魔王の嫁になった件!

海里

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魔王の嫁になった件!

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「お前、今日から魔王の嫁ね」
「……言っている意味がわからんのだが」
「二十歳で独り身だし、丁度いいから魔王の嫁になっておいで。数十年に一度嫁にいかせるの。今年はうちの番だったのすっかり忘れていてさー」

 父親からの説明を受けて、はいそうですか、なんて言えるはずもなく俺は盛大に抗議した。魔王ってなんだ、嫁ってなんだ、生贄ってことじゃねーか! と。だが父親はそんな俺の抗議を、徹底的に無視して魔王城へと移動させてすたこら帰っていった。
 目隠しをされていたせいで、ここがどこだかさっぱりわからん。もう薄暗いしとりあえず、魔王なんてもんが本当に居るかも謎だし、一応中へ入ってみることにした。

「すみませーん、嫁に来ましたー」

 自分で言ってサブイボが立った。さすさすと腕を擦って、魔王城へと乗り込む。武器も何も持っていないから、下手したら死ぬな、これは……。全然見たことないけど魔物とかも居るのかね……?
 そもそも魔王とやらも俺のようなぱっと見悪役顔のヤツを嫁にするとも思えんし、まぁ気楽に行くか。そもそも親父が俺を嫁にしようとしたのも、多分この顔が原因だろうしな。家族の中で三白眼の悪人顔をしているの、俺ひとりだし。

「……誰も居ないのか?」

 とりあえず歩いていく。この魔王城広いけど掃除はあんまりされてないみたいで埃っぽい。んー……やることねぇし、俺が掃除しても良いんだけど、どこにどれがあるのかさっぱりだし、まずは魔王に会うことが大事だよな。
 そう思ってとりあえず魔王を探すことにした。どこに居るんだか。
 部屋を開けては確認して閉めるを繰り返すこと数十回――……広い、無駄に広いぞこの魔王城……。謁見室みたいなところを発見したから入ってみる。すると、おぎゃあおぎゃあと泣いている声が聞こえて、慌てて玉座に近付いた。玉座の上に居たのはやっぱり赤ん坊で、目いっぱい泣いていた。もしかして、この子が魔王? って、んなワケねーよな……。……ないよな?
 触った途端に俺、殺されたりするのかな、と思いつつもこんなに一生懸命泣いている赤ん坊を放置できるワケもなく、そっと抱き上げた。泣き止むように何とかあやそうとしたけれど、ずっと泣いたままだ。

「腹でも減ってんのかね?」

 そう言えばさっき見つけた部屋のひとつにキッチンみたいなところがあった。とりあえず、そこでミルクがあるかどうか見に行くか。赤ん坊を抱いたままキッチンへ行って、手当たり次第に色々探してみると、ミルクとか哺乳瓶が発掘された。……これ、このまま使って大丈夫なのか……? とちょっと不安に思っていると、赤ん坊が泣き疲れたのか寝てしまった。
 俺もちょっと疲れた。客間みたいなところもあったから、そこまで赤ん坊を連れて一緒にベッドの上に寝転んだ。しっかし、こんな小さい赤ん坊がどうして玉座に居たんだろう。

「……おいおい、俺はお前のママじゃねぇぞ」

 赤ん坊はなぜか服の上から俺の乳首を吸っていた。んなとこ吸っても腹は膨れないだろうに。ぽんぽんと背中を軽く叩いてみたけど、やめる気はないらしい。まぁ、赤ん坊のすることだし、と目を閉じた。




「にんげん、おきろ、にんげん!」
「ぁあ?」

 気が付いたら眠っていたらしい。幼い声に起こされてベッドから起き上がると、あの赤ん坊の姿はなくて代わりに三歳くらいの子どもが居た。……俺を起こしたのは多分、こいつなんだろう。

「んん? あの赤ん坊どこ行った」
「ここにいる!」
「は?」

 銀髪紫目の子どもが、胸を叩いた。……まぁ、確かに面影はあるが……。何でこんな急に成長してんだ?

「おれさまがまおうだぞ!」
「……へー……、わりぃな、寝るわ」

 そう高らかに宣言されたけど、まだ眠いから二度寝をすることに決めてベッドに再び寝転ぶ。それを慌てたように子どもが阻止しようとするが、いかんせん子どもの力だ。俺はその子どもも一緒に眠るように誘ってみた。すると、素直にベッドに横になった。
 そしてまた俺の乳首を吸う。

「……ミルク出ねぇよ?」
「しってる」

 じゃあ何で吸ってんだ……?
 やっぱり腹減ってんじゃ……。だとしたらこのまま寝るのも悪いか? そう思って起き上がろうとしたけれど、眠さには勝てなかった。
 そして、次に目覚めた時にはめっちゃイケメンが隣で眠っていてビビった。

「え、どちら様?」
「魔王だ!」

 ……そうかい。魔王って本当に居たんだ。って、違う違う。俺は起き上がってそのイケメンに向かって「あの赤ん坊たちは?」と尋ねた。まぁ、どんな返事かは想像がつくけどよ。

「もちろん、あれらもオレ様だ!」
「だよねー」

 何で赤ん坊の姿だったんだ? と魔王と名乗る青年? を見る。女性が羨ましがるような銀色の長髪に、楽しげに細められたアメジストのような瞳。すらりとした鼻筋に薄い唇。ほー、これは女が黙っていないな。

「歓迎するぞ、花嫁!」
「……は?」

 てっきり追い出されるかと思っていたから魔王のその言葉は意外の一言だった。いやいやいやいや、ちょっと待て。――こいつ本当に俺を娶る気かよ?

「ちょっと待て、落ち着け魔王とやら」
「どうした花嫁」
「何でそんなに乗り気なんだ?」

 本気でこんな悪人顔の俺を嫁にする気か!?
 訝しむように魔王を見ると、彼は首を傾げた。もしかして、花嫁とかどういうことなのかわかってない?

「だって、嫁いで来たんだろ?」
「……そんな理由で良いのかよ!?」

 思わず大声が出た。魔王よ、その考え方はどうなんだ……!

「それに――……」

 魔王は起き上がると俺の手首をぎゅっと握った。俺が怪訝そうに眉間に皺を刻むと、そこに唇が押し付けられた。――今、こいつ何やった……!? 眉間に唇を押し当てる行為をするとは何事か。

「お前の魔力はうまい」
「……あー、なるほど。俺は食材かー」

 生贄ってワケね。なるほど納得。……納得してどうする、俺……! ともかく、魔王を押しのけて顔を背ける。魔王は押しのける俺の手を掴んで、ちゅっと口付ける。

「な、何やってんだ!」
「……キス?」

 なんで疑問形なんだよ……。俺は混乱する頭をどうにか落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。大分落ち着きが戻ったところで、人の手をちゅっちゅとしゃぶる魔王から何とか逃れて、ベッドから抜け出した。

「何で逃げるんだ、花嫁」
「……とりあえず、落ち着いて話し合おう」
「オレ様は落ち着いてるぞ!」

 にかっと笑う魔王に、俺は深いため息を吐いた。
 それから俺らは現状について話し合う。俺は花嫁になれと言われて強制的にここに来たことを、魔王はこの城が何でこんな風になっているかを。
 なんでも、数十年に一度花嫁を贈るという生贄的な……いや、生贄か? 人物が全然現れなくて、俺が丁度百年目の花嫁らしい。魔物たちは魔王の魔力を糧にしていたから、魔王が魔力不足だと起き上がれないらしく、地下でただ眠っているとのこと。

「花嫁不足だったのだ!」
「明るく言うことか、それ?」

 魔王や魔物にとってはあまり良くないことなのでは? って言うか、生贄に出された人たちどこ行ったんだ? 色々気になることはあるけれど、ともかくやっぱり彼は魔王らしい。

「そもそも花嫁ってどういう事なんだよ。男でも良いのか?」
「高い魔力を持っていれば男女関係ないぞ!」

 そんなもんなのか。……俺ってそんなに魔力高くないと思うんだけど。ぼんやりとそんなことを考えていたら、ぐいっと腕を引かれて魔王の胸に飛び込む形になった。すんすんと俺の匂いを嗅いで、すりすりとすり寄ってくる。猫か、お前は猫なのか……!?

「懐かしい匂いがする」
「は?」

 どさっとベッドに押し倒された。魔王の瞳は爛々と輝いていて、ぺろりと赤い舌で唇を舐める。おい、それやると唇が荒れるらしいぞと現実逃避のツッコミをしつつ、餌になるのかと頭の隅で考えて短い人生だったなと目を伏せる。
 すると、魔王が俺の頬に手を添えて何か柔らかいものを唇に押し当てる。ん? と思っているとツンツンと分厚いもので唇を突かれて、驚いて目と口を薄く開くと、目の前には誰かのドアップ、口内には熱いものが入ってきて何事だと声を上げようとした。

「――ん、っ、ぁ……!」

 口内をくまなく舐める魔王。驚いて引っ込めた舌を絡めとり、水音が耳元で響く。な、何でキスしてるんだ!? とぐるぐる思考が回る。ちょっと待て、と魔王の背中をバシバシ叩くと、不満そうに魔王が口を離した。

「む、何故止める」
「そりゃ止めるだろ! お前、何しようと――……!」
「花嫁とすることなど、ひとつに決まっているだろう!」
「……はぁ?」

 ……って言うか俺の呼び方花嫁で定着されてる!? って変なことに気付いた。そもそも自己紹介もしていないのだから、呼び方がわからないのは当たり前か。

「大丈夫だ、ちゃんと気持ちよくさせるから」
「いや、ちょっと待て。俺とお前が出会って数時間しか経ってないぞ。大体、こんな埃っぽいところで何やろうとしてんだ」
「埃っぽくなければ良いのか?」

 ぱちん、と魔王が指を鳴らすと、ぱっとどこかに出た。めちゃくちゃゴージャスな部屋で、すっげー広いベッドの上だ。……どこココ?

「オレ様の寝室だ。ここだけは魔法で埃ひとつ入らないようにしていたからな!」
「何で!?」
「そりゃあ、花嫁と寝るために。つい盛ってしまったが……」

 照れるな、そこで照れるな……!

「この場所なら問題ないだろ?」

 にやっと笑う魔王に、俺は何も言えなかった。




「……ッ、ぁ……」

 うつ伏せになって尻を高く持ち上げられて後孔に指を挿れられるってどういう状況なんだ……。さっきまでさんざんと弄られていた乳首も熱を持っていてジンジンしているし、何度イかされたのかもう覚えていないしいっそこの記憶をなくしたい。

「大分柔らかくなってきたな」

 楽しそうに指を動かして広げていく。ナカのしこりをぐりっと押されて逃げるように腰が動くが、魔王はがしっと腰を掴んで更にソコばかりを刺激する。

「ぅぁッ、や、そこ、やめ……!」
「イヤ? 良いの間違いだろう?」

 口調も変わってやがる……! ぐっと何度も押されてビクビクと躰が震える。二本目の指が入ってきて、ナカを広げるように指が動く。円を描くように動かされて、思わず枕に顔を埋める。

「とはいえ、痛いのはイヤだろうから、これを使うか」

 ポンっと軽い音がして、さらに何かを開ける音がした。とろりと後孔に液体の感覚が。な、何を流されているんだ……!?

「な、なに、して……ッ」
「気持ち良くなる薬だ。痛みなんて感じさせない」

 ナカの深いところに流し込むように指が動く。そのたびにビクンと躰が跳ねた。……あ、何だか頭がふわふわしてきた。ナカも熱くて蕩けそう。躰の変化に戸惑っていると、「すまん」と聞こえてきた。

「え? ぁ。ぁあぁああッ!」

 指が抜かれたと思ったら、それより質量も熱量もあるものが入って来た! さっきの液体の効果か、痛みはない。痛みはないけど――……ッ!

「――ッ、ぁっ、ああっ」
「ッ」

 腰を掴んで、ピストンを始める魔王。彼が動くたびに声が出て、枕を噛む。こんな自分の声、聞きたくない! 俺がそう思っても、魔王はそうではないらしく、挿れたまま俺の足を掴んで開き、反転させるように動かす。枕を掴んだままの俺の手から、枕を取り上げてじっと俺を見つめる。その目は快感に酔いしれているようで、極上の笑みを浮かべていた。

「痛いか?」

 ――それ、今聞くこと――?
 フルフルと首を横に振ると、そうか、と再び腰を動かす。
 枕を失った俺は腕を噛んで声を抑えようとしたけれど、魔王が俺の腕を掴んでぺろりと舐めた。

「折角良い声で啼いているのに、抑えるな」
「んあッ!」

 ぐりっとナカの感じるところを擦られて思わず変な声が出た。魔王は嬉しそうに笑ってソコだけを重点的に刺激する。耳を塞ぎたくなるような水音と俺の声。知らない知らない、こんな感覚知らない――!
 俺の昂ぶりを軽く掴んで扱きながら腰を動かす魔王に、器用だなとぼんやり思いつつ快感に翻弄される。気持ちいいってことだけしかわからなくなって、腕を伸ばす。ぎゅっと魔王に抱き着くと、彼は一瞬身を強張らせたけど、すぐに動きを再開して絶頂へと導く。

「――っ、そんなに締め付けられたら……」
「だ、も、……ァっ、ぁぁあああっ」

 最奥を突かれて昂ぶりを刺激され、何度目かわからない絶頂を迎えた俺の意識は飛んだ。

「あ、花嫁ッ!?」

 慌てたような魔王の声が聞こえたような気がした――……。




 目が覚めると見知らぬ天井が視界に入ってびっくりした。起き上がろうとしたが腰が痛くて断念。広いベッドの上でひとりだけぽつんと寝転んでいる状況に、何だこれ……と辺りを見渡す。

「魔王……?」
「起きたか花嫁!」

 ばんっとかなり乱暴に扉が開かれ、そこにはトレイを手にした魔王がパタパタと俺の近くまで駆け寄って来た。

「腹が空いたろう? 簡単なものだが食事を用意した。食え!」
「え、あ、うん……?」

 もう一度起き上がろうとしたけど、やっぱり腰が痛くて無理。それを察したのか魔王がスプーンで中身を掬ってふーふーと息を吹きかけて冷まし、俺の口元に運んだ。……ま、ふたりしかいないし良いかと口を開くと、スープが流れ込んできた。

「あれ、美味しい」
「うむ! オレ様の趣味は料理だからな!」

 口調がまた子どもっぽくなった。オレ様とか言ってるし。

「なぁ、それ何とかなんねぇの」
「それって何のことだ?」
「一人称と口調。ヤってる時と全然違うじゃねぇか」
「む。あっちのほうが好みか? なら――……」

 再びスープを掬って冷まし、俺の口元まで運ぶ。俺が口を開ける前に、魔王がニヤリと口角を上げてこういった。

「――たくさんお食べ、我が花嫁」
「――ッ!」

 低い声でそう囁かれて思わず耳元を抑える。顔に熱が集まっていくのがわかる。な、何だこれ……!?

「そ、そもそもお前の魔力は大丈夫なのかよ?」
「それなら心配はいらない。昨夜、花嫁からたくさんもらったからな」

 ぺろりと舌で唇を舐める。それがとても妖艶に見えて、俺は――……。

「すまん、さっきの子どもっぽいほうで良い。そっちのほうが話しやすい」
「そうか? 花嫁の好みに合わせるぞ!」
「……どっちが素なわけ?」
「……さあ、どちらだろうな? ともかくこれからよろしく頼む、花嫁よ!」
「……こちらこそ?」

 疑問形になってしまったのは致し方ないことだろう。
 まさか魔王の嫁になってすぐに喰われるとは思わなかったけど……。思っていた以上に優しく抱かれたようで、俺の躰に残るダメージは極僅かのようだった。
 ……って言うか、花嫁って何をするんだ?



―Fin―
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みんなの感想(1件)

night
2020.05.20 night

面白かったです。作者様は天才ですね!これからも頑張ってください応援してます!

海里
2020.05.21 海里

感想ありがとうございます♪

お褒めの言葉ありがとうございます!
楽しんで頂けたのなら嬉しいです~。これからも投稿がんばります♪(*´ω`*)

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