七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる

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第12話 当日・黄昏

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 当日黄昏、海は鉄色に沈んでいた。

 中枢室の窓越し、水平線に白い筋が幾重にも立つ。神罰波形の立ち上がりだ。
 時間はもはや“選ぶ”対象ではない。“削る”対象になっていた。

 ローデンは操作卓の前で両手を背に組み、静かに言う。

「避難は間に合わない。下層を受け皿にして中枢を残せば、港は再建できる」

 イオナは欠落台帳の頁を開き、卓へ突きつけた。

「再建する港に、この八百二十三人は含まれてる?」

 ローデンは視線を落とさない。

「全体損失を最小化するには優先順位が必要だ」
「その計算式は、最初に人間を変数から外してる」

 ガルムが第三ハンドルへ手を掛けたまま告げる。

「理屈は後で殴り合え。手順を決めろ」

 イオナは配線図の最終案を読み上げる。

「潮汐連動錘で保持ハンドルを固定。反転完了で自動解放。手動残留を回避する」

「成功率は」
「六割」

 低い。だがゼロではない。

 ローデンが嘲るように笑った。

「六割に港を賭けるのか」
「八百二十三人をゼロ扱いするより高い」

 窓外に旗信号が上がる。メラ班から最終避難列離脱の合図。

 ガルムが号令を飛ばした。

「実行する。第一遮断!」

 補助柱の発光が一段落ちる。
「第二逆位相!」
 計器針が危険域の縁で震える。

 イオナは潮汐錘の留め具を打ち込み、ガルムは第三ハンドルを押し込んだまま微動だにしない。

「今!」

 解放鎖を引く。錘が落ち、室内に金属の悲鳴が響く。
 補助柱の光が一瞬だけ跳ね上がり、計器盤の赤灯が点滅した。

 誰も息をしない。

 次の瞬間、針がゆっくり下がり始める。
 赤から橙、橙から黄。

「反転した……」

 イオナの声は掠れていた。
 神罰波形が減衰側へ倒れる。

 ローデンは無言で計器を見つめ、やがて低く言った。

「君は管理を壊した」
「違う。管理に人間を戻した」

 外から、歓声とも嗚咽ともつかない声が届く。高台へ上がった住民たちが、崩れなかった港を見ている。

 黄昏の光が中枢室へ差し込み、白く灼けていた補助柱の色を鈍くした。
 当日の地獄は、ぎりぎりで止まった。
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