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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟むふ、と意識が浮上した。
ルードはおれを抱きかかえるようにして髪を梳いていた。優しい手つきに甘えるように頭を動かすと、クスッと笑う声が聞こえた。
「おはよう、ヒビキ」
「おはようございます、ルード」
髪を梳いていた手を止めて、するりと頬に手を滑らせ朝の挨拶をする。そのまま流れるように軽く唇を合わせた。――どこの新婚家庭? っていう雰囲気ではあるけれど、幸せだからまぁいいか。
起き上がって昨日まとめた荷物の中から服を取り出して着替える。それから、ルードが袖を捲って水色のリボンで結ぶ。満足そうに微笑むルードに、おれも笑う。
ルードが簡単な朝食を作ってくれて、それを食べた。スクランブルエッグとコンソメスープ、トーストとサラダというメニューだった。「簡単なものですまないが」なんて申し訳なさそうに言っていたけど、充分です!
食べ終わり、王都に行くための準備を済ませてからワープポイントがある部屋へ。どうやらここから向かうらしい。手を差し出されて、その手を取った。
昨日のようにルードが手をかざすと、消えていた青色の光がまた出てきた。そして、その青色の光の中に入ると、やっぱりあっという間に到着したらしく、見慣れない場所に出た。
「ここは?」
「城の近くだ。聖騎士団の様子が見たかったのだろう?」
「えっ、良いんですか!?」
「団長にはもう報告してあるからな。構わないさ」
そう言っておれの手を引いたまま、ワープポイントのある部屋を出る。……それにしても、城の近くにワープポイントの置いてある部屋があるってことは、ここもルードの家なのか?
「あら、坊ちゃん。今日は休みじゃなかった? それに、そちらの可愛い人は?」
扉を出ると三角巾をかぶった女性に声を掛けられた。――ここでもルードは坊ちゃんと呼ばれているのか。ちらりと彼を見ると困ったように眉を下げた。
「休みは休みだが、騎士団の様子を見たいと言われてな。今から見学に行くところだ。それと、この子は私の恋人のヒビキだ。たまに顔を出すことになるから、よろしく頼む」
「え、と、初めまして……」
「初めまして、ヒビキさん。あたしはこの宿屋で働いているソニアよ」
にこっと笑う、推定二十代くらいの女性。看板娘なのかな? ピンクベージュの髪色に、マリーゴールドの瞳。赤い口紅がとてもよく似合っている。
「ソニアさん、ですね。よろしくお願いします」
「はい、よろしくね。なるほど、この子が坊ちゃんの愛し子ですか。ふふっ、幸せそうでなにより!」
ちらっと袖を見て納得したようにうなずくと、ソニアさんはバシッとルードの背中を叩いた。身内のような親しさを感じて、首を傾げる。
「あ、じゃあ今日のお昼はここで食べて! 食堂もしているの。サービスしちゃうわよ」
ぱちんとウインクするソニアさんに、おれはどう返事をすれば良いのかとルードを見上げた。ルードは「どうする?」とおれに聞いてきた。どんな料理が出てくるのかわからないからちょっとわくわくしながら「食べてみたいです」と答える。
「ならば昼頃にまたここに。……ところで、お前いつから名前を変えたんだ?」
「あらぁ! いいじゃない、細かいことは!」
名前を変えた……? ルードは呆れたように肩をすくめて、そのまま宿屋から出て行く。彼女は元気よく手を振って見送ってくれたので、おれも手を振り返した。
「あの、ルード?」
「なんだい、ヒビキ」
「ソニアさんの名前が変わったって……?」
「……その話は昼食の時にしよう」
言い辛いことなのかな? ルードはぎゅっとおれの手を握る力を少しだけ強めた。とりあえず、おれはそのまま口を閉じてルードにリードされる形で歩く。
城に近付き、門番に「これを」と一枚の紙を渡して、門番がそれに目を通して「はい、結構です」と門を開いてくれた。
「こっちだ、ヒビキ」
くいっと軽くおれの手を引っ張って、そのまま歩く。城の中庭はものすごかった。もうそれしか言えない。色とりどりのバラ、なのかな? がきれいに咲いていて思わず息を吐く。
聖騎士団の場所は中庭から近かった。そして、本当に塔があった。
「時間通りだね、ルード」
「団長」
「サディアスさん、おはようございます」
「はい、おはよう。聖騎士団の場所は好きに見ると良い。今、模擬戦闘もしているから、興味があるなら行っておいで」
「はい!」
興味はすごくある。好奇心を隠さない瞳をルードに向けると、「仕方ないね」と微笑んだ。
「ついでにわたしも同行しよう。念のためにね」
「ありがとうございます、団長」
サディアスさんに向かい頭を下げるルードに、おれも頭を下げる。念のためってどういうことだろう? と彼らを見ても、ふたりは顔を見合わせて小さく微笑むだけだった。
……しかし、ルードの身長よりは低いけれど、サディアスさんの身長も高いよな。この世界でおれより身長が低い男性に会ったことがない気がする。
いやいや、おれもまだ成長期! いつか身長が追い付く日が……来ると良いな!
「百面相をしてどうした?」
「えっ」
慌てて顔に触れる。そんなやり取りをどう思ったのか、サディアスさんはハンカチを取り出して目尻に浮かんだ涙を拭う。泣くようなやり取りがありましたか、今!?
「ルードの表情が生き生きとしてる……!」
「えっ!?」
「相変わらず大げさな……」
「なにを言っているんだい、多分、今のきみの表情を見れば他の者もそう思うだろう。いやぁ、楽しみだな!」
……この人思いっきり楽しんでるな。ハンカチをしまって、「ついておいで」と歩き出す。おれらもサディアスさんの後を追うように歩き出した。模擬戦ってどんなものなんだろう。歩いていくにつれて金属がぶつかり合うような音が聞こえ、その後に「そこだ!」とか「いけー!」とか声援のような声が聞こえてきた。
サディアスさんとルードがその場へつくと、声援が徐々に消えていく。その代わり、違う声が聞こえ始めた。
「団長と隊長……!?」
「嘘だろ、隊長一週間休みだったハズだろ……!」
「って言うか隣にいる子、誰だ? え、まさか噂の子?」
おっと、おれまで注目されてる? ルードの後ろに隠れるように身を動かせば余計に注目を浴びることになった。
「隠れた」
「え、でも袖のとこやっぱ……」
「お前たち」
ひそひそとなにかを話している団員たちに、ルードが声を掛ける。後ろに隠れているから、顔を見ることは出来ないけれど、その声はおれが聞いたことない声色で驚いて彼を見上げる。
今日は休みだからか、ルードの髪はまとめていない。サラサラの髪が風に靡いた。
「今は模擬戦中だろう。噂話の前に、やるべきことがあるのではないか?」
「も、申し訳ございませんッ」
一体、今ルードはどんな表情をしているのだろうか。可哀想なほど真っ青になった団員さんたちを見て、ルードの手をくいっと引いた。
「どうした、ヒビキ?」
さっきとは打って変わって、柔らかい口調でおれに尋ねる。さらに後ろを振り返って微笑むから、今度は違うざわめきが広がった。
「笑った……!?」
「え、隊長って笑えたのか……!?」
「しかもあんな優しい声、聞いたことがないぞ……!」
……聖騎士団で、一体ルードはどんな態度を取っていたんだろうか……。
それにしても、おれはいつまで注目を浴びていればいいのかな? ルードとおれを交互に見ている団員さんたちに、どうすれば良いのかわからなくてぎゅっとルードの手を強く握る。
「はいはい、模擬戦も手が止まっているよ。……ああ、そうだ。どうせなら、ルードが出るかい?」
「ルードが模擬戦に?」
サディアスさんが両手を叩いておれらに集まった視線を彼へと向けさせる。ルードはちらりとおれを見て、「どうする?」と問うように首を傾げる。戦っている姿を見てみたい、とは思っていたけど、ここでルードの手を離して大丈夫かなぁ……?
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