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プロローグ
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あー、シンプル詰んだわ。
悟り開いてお坊さんになろうかな………。
「あ、あのっ……!」
水揚げされてもがく一匹の魚みたいな勢いで立ち上がる。視界に映る3人の美少女は一斉にこちらを振り向き、怪訝な顔つきで私を見ていた。みんなには私が『HP残高1』の、攻撃を受けたら即死状態みたいな死人のように映ってるのだろうか。目はバッキバキ、頭はくらくら。足ふらふら。目バキさんなんて呼ばれた日には私はまた不登校になってしまうんだけど、それくらいには精神錯乱中なのだ。
「なぁーに」「どうかしたのー?」「慌ただしいわね。っるさいなあ……」
うぅ……。
視線が痛い。
特に私の真正面の席に座っている桜凪さんからは途轍もないほどに、ひしひしと感じられる。そんな彼女と目を合わせるわけにもいかず私は即刻退散することに。だって、「俺と目が合ったらバトルスタートだ!」の桜凪さんだよ?そんなのビームくらって即死でしょ。
「ご、ごめんなさいぃぃいいー!」
昼休憩の廊下は学食に行く人が多くてまばらだ。すれ違う人にどう思われようが知らんとやけくそになりながら廊下を走り中庭まっしぐら。夏に差し掛かるこの季節はぽかぽかとしていて私の満身創痍な体に染み渡る。
「はあ、こーゆーのでいいんだよ」
中庭の裏手に行くとそこには喫煙スペース。さらにはなんと、テーブルにプラスチック製の長いすつき。一人で使うには少し贅沢すぎるような気もするが……。べつに私が煙草を吸いに来たんじゃないよ!もともと、教員用の喫煙スペースだったが敷地内全域で禁煙となって、取り壊されることもなく残ったのがこの建物なのだ。少し寂れているものの、生徒の間ではあまり知られておらず個人的には穴場スポットである。
「ひとり、さいこぉー!」
やっぱり、ぼっち・コミュ障・根暗の三重奏をもった私には生粋の陽キャ生活なんて無理だったのだ。そんなことを痛感したここ2週間。高校入学という目に見える変化を浴びたとしても、根はそうそう変わらない。lv.1の勇者が装備なしに魔王城に突っ込むようなものなのだ。結局、無謀すぎる、と夜のベッドで泣き言を繰り返す日々。
私――伏見あかねは、高校デビューに失敗した高校一年生だ。
中学の私は、「あっはい」「あのぉー……」に加えて首の上下運動とかいう人類の3大叡智を以て、学校に出向いていたわけだが。すぐに限界が来たのだ。別に一匹狼を演じたかったわけでもないし、おひとり様扱いされたかったわけでもない。だというのに世界は残酷だ。私は中学入学3日で孤立し、ぼっちまっしぐら。
そんな私に手を差し伸べてくれたグループがあった。当時の私にはその手がすごく眩しく見えて。中学校生活も半年が経過すると、その輪に入って4人グループで身を固めていた。彼女たちのために飲み物や学食を買ったり、宿題の答えを移させてあげたり。少し嫌だったけど、3人が私に「ありがとう、あかねちゃん」って言ってくれるたびに、まあいいやっていう気持ちになった。みんなの役に立てているなら私、このグループに居ていいんだって感じさせてくれたから。思えばこのときの私はうまくやれていた、と。本気でそう信じてたんだろう。
――それが音も立てず崩れたのは、ある一件のメッセージ。
『てかさ、あの奴隷、最近オンボロ雑巾みたいじゃね?』
グループLINEに投下された瞬間、それがだれのことか分かった。と同時に今までの皆の言葉を思い返す。
皆私に感謝してくれて。ありがとうって言ってくれて。
「ジュース買ってきて」「代わりに食堂で買ってきてくんね?」「あかねちゃん、ありがとう」「お金今ないから、また今度返す」「あかねちゃん」「おいあかね――」「―――」「――」
あれ……そう言えば会話中、他3人の誰かが自分に視線を向けたことって――。
それから私は不登校になった。
こんな私が悪いんだよ。皆はただ私に相応しい立ち位置を考えてくれた”善い人”なんだよ。そうやって部屋に閉じこもり自分に言い聞かせてSNSを見て心を満たす。その繰り返し。
ある日のことだった。偶然にも3人が遊んでいる写真が流れてきた。皆普通の女の子みたいにくしゃっと笑ってたのだ。私を召使いみたいに利用してたこの人たちは今をとても楽しんでいる。一方私は薄暗い部屋の隅、毛布で身をくるみながら過去を引きずっている。
――どうして自分は、この人たちに人生を台無しにされてるのだろう?
だってこのままじゃ、一生外の世界を恐れ部屋に閉じこもる。
何もせずに大人になって無機質にスマホの液晶画面をリールし続ける、生きた人形みたいな生活をするでしょ……?
そんな、そんなの。
――嫌に決まってるだろうがぁああああああああああああああああ!
そして私はあいつらに復讐心を焚ぎつけながら立ち上がった。絶対に幸せになって見返してやろう。絶対、可愛い女の子のグループに入ってたくさん遊んで、イケメンの彼氏を作って恋バナとかもして。アオハルな高校生活を謳歌するんだぞあかね!
まず私の過去を知る人間を排除するために、県立トップの高校に。もともと自頭が特別良いわけでもなかったが、運がいいことに母親は専業主婦になる前は教師だった。受験直前は生気を失うほどに勉強し、迎えた合格発表。
見事合格してた。ボロカス泣いた。
次に自信を陽キャマンに変身させるために陽キャの模倣をした。生憎、私のとっもにその属性の人間はおらず(というか、いたらこんな性格ではない)同じ高校に合格した陽キャっぽい人のSNSアカウントを数人フォロー。ひたすらに彼ら彼女らの嗜みを理解、吸収、実践。ファッションや髪型を変え、オタク特有の話し方をやめ、猫背気味の姿勢を整えた。
かくして高校デビューに辿り着いたわけであるが、私――伏見あかねは、ハードモードな人生を思い知ることとなるのだ。
悟り開いてお坊さんになろうかな………。
「あ、あのっ……!」
水揚げされてもがく一匹の魚みたいな勢いで立ち上がる。視界に映る3人の美少女は一斉にこちらを振り向き、怪訝な顔つきで私を見ていた。みんなには私が『HP残高1』の、攻撃を受けたら即死状態みたいな死人のように映ってるのだろうか。目はバッキバキ、頭はくらくら。足ふらふら。目バキさんなんて呼ばれた日には私はまた不登校になってしまうんだけど、それくらいには精神錯乱中なのだ。
「なぁーに」「どうかしたのー?」「慌ただしいわね。っるさいなあ……」
うぅ……。
視線が痛い。
特に私の真正面の席に座っている桜凪さんからは途轍もないほどに、ひしひしと感じられる。そんな彼女と目を合わせるわけにもいかず私は即刻退散することに。だって、「俺と目が合ったらバトルスタートだ!」の桜凪さんだよ?そんなのビームくらって即死でしょ。
「ご、ごめんなさいぃぃいいー!」
昼休憩の廊下は学食に行く人が多くてまばらだ。すれ違う人にどう思われようが知らんとやけくそになりながら廊下を走り中庭まっしぐら。夏に差し掛かるこの季節はぽかぽかとしていて私の満身創痍な体に染み渡る。
「はあ、こーゆーのでいいんだよ」
中庭の裏手に行くとそこには喫煙スペース。さらにはなんと、テーブルにプラスチック製の長いすつき。一人で使うには少し贅沢すぎるような気もするが……。べつに私が煙草を吸いに来たんじゃないよ!もともと、教員用の喫煙スペースだったが敷地内全域で禁煙となって、取り壊されることもなく残ったのがこの建物なのだ。少し寂れているものの、生徒の間ではあまり知られておらず個人的には穴場スポットである。
「ひとり、さいこぉー!」
やっぱり、ぼっち・コミュ障・根暗の三重奏をもった私には生粋の陽キャ生活なんて無理だったのだ。そんなことを痛感したここ2週間。高校入学という目に見える変化を浴びたとしても、根はそうそう変わらない。lv.1の勇者が装備なしに魔王城に突っ込むようなものなのだ。結局、無謀すぎる、と夜のベッドで泣き言を繰り返す日々。
私――伏見あかねは、高校デビューに失敗した高校一年生だ。
中学の私は、「あっはい」「あのぉー……」に加えて首の上下運動とかいう人類の3大叡智を以て、学校に出向いていたわけだが。すぐに限界が来たのだ。別に一匹狼を演じたかったわけでもないし、おひとり様扱いされたかったわけでもない。だというのに世界は残酷だ。私は中学入学3日で孤立し、ぼっちまっしぐら。
そんな私に手を差し伸べてくれたグループがあった。当時の私にはその手がすごく眩しく見えて。中学校生活も半年が経過すると、その輪に入って4人グループで身を固めていた。彼女たちのために飲み物や学食を買ったり、宿題の答えを移させてあげたり。少し嫌だったけど、3人が私に「ありがとう、あかねちゃん」って言ってくれるたびに、まあいいやっていう気持ちになった。みんなの役に立てているなら私、このグループに居ていいんだって感じさせてくれたから。思えばこのときの私はうまくやれていた、と。本気でそう信じてたんだろう。
――それが音も立てず崩れたのは、ある一件のメッセージ。
『てかさ、あの奴隷、最近オンボロ雑巾みたいじゃね?』
グループLINEに投下された瞬間、それがだれのことか分かった。と同時に今までの皆の言葉を思い返す。
皆私に感謝してくれて。ありがとうって言ってくれて。
「ジュース買ってきて」「代わりに食堂で買ってきてくんね?」「あかねちゃん、ありがとう」「お金今ないから、また今度返す」「あかねちゃん」「おいあかね――」「―――」「――」
あれ……そう言えば会話中、他3人の誰かが自分に視線を向けたことって――。
それから私は不登校になった。
こんな私が悪いんだよ。皆はただ私に相応しい立ち位置を考えてくれた”善い人”なんだよ。そうやって部屋に閉じこもり自分に言い聞かせてSNSを見て心を満たす。その繰り返し。
ある日のことだった。偶然にも3人が遊んでいる写真が流れてきた。皆普通の女の子みたいにくしゃっと笑ってたのだ。私を召使いみたいに利用してたこの人たちは今をとても楽しんでいる。一方私は薄暗い部屋の隅、毛布で身をくるみながら過去を引きずっている。
――どうして自分は、この人たちに人生を台無しにされてるのだろう?
だってこのままじゃ、一生外の世界を恐れ部屋に閉じこもる。
何もせずに大人になって無機質にスマホの液晶画面をリールし続ける、生きた人形みたいな生活をするでしょ……?
そんな、そんなの。
――嫌に決まってるだろうがぁああああああああああああああああ!
そして私はあいつらに復讐心を焚ぎつけながら立ち上がった。絶対に幸せになって見返してやろう。絶対、可愛い女の子のグループに入ってたくさん遊んで、イケメンの彼氏を作って恋バナとかもして。アオハルな高校生活を謳歌するんだぞあかね!
まず私の過去を知る人間を排除するために、県立トップの高校に。もともと自頭が特別良いわけでもなかったが、運がいいことに母親は専業主婦になる前は教師だった。受験直前は生気を失うほどに勉強し、迎えた合格発表。
見事合格してた。ボロカス泣いた。
次に自信を陽キャマンに変身させるために陽キャの模倣をした。生憎、私のとっもにその属性の人間はおらず(というか、いたらこんな性格ではない)同じ高校に合格した陽キャっぽい人のSNSアカウントを数人フォロー。ひたすらに彼ら彼女らの嗜みを理解、吸収、実践。ファッションや髪型を変え、オタク特有の話し方をやめ、猫背気味の姿勢を整えた。
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