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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟む「で、本題のわたしのスキルなんだけどね」
仕切りなおすようにサディアスさんがパンパンと両手を叩いてからにっこり微笑む。きれいなんだけど怖さを感じるのは、さっきの話のせいだ、きっと。
「予想はついていると思うけど、わたしのスキルは人の感情や考えを読み取る『読心術』なんだ」
少し前からおれの思考を読んでいたかのように話していたから予想はついていた。だけど、改めて聞くとこれってかなり危険なスキルなんじゃ……?
「幼い頃は色々聞こえたりしていて大変だったんだけど、大きくなるにつれて大分コントロール出来るようになってね。持っている【力】もあるから聖騎士団に放り込まれて、まぁ、色々あって今に至るというわけ」
色々の部分が気になるけれど、それは聞かないほうが良いのだろうか。そしてそのスキルを聞いてしまって本当に良かったのか。戸惑ってルードに視線を向けると、彼は優しく微笑んだ。
「団長のスキルを知っているのは、聖騎士団でも一部の幹部のみだ」
「……え、じゃあニコロは」
「知らないだろうね」
んん? ってことは、サディアスさんがニコロに対して押せ押せな感じなのは、ニコロがサディアスさんを嫌っているわけではないと知っているから? ……あれ、もしかしてこれ、ニコロ逃げ道ないのでは?
ちらりとサディアスさんに目を向けると、彼はその視線に気付いたのか、それともおれの考えを読んだのか、口元に人差し指を立ててぱちんと片目を閉じた。……がんばれ、ニコロ。心の中で彼を応援した。
「……サディアスさんのスキル、本当におれが知って良かったんですか……?」
「わたしからルードに頼んだんだ。聖騎士団見学する時に伝えようと思ってね」
「それは、なぜ?」
確かに危険なスキルだと思うけど、それをおれに言うメリットは? 首を傾げて問うと、「後で教えてあげる」と微笑んだ。
「ルードとヘクターさんは知っていたんですか?」
「……私と団長は元々顔見知りではあったから……。聖騎士団に入団した時にすでに十八の誕生日を過ぎたら一番隊を任せるつもりだったらしくて、入団直後に聞いた」
「オレは副隊長になった時に聞きました。多分、騎士団長と多く接する幹部に伝えられているんじゃないかな?」
「正解。コントロール出来るようになったとはいえ、不意に飛び込んでくる感情や考えもあるからね。驚かせるのも悪いし」
……考えていたことを人に知られるって言うのも中々ツライものがあるだろうけど、それを読み取ってしまうのもツライものがあるんじゃないかな……。コントロール出来るようになった、って言うことは、コントロール出来ない時もあったってわけで、そういう時に人の悪意とかを読み取ってしまったら……想像してぞっとした。誰も信じられなくなりそう。
「悪いことばかりではなかったよ。貴族社会とはそういうものも含まれているし、逆に悪事を防ぐことも出来たし」
あ、読まれてる! でもそうか、貴族って色々大変なんだな……。全然想像できない庶民だもんな、おれ。
「……ヒビキさんは、わたしのことが怖くないのかい? 結構思考を読んでいるつもりだけど」
「一周回って面白くなってきました」
そう言うとサディアスさんは一瞬ぽかんとした顔をしたけど、すぐに肩を震わせて笑い始めた。……そんなに変なことを言ったかな、おれ?
「本当、良い子だね」
しみじみと呟かれた。ルードはおれを抱き寄せるように肩に手を回してぐっと引き寄せられた。驚いて彼を見ると、眉間に皺を刻んだルードがサディアスさんを睨んでいる。
「ルード?」
「わざとヒビキの思考を読まないでください」
「はいはい、もうしないって。ごめんね、ヒビキさん」
ああ、思考が読まれていたことに対して怒っていたのか。おれの思考を読んだところでサディアスさんが得をするとは思わないから、特に気にしていなかった……!
「ルード、おれは気にしていませんから」
「……そうか?」
「……うーん、メルクーシン隊長が誰かを守ろうとしているってなんか新鮮……」
ルードを見上げてそう言うと、首をこてんと傾げて心配そうにおれを見る。だから、大丈夫です、という意味を込めて笑みを浮かべて見せた。それを見ていたヘクターさんがぼそりと呟いたので、ふたり揃って彼に視線を向けると、びくっと肩を跳ねさせておれらから顔を逸らした。
「ところで団長、そろそろ向かわなくて良いのですか?」
「ああ、もうそんな時間になるか。それじゃあ、わたしとバビントンはこれで失礼するよ。あまり構えなくてごめんね。また後で話そうか」
「あ、はい」
「それじゃ、失礼しますね、おふたりとも」
「バビントン、しっかりと仕事をこなすこと。団長も頼みますから無理難題を押し付けないでくださいね。特に新人たちに」
「んー、そこはまぁ、本人たちの心意気次第かなー。それじゃ、一週間の休暇、楽しんでおいでね、ルード。ヒビキさんも」
サディアスさんとヘクターが同時に立ち上がって、ひらりと手を振ってから執務室を出ていく。なんというか、サディアスさんもヘクターさんもルードと親しいような気がするのは同じ聖騎士団で働いているからなのか、それとも昔からの知り合いだからなのか。
「ヒビキはこれからどうしたい?」
「ちょっとこの執務室を探検しても良いですか?」
「ここを? 構わないが、面白いところはないと思うぞ」
屋敷の執務室とはまた全然違う雰囲気だから、不思議な感じ。ソファから立ち上がって、扉の前へ移動する。そこから振り向いて全体を見渡した。真ん中にさっき座ったソファと、ローテーブルがあって、そこから少し左後ろに多分、いつもルードが使っているであろう椅子と机。
全体的に屋敷の執務室よりは少し狭いけれど、充分快適な広さだ。右側には扉があって、そこはどこに繋がっているんだろうと近寄ってみる。開けてみると簡易なキッチンがあった。ヘクターさんが用意してくれたお茶は、もしかしてここから作ったのかな?
あっちに行ったりこっちに行ったりと見学していると、さらに扉を発見した。
「ルード、こっちも開けてみて良いですか?」
「ああ、別に構わないが……。ただの仮眠室だぞ?」
執務室に仮眠室が繋がっているって便利だな。眠くなったらここを通って仮眠しに行くのか。確かに簡易キッチンを真ん中に置いておけばどっちからでも喉を潤すことが出来……ん、生活魔法で出せば良いのか? でもコップは必要だしな、うん。
ルードの許可ももらったので早速と開けてみる。
「仮眠……室……?」
もっと狭いと思っていた仮眠室は思っていた以上に広かった。って言うか仮眠室? 仮眠室って言ったよな!?
ベッドも広いし、ここに住めるんじゃ……? ってくらいだ。
「おれの部屋の倍はあるなぁ……」
「ヒビキの部屋はそんなに狭いのか?」
ちょこまか動くおれの後ろをルードが楽し気に眺めていた。独り言を拾われてびくっと肩を跳ねさせたけど、ルードに顔を向けて大きくうなずいて見せた。
「んー……、ルードがもしもおれの家に来たら、「ここが?」って思わず言っちゃうような気がします」
だってルードの屋敷とかこことかと規模が違いすぎるし。うちに来たルードの様子を想像してちょっと面白くなった。……まぁ、実際来られるかと言えば無理だろうけど! だって日本に戻る手段さえさっぱりわからない。王都の図書館でそういう関連の本が見つかれば良いのだけど。
「ヒビキの家か、興味はあるな」
「面白いのはないと思いますよ?」
おれがそう言うと、ルードは一瞬目を瞬かせてからくすりと笑う。
……ああ、そうか。そうだな。同じことを言っているのか。好きな人のことを知りたいと思うのは当たり前のことだもんな。
「たまには使うんですか?」
「……私じゃないものが、な」
「え、でもここルードの……」
執務室内なんじゃ? と首を傾げるとぽんとおれの頭に手を置いてわしゃわしゃと撫で始める。なにか言いたくないことがあったんだろうか……。でもルード以外も使っていい場所なの、ここ?
「数度使ったことはあるが、私にはやはり屋敷のほうが落ち着くことがわかった」
「まぁ、慣れた場所が一番ですもんね……」
……しかしそれを言ったらおれとルードが初めて会った日、気絶して気が付いたら翌朝だったおれは一体……。いや、深くは考えないでおこう。思い出して少し恥ずかしくなってきた。
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