プレイヤーキラー~PKギルドの世界征服~

栗金団(くりきんとん)

文字の大きさ
26 / 41
第2章 目立ちすぎる王都潜入

【第26話】 ハーバー家乗っ取り作戦

しおりを挟む
 「このハーバー家を乗っ取るでござる」
 「え?な、何を言っているのですか…?」 
 「へぇ?そう来たか」
 「まぁ、仕方ないですね」
 「ちょ、ちょっと待ってください…!
 ほ、本気ですか?
 アルマン・ハーバーはこの国の宰相なのですよ?」
 「だからでござる。
 貴族の後ろ盾があれば、拙者たちも活動しやすいでござる。
 決行は今夜パーティーが終わった後、全員が寝静まってからでござる」
 オルガの話を聞かず、サカナはキングとフォマに説明をする。
 パーティーは日が変わる前には終わるが、片付けが終わるころには深夜になるだろう。
 主催者は舞踏会の後もしばらくは談笑をして酒を飲み、従者たちは従者たちで招待客の対応に一日中追われて心身共に疲れて寝静まる。
 そのため、忍び込むには絶好の日である。
 オルガは自分たちしか知り得ない情報や間取りの説明に、ようやく彼らがただの強盗ではないと理解する。
 「オルガにも協力してもらうでござるよ。
 まずはメイドを全員解放するから、彼女たちに紛れて村に逃げるなり、散るなり、全員でなくてもいいから導くでござる。
 我々はその後、宰相を懐柔して取り込むでござる」
 「懐柔ってどうやんだ?」
 「コレを使うでござる」
 「…なんだそりゃ」
 サカナが取り出したアイテムに、キングは初めて見るという顔をする。
 そのアイテムは雫型の透明なガラス容器にピンク色のとろみのある液体が入ったもので、装飾や大きさといい香水のようだった。
 容器の取っ手には細かいカットが入っており、その部分を掴んで振る。
 フォマはそのアイテムに見覚えがあるようだった。
 「媚薬みたいですね、好感度ポーションですか?」
 「ビンゴでござる、これはバレンタインイベントのときに条件報酬で得られるものでござる」
 「そんなのあったか?」
 「戦闘報酬ではなく、限定キャラのNPCからお使いクエストを受けることで得られるものでござる。
 そして、これを渡したNPCは好感度が無条件に五段階まで上がるでござる」
 「十段階中か?」
 「いいや、五段階中でござる」
 「へぇ?」
 NPCと呼ばれるキャラクターたちには、好感度というパラメータが存在する。
 そしてプレイヤーが何度も話かけたりアイテムを渡したり、ときにはお使いと呼ばれる簡単なミッションを達成したりすることで、彼らの好感度は上がっていく。
 好感度を上げることで得られるアイテムやイベントはキャラクターによって異なるが、いずれも段々と親し気になっていく。
 二段階では知人、三段階で友人、四段階は親友、五段階まで上がれば恋人として扱われるため、一部のプレイヤーは躍起になって好感度を上げている。
 とはいえ、ストーリーの本筋やキャラの育成には関係のないゲーム要素でもある。
 「拙者はイベントが始まる前に全てのNPCの好感度を五段階まで上げていたでござるが、念のために持っていて正解でござったな」
 「…お前がアイテムコレクターで良かったよ」
 「そうでござろう!
 実際このアイテムは互換性が低い上に、課金では得られないという希少性があって…」
 「気持ち悪いですねぇ」
 「何ででござるか!?」
 「ともかく、それをドラ息子に飲ませりゃいいんだな?」
 「そうでござる。
 あと一本は宰相に使うでござる。
 ついでに彼らが好感度のある主要NPCなのかどうか、実験をするでござるよ。
 効かなくてもキングの吸血で眷属にするか、フォマの魔法で使い魔にするでござるよ」
 NPCの中でもモブといわれる重要度の低いキャラクターたちは好感度がなく、街の賑わいや道先を示すだけの置物として扱われている。
 彼らがこの世界にも存在するのか、もしくはプレイヤー以外の全ての人間がそうなのか、サカナは興味を抱いていた。
 本来ゲームにはハーバー家もこの舞踏会も存在せず、サカナたちはあるはずのないシナリオをプレイしていることになる。
 もしも全員がモブなら、フォマが示すように彼らはゲーム内と同じように代替性の利くシステムであるともいえる。
 「反対に主要NPCと同じ扱いなら、何が好感度達成報酬として得られるのか…
 拙者はそこが知りたいでござる。
 オルガ殿も全員が救われるのであれば、文句はないでござろう?」
 「え?そ、それはそうですが…」
 「確認でござるが、メイドらが脱走して自ら通報することはないのでござるな?」
 「それは絶対にないです。通報されても信じてもらえないでしょうし…。
 で、でも…お仲間の二人はあまりやる気がなさそうですが…それに」
 「あらー…?」
 話がまとまりかけて立ち上がったサカナだったが、見るとキングは不良生徒のように両手を頭の上にやって外を見ているしフォマは欠伸を噛み殺している。
 それぞれ窓と扉に全体重をかけて寄りかかって退屈しており、ようやくサカナは自分だけが実験に浮足立っていたと気づいた。
 「あー…言い忘れたでござるが、宰相のネットワークがあれば他のプレイヤーの情報が相手より早く得られるはずでござる。
 それに、ギルドの仲間の情報もより確実に得られるでござるよ」
 「なるほどな、じゃあ奇襲も可能なわけだ」
 「それを早く言ってください」
 キングは片側だけ口角を上げて窓枠から床に下り、フォマも背を正して立つ。
 オルガはその様子を見て、心底彼らと利害が一致していて良かったと思う。
 正義や思いやりの心を持たない、自分の欲望だけで動く人間ほど先が読めないものもいない。
 敵対していたら、きっと相手が少女だろうと彼らは容赦しないだろう。
 何より、この二人の実質リーダーであり聞きなれない単語の実験を企んでいるサカナこそが一番恐ろしい。
 オルガは静かに腰を抜かしたまま、一人下から彼らを見上げていた。
 「あ、あの…話を聞いていますか…?
 宰相がいないとはいえ、護衛には、この国最強の冒険者や闘技場の優勝者たちが雇われているのですよ?
 それに、事件がバレたらすぐに王国騎士団に通報されて…」
 「お?護衛がいるのか、いいねぇ。
 たぎってきたぜ」
 「は、はぁ…!?」
 「護衛は覆滅するでござる、この真実は公にはさせないでござるよ」
 「な、あ…あなた方は、一体…」
 「拙者たちは通りすがりの…そう、ただのPK集団でござるよ。
 では少女救出作戦改め、ハーバー家乗っ取り作戦を実行するでござる!」
 無邪気な少年のような明るい口ぶりと顔で、サカナは拳を握りしめた。
 だが高らかに宣言した内容は、アーサー王国最大の虐殺事件を予告するものだ。
 ハーバー家に仕えるメイド達総勢三十人を除き、利害関係者およそ百五十人以上を一夜にして葬る。
 そしてその主人を傀儡にして屋敷を丸ごと乗っ取るという、力ずくの強奪作戦が始まった。

「第2章 目立ちすぎる王都潜入」終
次回「第3章 大貴族の乗っ取り作戦」

ps.ここまで読んでいただきありがとうございます!
お気に入り登録や感想もお待ちしております。創作の励みになります。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...