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34-2 拉致
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起き上がろうとするも、どうやら手首を背後で縛られ、すんなりと身体を起こせない。なんとか身を捩り、頭で床を押し、上半身を引き寄せ身体を起こす。
「な、なんとか起きられた。で、ここはどこなんだよ……」
縛られていたのは腕だけだったため、なんとか立ち上がり、唯一ある出入口の扉にそっと近づいた。古い木材の床にギシッと音が立ちそうになり、心臓が早鐘を打つ。なんとか必死に足音を立てないよう、じりじりと歩みを進め、扉の傍まで近付く。そして息を殺し聞き耳を立てると、外からはなにやら人の話し声が聞こえた。
「で、あいつはどうしたらいいんです?」
「始末しなさい。痕跡を残さないようにだけ気を付けなさい。後は任せるわ」
「へいへい、承知しました」
し、始末!? 始末って俺を殺すってこと!?
ふたりの男の声に、もうひとりは女の声……三人のやり取りする声が聞こえ、その後ガチャリと扉の開く音が聞こえた。その後男の声はいまだに聞こえるということは、女がどうやら部屋を出て行ったようだが……。
あの女の声……つい最近聞いたことが……こんな直近で聞いているんだ、間違うはずがない……あれは……ジウシードの母親の声……。
ジウシードの母親に俺は拉致されたってことか……おそらくあのとき現れた見知らぬメイド……きっとあれもこの母親の差し金なんだろうな……。俺を殺し、ジウシードに新たに女を伴侶として宛がおうしている訳か……。いや、でもそんなこと出来るんだろうか……。運命の相手は儀式で判明するんだよな? その儀式ではない相手ってそもそも伴侶として認められるのか? そんなことはこの母親にとったら問題ではないのだろうか……。
そもそも誓約の証……あれって俺が死んだ場合、ジウシードのものはどうなるんだろ……俺が死んだらジウシードの誓約の証も消えて、新たに運命の相手と結ばれたらいいって話か?
チクりと胸が痛んだ。
分かってる……俺みたいな平凡な男じゃ、ジウシードに相応しくない……そんなこと分かってる……でも……。
俺が死んで、俺たちの誓約の証が消えて、ジウシードが俺を忘れたら……きっと他の奴と伴侶となる……。それはきっとジウシードたちにしてみれば当たり前のことなんだろうけど……俺以外の人間と結ばれるジウシードの姿を想像すると辛くなる……。
嫌だ……ジウシードが俺以外の人間を選ぶなんて嫌だ……ジウシードの隣に立つのは俺でありたい……こんなところでジウシードと離れたままで死にたくない!!
なんとか脱出出来ないか、辺りを探る。とりあえずこの縛られている手をなんとかしないと。ギリギリと腕を捻り、縄を引き千切れないかと試みても、全く外れる気配はない。どうしたものかとキョロッと辺りを見回し、縄を切れそうなものがないかと考える。
扉の向こうの様子を探っていると、なにやら話し合っているのか、今すぐにこちらへやって来るような気配はなかった。そのため足音を立てないようにそっと後退り、棚にあるものを調べる。
緊張で呼吸が早くなるが、必死に息を殺しながら物音を立てないよう棚を探る。武器になりそうなものは見当たらない。棚にはなにかの穀物だろうか、木箱に入った小さな粒。バケツや鍋のようなもの。毛布らしきものと手で持ち運べるランタンのようなものがあった。
このランタンの硝子部分を割ったらナイフ代わりにならないだろうか……。チラリと背後の扉を見る。今ならまだ入ってくる様子はない……。
毛布に包んで叩き割ればバレずに済みそうか? 迷っている時間はない。やるなら今すぐにでもやらないと、いつあの扉から男たちが入って来るか分からない。待っていても状況が良くなることなどないんだ。それならやるしかない。
静かにゆっくりと大きく深呼吸をし、なんとか棚から毛布とランタンを引っ張り出し、ランタンを毛布に包む。そして一発で割れるように、思い切り踏み込んだ。
『ゴン』という鈍い音が響き、ビクッとなる。背後の様子を探りつつ、急いで毛布の隙間からランタンを取り出す。見事に硝子部分が割れたランタンは毛布の上で壊れていた。
「なんか今変な音が聞こえなかったか?」
「そうか?」
ギクリと心臓が跳ね、そして、慌てて硝子の破片を拾おうとしたとき、ガチャリと扉の開く音がした……。
「な、なんとか起きられた。で、ここはどこなんだよ……」
縛られていたのは腕だけだったため、なんとか立ち上がり、唯一ある出入口の扉にそっと近づいた。古い木材の床にギシッと音が立ちそうになり、心臓が早鐘を打つ。なんとか必死に足音を立てないよう、じりじりと歩みを進め、扉の傍まで近付く。そして息を殺し聞き耳を立てると、外からはなにやら人の話し声が聞こえた。
「で、あいつはどうしたらいいんです?」
「始末しなさい。痕跡を残さないようにだけ気を付けなさい。後は任せるわ」
「へいへい、承知しました」
し、始末!? 始末って俺を殺すってこと!?
ふたりの男の声に、もうひとりは女の声……三人のやり取りする声が聞こえ、その後ガチャリと扉の開く音が聞こえた。その後男の声はいまだに聞こえるということは、女がどうやら部屋を出て行ったようだが……。
あの女の声……つい最近聞いたことが……こんな直近で聞いているんだ、間違うはずがない……あれは……ジウシードの母親の声……。
ジウシードの母親に俺は拉致されたってことか……おそらくあのとき現れた見知らぬメイド……きっとあれもこの母親の差し金なんだろうな……。俺を殺し、ジウシードに新たに女を伴侶として宛がおうしている訳か……。いや、でもそんなこと出来るんだろうか……。運命の相手は儀式で判明するんだよな? その儀式ではない相手ってそもそも伴侶として認められるのか? そんなことはこの母親にとったら問題ではないのだろうか……。
そもそも誓約の証……あれって俺が死んだ場合、ジウシードのものはどうなるんだろ……俺が死んだらジウシードの誓約の証も消えて、新たに運命の相手と結ばれたらいいって話か?
チクりと胸が痛んだ。
分かってる……俺みたいな平凡な男じゃ、ジウシードに相応しくない……そんなこと分かってる……でも……。
俺が死んで、俺たちの誓約の証が消えて、ジウシードが俺を忘れたら……きっと他の奴と伴侶となる……。それはきっとジウシードたちにしてみれば当たり前のことなんだろうけど……俺以外の人間と結ばれるジウシードの姿を想像すると辛くなる……。
嫌だ……ジウシードが俺以外の人間を選ぶなんて嫌だ……ジウシードの隣に立つのは俺でありたい……こんなところでジウシードと離れたままで死にたくない!!
なんとか脱出出来ないか、辺りを探る。とりあえずこの縛られている手をなんとかしないと。ギリギリと腕を捻り、縄を引き千切れないかと試みても、全く外れる気配はない。どうしたものかとキョロッと辺りを見回し、縄を切れそうなものがないかと考える。
扉の向こうの様子を探っていると、なにやら話し合っているのか、今すぐにこちらへやって来るような気配はなかった。そのため足音を立てないようにそっと後退り、棚にあるものを調べる。
緊張で呼吸が早くなるが、必死に息を殺しながら物音を立てないよう棚を探る。武器になりそうなものは見当たらない。棚にはなにかの穀物だろうか、木箱に入った小さな粒。バケツや鍋のようなもの。毛布らしきものと手で持ち運べるランタンのようなものがあった。
このランタンの硝子部分を割ったらナイフ代わりにならないだろうか……。チラリと背後の扉を見る。今ならまだ入ってくる様子はない……。
毛布に包んで叩き割ればバレずに済みそうか? 迷っている時間はない。やるなら今すぐにでもやらないと、いつあの扉から男たちが入って来るか分からない。待っていても状況が良くなることなどないんだ。それならやるしかない。
静かにゆっくりと大きく深呼吸をし、なんとか棚から毛布とランタンを引っ張り出し、ランタンを毛布に包む。そして一発で割れるように、思い切り踏み込んだ。
『ゴン』という鈍い音が響き、ビクッとなる。背後の様子を探りつつ、急いで毛布の隙間からランタンを取り出す。見事に硝子部分が割れたランタンは毛布の上で壊れていた。
「なんか今変な音が聞こえなかったか?」
「そうか?」
ギクリと心臓が跳ね、そして、慌てて硝子の破片を拾おうとしたとき、ガチャリと扉の開く音がした……。
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