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二章
19.貴方の名前
しおりを挟む結局、少女からは情報を引き出せなかった。
だが、そもそもリリネットが拷問で引き出した情報は既に手に入れている。
ーー
襲撃の理由は、食料と金品の強奪。
蛮族が住まう地域にて食料難が発生したことが遠因。
襲撃予定は今日から五日後。
夜闇に紛れて襲撃、短期決戦を想定。
領民を根絶やしあるいは致命傷を与え、後日領地ごと奪う。
この子含め、いくつか斥候が来ている。
少女が斥候に登用されたのは、その言語能力故。
喋れるだけでなく、文字も理解できる。
慣れない土地に攻め入るには便利な存在。
襲撃人数は100人規模。
蛮族の成人男性を主軸に構成。
短期決戦を目論んでいるためか、特段部隊を分けずに集中突破を予定とのこと。
協力者については不明。
だけれど、高い言語能力を有する少女の存在、使用武器の技術の高さから、誰かあるいはどこかが絡んでいると推察。
その武器だが、単純な槍、弓に加え銃火器も所持。
過去の襲撃においては銃火器の使用は認められず。
この件も含め、第三者の介入は濃厚。
ーー
あの時、渡された私に関する書物。
そこに挟まっていた付箋に一通りのことが書いてあった。
本への書き込みがあったから、もしやと思い探してみたら当たりであった。
この子に会いに来たのは、その裏どりをするため。
残念ながらそれは叶わなかったが、この怯え方を見るに十分である。
この子はリリネットに嘘はついていない。
謝り続ける様子、質問への怯え方から推察できる。
問題があるとすれば、リリネットがパトリシアに嘘をついている可能性だ。
何せ直接口頭で伝えず、回りくどい、嫌がらせのようなやり方だ。
全部嘘という可能性も十分にありうる。
だが、それは考えても仕方がない。
あの男は、この状況を遊戯のように楽しんでいる。
ならば、余計な嘘で場を台無しにしたりはしまーーい、と思いたい。
そこを断言できないのが、恐ろしいところだが。
しかし、彼女の失敗はそのまま領地全体の危機に繋がる。
遊びで大事なものを賭けることしない、と強引に思考を止める。
これ以上は際限がない。
ぐるぐると同じところを回るだけ。
時間の無駄、非合理的。
「じゃあね、お嬢さん。あ、最後に一つ」
去り際に、大事なことを尋ねる。
思い出したように。
質問、というよりは挨拶のような。
「貴方の名前、教えてくれないかしら」
「……××、……×××」
それだけに、少女は答えた。
自分の名前だから。
自分のことだから。
自分にしか、迷惑をかけないだろうから。
だが、パトリシアにはうまく聞き取れなかった。
言語体系が違うからか。
単純に聞こえにくかっただけか。
「そうーーそれはいい名前ね。また会う時があったら、よろしくね」
聞き取れなかった名前を、笑顔とともに褒める。
別段、聞きたかった訳ではない。
名前を聞いてくれた、それだけの事実を相手に残したかっただけ。
ちょっとした心理技術。
効いて入れば何かの役に立つかもしれないし、別に当てにはしていないから効いてなくても問題ない。
おまじない、程度の技術。
そしてそのまま歩みを進め立ち去る。
振り返ることは、
もう、ない。
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