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一章 黒髪令嬢の日常

10.お兄様的アプローチ

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どうしましょう、
どうしましょうか?

使用人は主人の言うことには従わなければなりません。
拒否権なんてものはないのです。
人ではなく、物。
主人にとっての所有物なのですから。

「えっと、その、あの……」

おろおろと言葉に詰まる私。
困りました。
まずいです、まずいですっ!

ーーいっそここで正体を明らかにする、とかどうでしょうか?
いや、これもいけません。
お兄様は、冗談が通じる相手ではありません。
激昂して、きっといつもより酷い仕打ちを受けるに違いありません。

「嬉しさの余り言葉に詰まるか、ますます唆る」

お兄様は笑みを浮かべ、舌を蛇さんのようにペロペロしてます。
やばいです、
怖いです。
これは全然嬉しくありません。

「さあ、オルテシア。こっちへ来い」

お兄様は私の手をとり、
力を込めて握ります。

乱暴なアプローチです。
暴力的な誘い方です。
こんなことだから、良い人ができないのだと思います。

「なかなか良い肌触りだ。少し肉はついていないが、そのか細い感じがまた良い」

またぺろぺろとしてます。
若干、涎が垂れています。
これが我が兄と思うと悲しくなります、いつも以上に。
私を殴っている時のお兄様の方が、まだ格好よく見えます。

「でも、今日は、えっと、あれが、あれなので……」

恐怖と嫌悪感のあまり、言葉がうまく出ません。
あれが、あれって、理由になってません。

お兄様は強引に私を自身の部屋へと引っ張っていきます。
ずずい、
ずずいと、お兄様の部屋への距離が縮まっていきます。

誰か、助けてくださいーー
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