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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟むそれから、ゆったりとした時間をルードと過ごした。ルードが渡してくれた冒険ものの本はとても面白くて、おれでもスラスラと読めた。時々、読めない部分があったりして、それをルードに聞くと丁寧に教えてくれる。
お腹が空いた、と伝えればおれを抱き上げて部屋を移動し、椅子に座らせるとホットケーキを作ってくれた。
「……そう言えば、どうしてじいやさんはルードに家事を教えたんでしょうか?」
作ってくれたホットケーキをぺろりと平らげた後、お茶まで淹れてくれたのでありがたくいただく。一口飲んで、ふと思ったことを尋ねると、ルードは考えるように顎に手を掛けて首を傾げる。そして、当時を思い出したようで小さく口端を下げた。
「……スパルタだった記憶しかなくて、理由まで覚えていないな……」
「じいやさんってやっぱり教え方スパルタなんですね……」
「私の屋敷に居る使用人はなぜか、自分の好きなことには教え方がスパルタな者が多い気がする……」
否定はしない。じいやさんもリアも結構なスパルタだったから……。そう言えば、ルードとおれが居ない場合って使用人さんたちの仕事ってどうなっているんだろう? 屋敷の主人はルードだし、おれの世話を頼んでいたようだし、ふたり揃って居なくなるって初めてだし……。
「あ、でも文字を教えてくれる時は優しかったですよ?」
「ああ……、文字は読めたり書けたほうが生きるには便利だから、長期育成を目的に優しくしているらしい」
「……短期で覚えるべきことはスパルタ?」
「そのようだ」
ルードもお茶を飲んで、肩をすくめる。文字を覚えるのを嫌いにならないようにって言う、じいやさんの心遣いなんだろうか……?
「それと、聞いてみたいことがあって……屋敷の使用人さんたちの休みって、決まっているんですか?」
「そう言うのはクレアとじいやが話し合って決めている。私たちがここに居るから、まとめて休ませているかもしれないな」
それでもあの屋敷って広いから、ローテーションで休んでいるのかな? なんかみんな全部出来るような気がするけど……。ああいうのって役割分担がありそうな気が……。後でリーフェに聞いてみよっと。
「結構自由な感じがしますね……」
「休みかい? まぁ、この日に休みたいって教えてくれたら調整をしているみたいだね。むしろ休みたくないって人も居るから、そこら辺が難しい」
「休みたくない人って居るんですか!?」
働くのが大好き過ぎだろう……! 誰だろう。そんな人……。
「じいやとニコロが中々休んでくれないな」
「じいやさんはともかく、なんでニコロも?」
「休日になると団長が来る可能性が高いからって」
……サディアスさん、ニコロの休みを把握している……? いやでも、あの人関係なく来ていたような。
「三年間、ニコロには会ってもいないしね。団長が屋敷に来た理由は、ヒビキに会いたかったからって言うのもあるけれど、一番の目的はニコロだったろう」
「あの、会わせて良かったんですか?」
サディアスさんと会った翌日、ほぼ姿を見せないニコロの様子を思い浮かべて不安になって尋ねてみた。いくらスキルでニコロの心がわかるからって、それはもしかして悪用なのでは……?
「ニコロの本心はわからないけれど……。団長の執着心についてはアシュリー家独特なものがあるように思う」
コウノトリが運んでくるのに血筋ってことなんだろうか。そもそも血液型ってどうなっているんだろう。考えれば考えるほどさっぱりわからない。
「アシュリー家独特って?」
「あの家、大体の人が惚れた人を囲い込んでいるから……」
下手したらニコロも囲い込まれていたわけか。ニコロが買い物に行かない理由ってそこら辺にもあるのかな。そもそも、なんでサディアスさんは三年も経ってからニコロに会いに行ったんだろう?
「なんと言うか……サディアスさんって割と激しい感情をお持ちなんですね……?」
「昔からだよ、あの人は。私が八歳の時に会ったんだけど、そこでもうニコロことを言っていたから」
「――え?」
貴族同士の集まりでもあったのかな? でも、ルードが八歳の頃って言うと、サディアスさん何歳だ? えーと、今三十一歳、ルードが二十三歳。ってことは、八歳差。サディアスさんは十六歳だった頃?
ん? 十六歳の頃にもうニコロのことを話していたってどういうこと?
「団長が気絶した時に、ニコロが団長を守っていた、らしい」
「えっ、気絶!?」
「スキルと魔力を使いすぎたみたいでね。その頃は隊長だったかな」
二十歳の時に団長になったって聞いたから、四年でその座に就いたってことか。すごいな、サディアスさん。でも十六歳で隊長って……。おれが変な表情を浮かべていたのに気付いたのか、ルードは小さく笑って、「貴族とはそういうものだよ」と優しく言った。
「あれ、待ってください。じゃあサディアスさんは十六歳の頃にはもう、ニコロに……?」
「恐らくは、な」
ニコロは恋人同士だったことを否定していたけど、サディアスさんにとっては恋人だったわけで、ええと、うん。全然わからない。彼らに一体なにがあったんだ。
「と言うか一回彼らの情事を目撃してしまったし……」
「え、目撃?」
言いたくないらしいルードは、おれから目を逸らした。もしかして、あの仮眠室を使われていたのだろうか……。
「ニコロとサディアスさんって、不思議な関係ですね……」
「……どう納まるのかさっぱりわからないな……」
リーフェはサディアスさんを推しているみたいだけど……。そもそも割とリーフェも謎だよな。なんでそんなに詳しいんだ。
「リーフェの恋人さんと、リアの旦那さん、ルードは知っていますか?」
「ああ、どちらも。リーフェの恋人は今日行こうとしていた手芸屋で働いているし、リアの夫は商業ギルドの受付だからたまに会う」
「え」
もしかしたら今日会えていたかもしれないのか……! リーフェの恋人さん……!
少し気になっていたんだよな。リーフェがあれだけ惚気るから、どんな人なんだろうって。
リアはあまり惚気ないけど、旦那さんとお子さんのために刺繍の入ったハンカチを大量に制作しているし、家族のことが本当に大好きなんだなぁと感じる。
「リアの旦那さんにも会ってみたいです」
「じゃあ、この観光旅行中に行ってみようか」
「はい!」
そして明日からのプランをルードと話し合った。まずは図書館、その後に手芸屋。これは変わらず。お昼をどこで食べようかなんて、本当に旅行と言うかデート言うか……。姉も彼氏さんとこんな風にデートプランを話し合っているんだろうか。
まだたっぷり時間はあるし、こうやってルードと一緒に居られるのだから色んなところをふたりで見たい。
「それと、今日は夜にちょっと出歩こうか」
「夜に、ですか?」
「うん、ヒビキが良ければ、だけど。リーフェの言っていた噴水広場、行ってみたくはないかい?」
ルードは優しく笑う。おれは目を瞬かせて、それからすぐにこくりとうなずいた。ジンクスを信じているわけじゃないけれど、ライトアップされている噴水広場は見てみたい。この世界のイルミネーションって、どんな風になっているのか興味津々だ。
「少し遅い時間に向かおう。早めの時間だと、人が多いだろうからね」
「……ルードは行ってみたことが?」
「巡回で。本来ならば城の騎士団の仕事だとは思うんだが……」
聖騎士団と騎士団ってどこがどう違うのか、おれにはよくわからないけれど……。ルードたちにとっては線引きがあるのかな?
「それじゃあ、ちょっと仮眠しようか。お腹がいっぱいになって、眠くなってきただろう?」
「う、なぜバレて……?」
「ヒビキはわかりやすい」
そんなにおれってわかりやすいですか……?
確かにちょっと眠くなってきたなぁとは思っていたけど!
ルードはおれを抱き上げるとベッドへ運び、寝付かせるようにぽんぽんと優しく胸元を叩く。――そのリズムに乗って、おれは夢の世界へと旅立っていった――……。
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