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2章:1週間、ルードと一緒です!

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 何度かキスを繰り返して、それでも息を止める癖は中々治りそうになくて……。これはもう、本当に回数を重ねたりしないと無理なのかも。って言うか、キスばっかりしているような気がする。誰かと付き合うなんて経験ないから、これが普通のなのかどうか……。
 ちらりとルードを見ると、彼は楽し気に地図を見ている。多分、明日どのルートを通るのか考えているんだろう。
 おれがルードに頼んだ場所は三つ。
 ひとつは聖騎士団のところ。螺旋階段があるのか気になる――のは建前で、ここでの目的はルードがどんな風に聖騎士の仲間さんたちと話しているのかが気になる。だって、ここの屋敷の人たちと話す時と、おれと話す時、それから最初に会った時に聞いてしまったアデルとの会話。最近だと騎士団長さんに敬語で話しているのを聞いて、新鮮だなぁと思ったりもして。彼がどんな風に話しているのか、あと、戦っている姿を見てみたいなぁ、なんて思ったりもして……。
 ふたつめは教会。スキルの検査をしてもらうため。ルードにそのことを話したら、意外そうに目を丸くされたのは記憶に新しい。そしてルードのスキルは教えてもらえなかった。これも時期じゃないそうだ。だから時期ってなに!?
 最後は図書館。ここの本もすごいけれど、王都の図書館にはどんな本が置いてあるのかなぁと。帰るための方法探しも含めて……。日本に帰るのか、そもそも帰ることか出来るのか。ここで暮らしていくにしても、知識は絶対に必要だ。

「……そろそろ行こうか、ヒビキ」
「はい、ルード」

 ソファから立ち上がり、おれへ手を差し伸べるルード。その手を取って、おれも立ち上がる。荷物を持って寝室から出ると、じいやさんとリーフェが居た。ふたりはおれたちに向かい微笑むと、恭しく頭を下げる。

「お見送りをさせて頂きたく」
「ヒビキさまが屋敷から離れるのは初めてですから。こちらをお持ちください」
「これは?」
「リアからでございます。彼女は今、手が離せないので……。代わりに私がお持ちしました。護符ですので、どうぞ」
「ありがとう。リアにもお礼を伝えて欲しいな」
「かしこまりました」

 護符……。一週間も離れるなんて初めてだもんな。心配してくれたんだ。ルードから手を離し護符をありがたく受け取って、ポケットに入れた。リーフェはちらっとじいやさんとルードへ視線を向ける。色々話しているのを見て、こそっとおれに耳打ちした。

「婚前旅行でございますね、思い切り楽しんで来てくださいませ」
「こん……!?」

 こんぜんりょこう……!? 混然、いや渾然……違う、婚前ってこと!? おれが目を丸くするとリーフェは楽しそうに目元を細めた。彼女たちにはおれとルードが正式に付き合いだしたことを報告したけど、婚約しているとは言ってないぞ!?
 いっぱいお世話になったし、これからもお世話になるだろうし、だからおれの知っている人たち――、リーフェ、リア、ニコロ、そしてじいやさんにはおれの口から報告した。
 ……次の日には屋敷全体に広まっていたらしい。

「そ、れは、とりあえず置いといて。リーフェは王都でお勧めの場所ってどこかある?」
「そうですねぇ……。表通りのカフェでしょうか。後は噴水広場ですね、夜になるとライトアップされて綺麗なんです」

 ……?
 え、普段からライトアップされているの? イベントがある時だけじゃなくて?
 おれがなにも言わないから、リーフェは首を傾げた。そもそもライトアップってどうやってるんだろう。精霊さんに頼んで?

「一週間のうちに一度でも良いので、ルードさまとライトアップされた噴水広場に行ってくださいね」
「え、なんでそこ限定?」
「うふふ」

 リーフェはとても楽しそうに笑みを深めた。一体なんだっていうんだ……。詳しく教えて欲しいけど、彼女はただ微笑むだけでなにも言わない。まぁ、でもライトアップされた噴水広場ってきれいそうだから行ってみたい気はする。
 日本にいる時もイルミネーションを見に行くのは好きだったし。ただひとりで行くとちょっと虚しいんだよな、周りが恋人や家族だらけで。

「さて、それでは行ってくる。屋敷はいつものように頼む」
「はい、坊ちゃん。お気をつけて……。ヒビキさま、初めての王都、楽しんで来てくださいませ」
「ありがとう、じいやさん。行ってきます!」

 おれとリーフェの会話が終わるのを待っていてくれたらしい。ルードはおれの肩にポンと手を置いてじいやさんとリーフェにそう柔らかな口調で言った。そのことにじいやさんもリーフェも気付いているのだろう、嬉しそうに目元を細めていた。
 ……コウノトリが運んでくるからか、じいやさんとリーフェはあまり似ていない。だけど、その表情はそっくりだ。家族なんだってわかる。
 ふたりとはそこで別れて、おれらはワープポイントのある部屋まで向かう。

「そういえばワープポイントってどこに繋がっているんですか?」

 王都に繋がっているのは知っているけど、王都のどの辺に繋がっているのかは知らない。おれが尋ねるとルードは三本指を立てた。

「指定できるのは三ヶ所だ。まずは城の近く。あと、大通りの近く、最後は私の隠れ場所、だな」
「隠れ場所?」
「ああ。大通りからは離れているが、代わりに自然が豊かでな。ヒビキと暮らすのならそこが良いと思っていた」

 騎士団長さんが来た時に、宿の手配を断ったのはそのため?

「良いんですか、ルードの隠れ家、おれに教えて」
「ヒビキだから教えるのだ、気にしなくていい。これで誰にも邪魔されず一週間ヒビキを独占できる」

 ルードの声は弾んでいて、聞いているこっちがちょっと恥ずかしい。ルードは仕事をしているから、一日中一緒に居ることは滅多になかった。だから、ルードを独り占めするってのは中々贅沢なことだと思う。

「少し設定を弄るから待っていてくれ」

 ワープポイントのある扉まで来て、中へ入って青色の光に手をかざすルード。なにをどう弄っているのかさっぱりわからないけれど、とにかく行き場所を設定しているんだろうと思った。
 五分もしないうちに終わって、ルードがおれに手を差し伸べる。
 その手を取ってぎゅっと指と指を絡める。初ワープにドキドキしながら、これから始まる生活のことに期待とちょっとした不安を滲ませてルードを見ると、彼はおれを安心させるように優しく微笑んでうなずいてくれた。

「ちょっとドキドキしてます」
「大丈夫、目を閉じていればすぐに目的地についているから」

 こくりとうなずいて目を閉じて青い光の中へ入る。なにかが躰の中を巡っていく感じがして――……。

「ついたよ、ヒビキ」
「えっ、もう!?」

 びっくりして目を見開いた。一瞬にもほどがある!

「ようこそ、私の隠れ家へ」

 クスッと微笑むルード。ワープポイントの光はもう消えていて、そっちにもびっくりした。
 ルードに案内される形で扉を開ける。目の前に広がったのは、こじんまりとした部屋だった。……いや、ちょっと待って。こじんまりとしたとはちょっと違う。屋敷に比べたら狭いけれど、ここも充分広いな!?

「ここが、ルードの隠れ家?」
「屋敷に戻るのが面倒な時に使っていた」

 キッチン、洗面所、風呂、トイレ、リビング、あと個室が二部屋。それからさっきまでいたワープポイントがある部屋。充分広いと思います!

「屋敷と違い、そんなに広くはないのだが……」

 確かに屋敷と比べたら……。でも本当、ここで暮らせるだけの広さはあるし、なによりも窓から見える風景が素晴らしかった。

「湖に近いんですね。月が水面に映っていてきれい……」
「ふふ、良い場所だろう?」

 窓に近付いて外を眺める。湖の近くには一軒も家がない。本当に隠れ家なんだな。
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