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レン編 同居人が吸血鬼だった話
前世
しおりを挟むロッキングチェアに座り、ゆらゆらと揺れる。
僕の上にはメイが乗って、心臓に耳を当てながら気持ちよさそうにうたた寝している。
もうこの70年で慣れたとても心地好い重みだった。
メイは、何年経っても出会った頃と変わらないまま、若く綺麗な姿でいた。
白髪になった僕の髪が視界に揺れる。
僕は、もうすぐこの綺麗な人をこの世に残して死んでいく。
「一緒に、歳を取りたかったなぁ…」
歳をとって、しわくちゃのおじいちゃんになったメイも、きっと綺麗だ。
しわしわの手で綺麗な金髪の髪を撫でる。
僕の左手にはユエルの指輪がぴったりはまって、それからずっとつけていた。
僕はユエルの生まれ変わりだと言われて、最初は驚いたけど、メイが僕を好きになってくれたのに納得がいった。
僕にとっての初めては、メイにとっての初めてではなくて、何度も前世の自分に嫉妬したけど、今は感謝している。
こんなに愛おしい人と生涯を共にできたのは、前世の自分のおかげだから。
椅子に揺られてだんだんと眠たくなってくる。
メイが目を閉じながら涙を流していた。
「ごめんね、メイ……また、君をひとりに、してしまうよ」
「……ぅっ、ぐすっ、うぅっ、」
「また、待っててくれる…?君を泣かせるこんなひどい僕を」
「ふぅっうっ、待ってるに、決まってる…!」
あぁ、嫌だなぁ。悲しくて涙が流れる。
まだ一緒にいたいのに。
綺麗な君を僕が一番近くで見ていたいのにな。
「メイ、君を、愛してる……」
「うぅっ、俺も、俺も愛してる……!!」
鼓動がゆっくりになっていき、やがて止まる。
意識がじわじわと冷たい闇に包まれて落ちていく。
最後に見えたメイの泣き顔が、とても綺麗だった。
◇
「……」
僕は、暗闇で一人立っていた。
そこは、光一つ差し込まない空間で、狭いのか、広いのかさえわからない。
ここが死後の世界だろうか。
だとしたら、なんて冷たくて寂しい場所だろう。
僕はどうすることもできず、その場でしゃがんで膝を抱えた。
すると、白い蝶が僕の足元に止まっていることに気づいた。
「わっ……ま、まって」
白い蝶がひらひらと飛んでいく。
真っ暗闇に唯一光る白い蝶を追いかけて進んだ。
僕には何も見えないけど、蝶には何か目的があるように前へ飛んでいく。
しばらく追いかけていると、蝶は急に力尽きて地面に落ちた。
「あ……え?」
蝶だったものは白い子犬になった。
きゃん、きゃんと吠えながら走っていく。
必死に追いかけると犬はだんだん成長して大人になったら。
そしてしばらくして老衰して力尽きる。
その次は白い鳥だった。
そうして何度も生まれては死んでを繰り返していく。
それでも一心不乱に、みんな同じ方向へ走っていた。
もうどれだけ進んだのかわからない。
不思議なのはたくさん走っても少しも疲れないことだった。
そうしてやっと、自分の身体が若返っていることに気がつく。
真っ暗闇で見えなかった僕の体が白く光っていたからだ。
前を向くとこれまで見えなかった光が見えた。
なんだか早くあそこに行かなきゃいけない気がして、全力で走り出す。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
どんなに走っても息が切れない。
僕ってこんなに早く走れたっけ。
いやむしろ若い時より身体に力がみなぎっていく。
体がどんどんと光に近づいていく。
そうして目の前の光に飛び込むと、そのまま意識が飲み込まれていった。
『1000年の孤独が対価だよ』
そのとき、頭の中にそんな不思議な声がした。
「ぁ、がっ、はぁっ!はぁっ、はぁっ、はぁっ」
新しい空気を吸い込む。
心臓がバクバクと音を立てて鳴る。
そして、身体にとても心地よい重みを感じた。
「え……レン?」
目を開くと、何よりも愛おしい人が僕の顔を覗き込んでいた。
「メイ……!!」
メイを思い切り抱きしめる。
長い白髪が視界に揺れる。
不思議だ、少しも身体は軋まないし、痛くもない。
僕の身体が若返っていた。
いや、違う、若い頃以上によく聞こえる耳、遠くまで見える目、抜けるようなメイの良い匂い。
僕は吸血鬼になっていたのだ。
「え、なんで……?お前は、死んで、目の前で死んだのに」
メイがポロポロと涙を流す。
それがとても美味しそうだなぁと思って、気づいたら僕は眼球を舐めていた。
「え、あ、なに……」
メイがそれに驚いてきょとんと固まる。
あぁ、すごく可愛い。
メイのとても綺麗な眼球を舐めて味わっていると、メイが顔を背けて目を閉じる。
「あっ、ごめん」
「お前、ふざけん――」
メイがパチリと目を見開いて固まる。
そのまま僕の顔をじっと見ていた。
「……ユエル?」
「うん。そしてレンでもある。僕たち顔一緒でしょ」
メイが、くしゃっと顔を歪めると、涙を溢れさせた。
「あぁ、見える。お前の顔が見える」
「えぇ、ほんとう?」
「お前に舐められて、見えるようになった」
メイが泣きながら、僕の頬に両手を添えてじっと見ている。
僕はメイの手に自分の手を重ねた。
「どう?久々の僕、かっこいい?」
「……お前、レンの時の方が可愛かったよ」
「なにそれぇ!それに僕はユエルでもあるけど、レンでもあるんだからね!」
「ユエルの自我が強すぎんだよ」
何さ、メイはレンのままの方が良かったってわけ!
ぷくっと頬を膨らますと、メイは仕方なさそうに笑ってキスをした。
「ふへ」
メイにされることは何でも嬉しい。
僕はメイを抱きしめて、ゆらゆらと椅子で揺れた。
「僕さ、蝶で犬で鳥だったよ」
「はぁ?」
「ユエルとして死んで、レンになる前。僕は何度も生まれ変わっては死んでた。でも僕は虫になってもメイが好きなままだった!」
暗闇で追いかけた白い動物たち。
あれは紛れもなく僕だった。
「僕は蝶になって、メイっていう綺麗な花に止まっていたくて、ヒラヒラとメイの周りを飛んでいたよ」
「……そういえば、うっとうしい白いのがいたかもな」
「それ絶対僕だよ!メイが大好きで仕方なかった蝶さ」
「そっか……お前ずっと俺のそばにいたんだな」
メイの目から綺麗な涙があふれる。
メイが泣いていても、拭ってあげられる手があることが幸せだった。
「なぁ、セックスしようぜ」
「えっ?」
「いい加減、目隠しプレイは飽きたんだよ」
「もう、メイったら……たまらない」
僕が愛する吸血鬼は、この世で一番可愛くて、エロくて、綺麗だった。
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