27 / 222
1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!
26
しおりを挟むぐっすりと眠って起きたのは昼に近い時間だった。……そんなに遅くに寝ているわけでもないのにこの時間に起きるとは。目覚まし時計が欲しい……。
ともかく着替えてリアに会わないと。早速刺繍のやり方を教わる気満々だ。
ふとナイトテーブルに視線を向けるとこの前飾った花が凛と佇んでいた。起き上がって花弁に触れてみる。
「今日もキレイに咲いているね。ありがとう」
一昨日一輪挿しに飾った花はまだ元気だ。紺色の花を撫でてからクローゼットに向かい、今日も今日とてチュニックを着る。それからカーテンまで走って、ばっと広げてみた。
太陽が眩しく輝く、雲ひとつないキレイな青空。まるでルードの瞳のようだ。
あと四日でルードが帰ってくるから、その間にリアに教わらなくちゃ。どんな刺繍にしたいかはもう考えてある。
チリンチリンと鈴を鳴らすと、扉がノックされた。相変わらず早い。そしてよくこんな鈴の音だけでわかるな……。
「お呼びでしょうか、ヒビキさま」
「その声は――リア? 入って入って」
「失礼します」
がちゃりと扉を開けたのはやっぱりリアだった。声でわかるようになってきたぞ。リーフェの声は凛としていて、リアの声は澄んでいる。どちらも良い声だと思う。暫定一位はルードなんだけど、彼の声は破壊力が強すぎる。
「ふふ、ヒビキさま、寝癖がついていますよ」
「えっ」
慌てて髪を手櫛で整えた。そういや今日は姿見を見ていない。リアはおれに近付くと櫛を取り出してさっさと慣れた手つきで髪を梳いてくれた。
「……? 慣れてるね?」
「これでも二児の母ですもの」
「既婚者だったの!?」
にこやかに肯定する彼女にびっくりして目を瞬かせた。若いお母さんだなぁ!
二十代くらいに見えるんだけど、リーフェの時は外しちゃったし、おれの勘はきっと良くない。
「五歳と三歳の子がいます」
「へぇ……。男の子? 女の子?」
「五歳が男の子、三歳が女の子です」
コウノトリに運ばれてきた子か。リーフェが愛し合った者が真に願った時にって言っていたっけ。
「その……、リアの配偶者はどんな人?」
櫛を戻している彼女に尋ねてみると、彼女は一回ぱちくりと目を瞬かせてから頬に手を添えた。それから考えるように首を傾げて「そうですねぇ……」と呟き、それからパンっと頬の横で手を合わせて朗らかに言った。
「クマみたいな人――でしょうか」
「……クマ?」
「大きいんですよ、彼は。ルードさまより背が高くて、がっしりした筋肉が素敵な夫なんです」
……ルードより背が高くて……? ルードって百九十くらいだから、それより高いとなると二メートル以上あるってこと? そして、筋肉がすごい人……。リアってワイルド系が好みだったんだろうか、と変なことを考えつつも、リアたちは男女の夫婦なんだなって思った。
BL、GL、NL、本当になんでも有りな世界なんだな、ここ。
「あれ? じゃあ旦那さんが育児しているの?」
「保育所が王都にあるので、そこで預かってもらっています。夫は商人ギルドの受付で働いていますよ」
「商人ギルドの、受付?」
「怖い顔しているから、用心棒にぴったりなんですって。ふふ、慣れるとチャーミングなんですけどね」
まだまだおれが知らないことがたくさんありそうだ、この世界。やっぱり一度王都をこの目で見てみたいな。
「それで、ご要件は?」
「あっ、そうだった! 早速リアに刺繍を教えてもらいたいんだけど、良いかな?」
「もちろんでございます。場所はどうなさいますか?」
「ここでも良い? 実は、あの花を刺繍したくて。見本が近くにあったほうが良いかなって」
ナイトテーブルの上にある一輪挿しを指すと、リアは一瞬息を飲んで、それからおれに向かって花のような笑みを浮かべた。
「坊ちゃんの花ですね……。素敵な刺繍になるでしょう。では、私は用意が出来次第戻りますので、ヒビキさまはお待ちください。それと、タオルと水は下げますね」
「うん、ありがとう」
ナイトテーブルまでスタスタと軽快に歩いて、タオルと水を回収してからおれに頭を下げたリアは部屋から出て行った。
おれはソファに座って背もたれに背を預ける。天井を見上げてゆっくりと息を吐いた。今更だけど、刺繍って難しそうだ。おれにも出来るかな……?
十分もしないうちにリアは戻ってきて、それからおれにみっちり刺繍のやり方を教えてくれた。途中、昼食を摂りながら。
たっぷり日が暮れるまで刺繍のやり方を教えてくれた……。ここの人たちは教え方が結構スパルタな気がするのは気のせいじゃないと思う。
それでも何度も練習用の刺繍をしているうちに、どんどんとわかってきた気がした。それを見たリアが優しく目元を細めて声を掛けてきた。
「少し休憩しましょう。目もお疲れでしょう?」
「……うん、なんか疲れた……」
ずっと集中していたせいか、目がちょっと疲れてる。シパシパする感じ。刺繍をローテーブルに置いてぐいーっと背伸びをした。同じ姿勢だったから躰が固くなっている気がして、解すように肩をぐるぐる回すとちょっとだけマシになったような気がする。
「夕飯はどうなさいますか? このままこちらで? それとも食堂で?」
「こっちにお願いします。食べたらすぐに練習したいので」
「かしこまりました」
刺繍糸をそのままにしてもらって、リアが部屋から出て行くのと同時にもう一度背伸びをした。慣れないことをしているからもあるかな、この疲労感。だって日本に居た時刺繍なんて全然やらなかったし。
家庭科はあまり良い成績とは言えなかったし……。リアの作ったお手本のキレイな刺繍みたいには出来ないかもしれないけれど、おれだってなにかしたい。練習用の布を手にして小さく息を吐いた。
――ルードって器用だったんだな、と袖の刺繍を見てしみじみ思った。そう言えばチュニックの刺繍も上着の刺繍も同じ花だった。花の種類なんてわからないけれど、日本で見たことのない花も多いしなー……。
品種改良で出来た花を刺繍しているのかもしれないけれど、この花一体どんな理由があって刺繍したんだろう? ちょっと気になってきたぞ。
リアが戻ってきたら聞いてみよう。
31
あなたにおすすめの小説
魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。
なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。
この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい!
そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。
死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。
次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。
6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。
性描写は最終話のみに入ります。
※注意
・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。
・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
ギャップがあり過ぎるけど異世界だからそんなもんだよな、きっと。
一片澪
BL
※異世界人が全く珍しくないその世界で神殿に保護され、魔力相性の良い相手とお見合いすることになった馨は目の前に現れた男を見て一瞬言葉を失った。
衣服は身に着けているが露出している部分は見るからに固そうな鱗に覆われ、目は爬虫類独特の冷たさをたたえており、太く長い尾に鋭い牙と爪。
これはとんでも無い相手が来た……とちょっと恐れ戦いていたのだが、相手の第一声でその印象はアッサリと覆される。
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
異世界で勇者をやったら執着系騎士に愛された
よしゆき
BL
平凡な高校生の受けが異世界の勇者に選ばれた。女神に美少年へと顔を変えられ勇者になった受けは、一緒に旅をする騎士に告白される。返事を先伸ばしにして受けは攻めの前から姿を消し、そのまま攻めの告白をうやむやにしようとする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる