場所といえば……野獣討伐のために途中で休息に使われる小屋くらいか……しかし、数箇所に点在している……」

 明らかに動揺し、蒼褪めつつあるジウシードはリョウを見た。リョウはジウシードの表情から時間の猶予が少ないことを悟る。

「数箇所に点在か……その全てを調べている時間は……ジェイクとウェジエ、フェシスにも助けを求めよう!! ラウルにもあの女から詳しく聞き出すよう指示をしろ!!」
「あぁ」

 リョウはジェイクたちの元へと走り出し、泣き出しそうな表情のままジウシードはラウルの元へと走った。


 ◇◇


「うっ……」

 鈍器で殴られたかのような頭の痛みに思わず呻く。痛みを感じた箇所を押さえようと手を伸ばそうとしたが、なにやら上手く動かない。なんだ? と、思い、徐々にはっきりしてくる意識と共にゆっくりと目を開ける。

 少し目を開けるが、目はぼんやりとし、はっきりと見えない。ぼんやりとした目を何度か瞬きをし、なんとか視界が戻って来ると、そこは薄暗く、しかも見たことがないような部屋だった。周りは全て木材で出来てあり、床も古い木材の板が敷き詰められていた。

 俺はその床に横たわっている。キョロっと見回しても、部屋のなかにはなにもない。棚が並んでいて、そこにはなにかよく分からないものが並んではいるが、それ以外にはバケツのようなものが転がっているだけだ。布のようなものは見えるが、扉がひとつあるだけで、窓すらない薄暗い部屋だった。

 ひんやりと冷たい空気に古い木材の匂いと土の匂い。

「ここはどこだ?」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。

なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。 この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい! そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。 死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。 次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。 6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。 性描写は最終話のみに入ります。 ※注意 ・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。 ・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。

処理中です...