俺の運命が双子の片割れだった話

もちえなが

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オーケストラ


ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。

まずは麗音のピアノから始まる。
夜通し練習した曲だ。

確実に昨日より硬さがなくなって良くなってるし、悲壮感漂う重厚なメロディーに感情が乗っている。
何より、麗音がちゃんと楽しんで弾いているのがわかる。

昨日とはまるで違う音色に、山形も驚いたのか目を見開いた。

そして、指揮の合図とともに弦楽器がピアノに音を乗せていく。

昨日、麗音のピアノの音が呑まれていると言われたのは、麗音だけのせいじゃない。
俺たちオーケストラも、ピアノを主役として立てていなかったからだ。

俺は、周りの音を聞きながら、調和を意識して主張を控えた。

そうして管楽器達も音を鳴らし、徐々にアンサンブルが厚くなっていく。

さすがは選りすぐりの生徒達だ。
しっかり昨日の課題を直してきている。

ピアノの美しい旋律と、それに乗せて、より世界観に奥行きをもたらしているオーケストラのアンサンブル。

まだ完璧とはいえず、山形からの指摘が入るが、確実に昨日より良くなっていた。

本番まであと一カ月。
演奏会の準備には、かなり短い期間だ。

この高校のほとんどの学生が、留学やコンクールの準備など、将来プロとして活躍するために、1日休みのないスケジュールで練習している。

そのため、定期演奏会の準備に時間を取ることができないのだ。

学校で選抜された生徒のため、一定以上の実力は伴っている。
ただ、学年の違いもあるし、コンクール常連の者や、リチャードのように本場で身を置いてきた者はごく一部で、個人としての実力差は大きい。

オーケストラとしてやる以上、統一感を持たせるというのが俺、コンマスの仕事なのだが…。

(ただでさえ集団行動が苦手なのに、俺にできんのかな……)


「今日の練習は終わりだ。引き続き次回までに指摘した部分を改善してくるように」
「「「はい!」」」

あっという間に2時間経ったのか、今日の合同練習も終了した。

「解散、する前に、清白兄弟」
「「はい」」

「準備してきたか?」

え、いきなりみんなの前でやるの。

麗音と顔を見合わせて、しばらくして頷いた。

「本番では特別演目として、清白兄弟にデュオをしてもらうことになった」
「「「おーー!!!」」」

「お前らは、二人のデュオを聞いてから帰れ」

まったく勝手だな、山形は。
生徒達が期待の目を向けている。

高校に入って、人前で麗音とのデュオをやるのは初めてだった。

立ち上がると、麗音の横に立つ。

「麗いける?」
「もちろん」
 
パガニーニの『ラ・カンパネラ』
俺と麗音の一番好きな曲。

麗音と顔を見合わせると、麗音が鍵盤の上に手を置いた。

D♯のオクターブがゆっくり鳴らされる。

この音を聞けば、すぐに『ラ・カンパネラ』だとわかるだろう。
まさかデュオでやると思われなかったのか、小さなどよめきが起こる。

この曲は、ピアノの曲として有名だが、本当はヴァイオリンの曲なのだ。

もちろんヴァイオリンとピアノのデュオを想定した曲ではない。
ヴァイオリンが主旋律を弾いて、ピアノが伴奏をすることもあるが、俺たちはだいぶアレンジしていた。
 
小さく澄んだ鈴の音のような旋律が紡がれる。
ピアノとしても最高難易度の曲だ。
高速な指さばきと繊細で統一感のあるタッチが要求される。

しばらくピアノの独奏が続き、俺はゆっくりヴァイオリンを構える。

そうして、主旋律を交代する形で俺がメロディーを紡いだ。
ピアノの繊細で透明感のある音色から打って変わり、大胆で情緒的な音色で魅了していく。

パガニーニは、悪魔に魂を売ったと噂されるほど、中毒性のある魔性のメロディーだ。
 
そんな主旋律をピアノから始まりヴァイオリンが追いかける形で、交互に交代していく。
どちらが伴奏に徹するわけではなく、お互いが主役であり、二つの異なる音色が複雑に絡み合うのだ。

元々、家で麗音が練習していたのを、俺がヴァイオリンで入って始まった遊びだった。

二人で会話をしているような掛け合いをしながら、音で戯れる。

もう何十回、何百回と弾いた曲。
溜め方も、細かく跳ねるところもすべて息がぴったりと合う。

そしてクライマックスには同時に主旋律を弾いて、山場へ盛り上げていった。
気分が高揚して口角が上がっていく。

「あっはは!ちょっと最後溜めすぎたかも」
「ふふ、でもその方が気持ちいいよね」
「うん、最高」

最後まで完璧に揃った気持ちよさから、いつものテンションのままに麗音に話しかけた。

そうして二人で言葉を交わして数秒、ここが家の防音室じゃないことに気づいた。

「「あ……」」

「「「うおおおーーー!!!!」」」」

音楽室に大きな拍手が鳴り響く。

完全に二人の世界に入り込んでいて、人前なのを忘れていた。
 
「お前ら!二人のデュオは良い刺激になっただろう。清白兄弟は間違いなく同年代でトップレベルの奏者だ。そしてお前たちはそいつらと同じオケの一員、チームだ。」
「「「はい!」」」

「今後、絶対に二人の音を生で聞き、一緒にオケをした経験が活きる。お前ら仲良くなるなら今だぞ?
そして響雅はコンマスだ。オケのことはこいつに何でも聞いておけ!」
「は……?」
「「「うおおおおおお!!!」」」

「では解散!!」

山形が合図をした瞬間、俺と麗音が一気に取り囲まれる。
楽器を持っているため押し合うことはないが、一斉に話しかけられて、てんやわんやの状態だった。

「おいお前ら!列に並べ列に!」

山形が面白がって外から茶々を入れてくるのに、殺意を湧かせながら、俺たちは一人一人の相談を聞くことになった。

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