1000年前の恋人が忘れられない吸血鬼の話

もちえなが

文字の大きさ
29 / 29
レン編 同居人が吸血鬼だった話

前世

しおりを挟む

ロッキングチェアに座り、ゆらゆらと揺れる。
僕の上にはメイが乗って、心臓に耳を当てながら気持ちよさそうにうたた寝している。

もうこの70年で慣れたとても心地好い重みだった。

メイは、何年経っても出会った頃と変わらないまま、若く綺麗な姿でいた。

白髪になった僕の髪が視界に揺れる。
僕は、もうすぐこの綺麗な人をこの世に残して死んでいく。
 
「一緒に、歳を取りたかったなぁ…」

歳をとって、しわくちゃのおじいちゃんになったメイも、きっと綺麗だ。

しわしわの手で綺麗な金髪の髪を撫でる。
僕の左手にはユエルの指輪がぴったりはまって、それからずっとつけていた。

僕はユエルの生まれ変わりだと言われて、最初は驚いたけど、メイが僕を好きになってくれたのに納得がいった。
 
僕にとっての初めては、メイにとっての初めてではなくて、何度も前世の自分に嫉妬したけど、今は感謝している。
こんなに愛おしい人と生涯を共にできたのは、前世の自分のおかげだから。

椅子に揺られてだんだんと眠たくなってくる。

メイが目を閉じながら涙を流していた。

「ごめんね、メイ……また、君をひとりに、してしまうよ」
「……ぅっ、ぐすっ、うぅっ、」

「また、待っててくれる…?君を泣かせるこんなひどい僕を」
「ふぅっうっ、待ってるに、決まってる…!」
 
あぁ、嫌だなぁ。悲しくて涙が流れる。

まだ一緒にいたいのに。
綺麗な君を僕が一番近くで見ていたいのにな。

「メイ、君を、愛してる……」
「うぅっ、俺も、俺も愛してる……!!」

鼓動がゆっくりになっていき、やがて止まる。
意識がじわじわと冷たい闇に包まれて落ちていく。

最後に見えたメイの泣き顔が、とても綺麗だった。

 



「……」

僕は、暗闇で一人立っていた。
そこは、光一つ差し込まない空間で、狭いのか、広いのかさえわからない。

ここが死後の世界だろうか。
だとしたら、なんて冷たくて寂しい場所だろう。

僕はどうすることもできず、その場でしゃがんで膝を抱えた。

すると、白い蝶が僕の足元に止まっていることに気づいた。

「わっ……ま、まって」

白い蝶がひらひらと飛んでいく。

真っ暗闇に唯一光る白い蝶を追いかけて進んだ。
僕には何も見えないけど、蝶には何か目的があるように前へ飛んでいく。

しばらく追いかけていると、蝶は急に力尽きて地面に落ちた。

「あ……え?」

蝶だったものは白い子犬になった。
きゃん、きゃんと吠えながら走っていく。
必死に追いかけると犬はだんだん成長して大人になったら。
そしてしばらくして老衰して力尽きる。

その次は白い鳥だった。
そうして何度も生まれては死んでを繰り返していく。
それでも一心不乱に、みんな同じ方向へ走っていた。

もうどれだけ進んだのかわからない。
不思議なのはたくさん走っても少しも疲れないことだった。

そうしてやっと、自分の身体が若返っていることに気がつく。
真っ暗闇で見えなかった僕の体が白く光っていたからだ。

前を向くとこれまで見えなかった光が見えた。
なんだか早くあそこに行かなきゃいけない気がして、全力で走り出す。
 
「はっ、はっ、はっ、はっ」

どんなに走っても息が切れない。
僕ってこんなに早く走れたっけ。
いやむしろ若い時より身体に力がみなぎっていく。

体がどんどんと光に近づいていく。
そうして目の前の光に飛び込むと、そのまま意識が飲み込まれていった。

『1000年の孤独が対価だよ』

そのとき、頭の中にそんな不思議な声がした。

「ぁ、がっ、はぁっ!はぁっ、はぁっ、はぁっ」

新しい空気を吸い込む。
心臓がバクバクと音を立てて鳴る。

そして、身体にとても心地よい重みを感じた。

「え……レン?」
 
目を開くと、何よりも愛おしい人が僕の顔を覗き込んでいた。

「メイ……!!」

メイを思い切り抱きしめる。
長い白髪が視界に揺れる。

不思議だ、少しも身体は軋まないし、痛くもない。

僕の身体が若返っていた。
いや、違う、若い頃以上によく聞こえる耳、遠くまで見える目、抜けるようなメイの良い匂い。
 
僕は吸血鬼になっていたのだ。

「え、なんで……?お前は、死んで、目の前で死んだのに」

メイがポロポロと涙を流す。
それがとても美味しそうだなぁと思って、気づいたら僕は眼球を舐めていた。

「え、あ、なに……」
 
メイがそれに驚いてきょとんと固まる。
あぁ、すごく可愛い。
 
メイのとても綺麗な眼球を舐めて味わっていると、メイが顔を背けて目を閉じる。

「あっ、ごめん」
「お前、ふざけん――」

メイがパチリと目を見開いて固まる。
そのまま僕の顔をじっと見ていた。

「……ユエル?」
 
「うん。そしてレンでもある。僕たち顔一緒でしょ」

メイが、くしゃっと顔を歪めると、涙を溢れさせた。

「あぁ、見える。お前の顔が見える」
「えぇ、ほんとう?」
「お前に舐められて、見えるようになった」

メイが泣きながら、僕の頬に両手を添えてじっと見ている。
僕はメイの手に自分の手を重ねた。

「どう?久々の僕、かっこいい?」
「……お前、レンの時の方が可愛かったよ」

「なにそれぇ!それに僕はユエルでもあるけど、レンでもあるんだからね!」
「ユエルの自我が強すぎんだよ」
 
何さ、メイはレンのままの方が良かったってわけ!
ぷくっと頬を膨らますと、メイは仕方なさそうに笑ってキスをした。
 
「ふへ」

メイにされることは何でも嬉しい。
僕はメイを抱きしめて、ゆらゆらと椅子で揺れた。
 
「僕さ、蝶で犬で鳥だったよ」
「はぁ?」

「ユエルとして死んで、レンになる前。僕は何度も生まれ変わっては死んでた。でも僕は虫になってもメイが好きなままだった!」

暗闇で追いかけた白い動物たち。
あれは紛れもなく僕だった。

「僕は蝶になって、メイっていう綺麗な花に止まっていたくて、ヒラヒラとメイの周りを飛んでいたよ」
「……そういえば、うっとうしい白いのがいたかもな」

「それ絶対僕だよ!メイが大好きで仕方なかった蝶さ」
「そっか……お前ずっと俺のそばにいたんだな」

メイの目から綺麗な涙があふれる。
メイが泣いていても、拭ってあげられる手があることが幸せだった。
 
「なぁ、セックスしようぜ」
「えっ?」
 
「いい加減、目隠しプレイは飽きたんだよ」
「もう、メイったら……たまらない」

僕が愛する吸血鬼は、この世で一番可愛くて、エロくて、綺麗だった。
 
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

まぬまぬ
2026.01.14 まぬまぬ

設定が大好きです!
続きを楽しみにしています♪

2026.01.19 もちえなが

ありがとうございます!
ご感想嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

下っ端公務員の俺は派遣のαに恋してる【完結済】

tii
BL
市役所勤めの野々宮は、どこにでもいる平凡なβ。 仕事は無難、恋愛は停滞、毎夜の癒しはゲームとストゼロだけ。 そんな日々に現れたのは、派遣職員として配属された青年――朝比奈。 背が高く、音大卒で、いっけん冷たそうに見えるが、 話せば驚くほど穏やかで優しい。 ただひとつ、彼は自己紹介のときに言った。 「僕、αなんです。迷惑をかけるかもしれませんが……」 軽く流されたその言葉が、 野々宮の中でじわりと残り続ける。 残業続きの夜、偶然居酒屋でふたりきりになり―― その指先が触れた瞬間、世界が音を立てて軋んだ。 「……野々宮さんって、本当にβなんですか?」 揺らぎ始めた日常、 “立場”と“本能”の境界が、静かに崩れていく。 ☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。 【第13回BL小説大賞】にエントリーさせて頂きました! まこxゆず の応援 ぜひよろしくお願いします! ☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。

琥珀の檻

万里
BL
砂漠の王国の離宮「琥珀の間」で、王・ジャファルは、異母弟であるアザルを強引に抱き、自らの所有物であることを誇示していた。踊り子の息子として蔑まれ、日陰の存在として生きてきたアザルにとって、兄は憎悪と恐怖の対象でしかなかった。 しかし、その密事を見つめる影があった。ジャファルの息子であり、次期王位継承者のサリムである。サリムは叔父であるアザルに対し、憧憬を超えた歪な独占欲を抱いていた。 父から子へ。親子二人の狂おしい執着の視線に晒されたアザルは、砂漠の夜よりも深い愛憎の檻に囚われていく。

神様は僕に笑ってくれない

一片澪
BL
――高宮 恭一は手料理が食べられない。 それは、幸せだった頃の記憶と直結するからだ。 過去のトラウマから地元を切り捨て、一人で暮らしていた恭一はある日体調を崩し道端でしゃがみ込んだ所を喫茶店のオーナー李壱に助けられる。 その事をきっかけに二人は知り合い、李壱の持つ独特の空気感に恭一はゆっくりと自覚無く惹かれ優しく癒されていく。 初期愛情度は見せていないだけで攻め→→→(←?)受けです。 ※元外資系エリート現喫茶店オーナーの口調だけオネェ攻め×過去のトラウマから手料理が食べられなくなったちょっと卑屈な受けの恋から愛になるお話。 ※最初だけシリアスぶっていますが必ずハッピーエンドになります。 ※基本的に穏やかな流れでゆっくりと進む平和なお話です。

今さら嘘とは言いにくい

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
オレ、蓮田陽介と大津晃は、同じ独身男子寮に住む仲間だ。学生気分も抜けずに互いにイタズラばかりしている。 ある日、オレは酔いつぶれた晃に、「酔った勢いでヤっちゃったドッキリ」を仕掛けた。 驚くアイツの顔を見て笑ってやろうと思ったのに、目が覚めた晃が発したのは、「責任取る」の一言で――。 真面目な返事をする晃に、今さら嘘とは言いにくくて……。 イタズラから始まる、ハイテンション誤解ラブコメ!

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

【完結】名前のない皇后 −記憶を失ったSubオメガはもう一度愛を知る−

社菘
BL
息子を産んで3年。 瀕死の状態で見つかったエリアスは、それ以前の記憶をすっかり失っていた。 自分の名前も覚えていなかったが唯一所持品のハンカチに刺繍されていた名前を名乗り、森の中にひっそりと存在する地図上から消された村で医師として働く人間と竜の混血種。 ある日、診療所に運ばれてきた重病人との出会いがエリアスの止まっていた時を動かすことになる。 「――お前が俺の元から逃げたからだ、エリアス!」 「本当に、本当になにも覚えていないんだっ!」 「ととさま、かかさまをいじめちゃメッ!」 破滅を歩む純白竜の皇帝《Domアルファ》× 記憶がない混血竜《Subオメガ》 「俺の皇后……」 ――前の俺?それとも、今の俺? 俺は一体、何者なのだろうか? ※オメガバース、ドムサブユニバース特殊設定あり(かなり好き勝手に詳細設定をしています) ※本作では第二性→オメガバース、第三性(稀)→ドムサブユニバース、二つをまとめてSubオメガ、などの総称にしています ※作中のセリフで「〈〉」この中のセリフはコマンドになります。読みやすいよう、コマンドは英語表記ではなく、本作では言葉として表記しています ※性的な描写がある話数に*をつけています ✧毎日7時40分+17時40分に更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

【完結】エデンの住処

社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。 それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。 ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。 『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。 「兄さん、僕のオメガになって」 由利とYURI、義兄と義弟。 重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は―― 執着系義弟α×不憫系義兄α 義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか? ◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·

甘くてほろ苦い、恋は蜜やかに。

米粉あげぱん
BL
紅い唇は、物足りなさそうに震えるーー。 御堂 和樹(みどう かずき)と三神峯 景(みかみね けい)は、都内の大手有名製薬会社に勤める営業部の主任と薬事研究課で日々研究を重ねる薬剤師。 普段の業務ではなかなか関わらない二人だが、大阪での仕事で一緒になったことがきっかけで互いに惹かれ合う。 同じ会社の社員同士で、男同士。これ以上踏み込んではいけないと思いつつ、その感情は止まることを知らない。感情のままに噛みついた唇は、拒まれればすぐに離すつもりだった。 彼に会うたび、触れるたび、夢中になっていく。 ーー嬉しいことも辛いことも、一緒に背負っていきたい。 甘くほろ苦い、二人だけの秘密の恋。 ※表紙は漫画家の星埜いろ様に描いていただきました!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。