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3章 政略と征略

64.揺れる心

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回収された先は、軍用車のような無骨な車的な乗り物だった。
これまでの馬車的なものと比べ、随分近代化が進んでいる。
ルパインが運転(ちゃんとハンドルもある)、
私、アルベルト、ヘーゲルの三人が荷台のようなスペースに腰を下ろす。
ちなみ、リヒーとメノウは足元に拘束されて転がっている。
二人とも披露とダメージのせいか、眠っている。

「おい、どうして僕のところの第2種特殊馬車を使用してる!これは他が知らない機密技術だぞ!」

「秘密にしておく意味がない。どうせ技術がなければすぐには作れない。先に数を揃えてしまえば、真似されたところで大事ない」

背後を見れば、同じような車がいくつも走っている。
黒づくめの人たちが運転している。
私の屋敷をぼろぼろにした、憎い奴らが。

……この角度ならば、魔法を使って殲滅できるかもしれない。
幸い、身内は手元に転がっている。
ルパインは運転中だから背後から狙い放題、
ヘーゲルは手が届く程の距離。
いつでも、やれる。
やれる、
殺れる。

けど、彼らの目的はまだきちんと聞けていない。
私を奪いにきた。
やり方はもっと丁寧かつロマンティックなものが希望だけれど、
ドラマチックかつ情熱的ではある。

つまるところ、私の心は動いているのだ。
目の前の美青年、
エーテルザット家現当主、
ヘーゲル=エーテルザットに。

「どうした?我の顔に何かついているのか?」

「いえ、何んでもないです」

そうか、と短く答える。
凛々しい雰囲気、
ぶっきらぼうな感じもワイルドで素敵である。

「あ、でも一つ確認したいことがーー」

「なんだ、言ってみろ」

「何故、私を婚約者に?それもこんな乱暴な方法で。浅学で申し訳ありませんが、名家の方、それも序列2位のエーテルザット家ならば、もっと穏便な方法があったのではないでしょうか」

「こいつらは僕たちと文化が違う。平和的解決なんてしない。仮にできたとしても、やらない。そういう奴らだ」

私の問いに、縛られたままのアルベルトが口を開いた。
その言葉に、ヘーゲルはくすりと笑いつつも同意した。

「まあ、そいつの言う通りだ。我の統べるエーテルザットは強さ、より正しくは暴力が支配する国、それ故に交渉ごとに長けてる人材がいないし、そもそもやりたがらない」

シニカルに笑いながら、言葉を続ける。

「戦うことができるなら、戦って解決すべき。それが我等の基本ルール。口や筆で戦うなど、卑怯かつ臆病者のやることだ」

なるほど、
エーテルザット領は暴力が支配する世紀末な地域ということか。
ならば、尚更私を婚約者にする理由が分からない。
象徴、と言っていた気がするけど、どんな意味なのだろう。

力あるものは美しい女も手に入る、
だから。

競い、
戦い、
勝利し、
その先に望むものを叶えろ。
そんなメッセージを領民に与えたいということだろうか。
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