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2章:1週間、ルードと一緒です!

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 そして夜が明けて朝になり、おれが起きると隣に居たはずのルードの姿がなくて、辺りを見渡す。もう起きたのかとベッドから降りて服を着替えてルードが居そうな場所へ向かう。ふんわりと良い香りが漂っているから、多分朝食を作ってくれているんだろうな。

「おはようございます、ルード」
「おはよう、ヒビキ。良く眠れたかい?」
「はい、それはもうばっちりです!」

 目覚めたタイミングが良かったからか、ものすごくすっきりとした気持ちだ。窓から外を見るととてもいい天気で、歩くのには最適な天気に見える。

「椅子に座って、もう出来るから」
「はい」

 椅子に座って、すぐにルードが朝食を運んでくれた。ふわふわのロールパンにスクランブルエッグ、サラダにトマトスープ。……これだけ作れるのだから、ルードって本当に家庭的な人だよなぁとしみじみ思う。

「パンはマルセルが焼いたものだ。彼はパン職人をしていたから、パンへのこだわりが強い」
「ああ、通りで美味しいわけですね……!」

 いただきます、と手を合わせてパンを手に持つとルードがそう言った。マルセルさん、ええと料理長だったな。パン職人さんだったのか。そんな人がどうしてルードの屋敷に雇われるようになったんだろう?

「パンへの愛が凄まじ過ぎて、働き過ぎて倒れたらクビになったそうでな。路頭に迷っていたところを拾った。十年前に」
「それってルードが王都に来てすぐじゃないですか?」
「ああ、驚いたぞ。なんせ道端でパンへの愛を呟いていたからな」

 ……それって下手すれば通報案件では……?
 それにしても、マルセルさんそんなにパンが好きだったのか。通りでどのパンも美味しいわけだ。納得!

「マルセルは料理人と言うより研究者だな、特にパンに対する。もちろん、他の料理も美味だが、パンが一番美味しい」
「……屋敷の人たちって本当、個性的ですよね……?」
「なぜかそんな者たちばかりが集まったな」

 パンを一口サイズにちぎって口に運ぶルード。うーん、何度見ても様になっていて格好いい。真似してみても、あんなに格好良く食べられないのはなぜなのか。イケメンと普通顔の差かな……、自分で思ってちょっと悲しい。

「今日は図書館だったね」
「あ、はい。楽しみです」
「色々な本があるから、ヒビキは圧倒されてしまうかもしれない」

 そんなに本の数が多いのか……? 読める本がありますように、そして願わくはおれが求めている本がありますように。美味しく朝食を頂いて、食器はおれが洗うと宣言して片付けた。
 おれが食器を洗い終わるのと同時に、ルードがそっと背後からおれに抱き着いてびっくりした。

「ルード?」
「世の中の新婚家庭とはこんな感じなんだろうか……と」
「新婚家庭より甘い気がしますけど……」

 いや、見たことないから知らないけどね? でも、確実にルードとふたりきりで居るって言うこの状況。新婚家庭よりも甘い雰囲気が漂っている、ような気がする……。元々ルードっておれには甘かったし、おれもそれに甘えているし。

「もうちょっとしたら出掛けようか」
「はい」

 今はもう少しだけ、この胸の中に居ても良いかな、なんて。甘えるようにすり寄れば、ルードが抱きしめる力を少しだけ強くした。
 小さい頃はスキンシップ苦手だったみたいだけど、おれにこうやって触れるのは平気なんだなぁ……。そのことに関してちょっと疑問に思ったりもするけど、ルードがこうやっておれに触れてくるのはルードの愛情表現だろうし……。おれがルードに触れる時は、すごく嬉しそうに笑うんだよなぁ。子どもの頃と大人になった今じゃ、スキンシップに関する考えも変わったのかもしれないけど……。

「考え事?」
「んーと……おれがルードに触れるのは良いのかなって」

 上から覗き込むように尋ねられ、隠すことでもないかとルードを見上げてそう言う。するとルードは意外そうに目を丸くして、それからふっと微笑みを浮かべる。くるりとおれの躰を反転させて、軽々と抱き上げた。いきなりのことにびっくりしてルードを見ると、彼はそのままおれをリビングまで運んで、テーブルの上に座らせた。

「あ、あの、ルード?」
「私が言ったことを気にしていたのかい?」

 こつんと額を当てて瞼を閉じるルードに、おれは無言で肯定した。すると、ルードはおれの頬に手を添えるとやっぱりむにむにと揉む。
 彼が目を開けて、空色の瞳でおれを見る。おれも見つめ返して、そっとルードの手に自分の手を重ねた。

「私はね、ヒビキ。ヒビキに触れられるのはとても好きなんだ」
「ルード……」
「だからね、ヒビキには私にたくさん触れてほしいし、たくさんヒビキに触れたい。イヤかい?」
「いいえっ」

 おれの声量にルードは少し驚いたようだったが、嬉しそうに目元を細めてそのまま唇が重なった。触れるだけのキス。もっと、とねだるようにルードの唇を舐めた。ルードは薄く唇を開いて舌先を絡める。鼻で呼吸するように意識をして、段々と深くなっていくキスにうっとりと頬を染める。
 息苦しさを感じると、すっとルードが唇を離した。それから、優しい瞳でおれを見て頬に手を添えて、もう一度、今度は唇が触れるだけのキスを交わす。

「名残惜しいけれど、そろそろ行かないと」
「……そうですね」

 ちょっと残念だったりするおれに気付いたルードは、ぽんぽんとおれの頭を撫でてテーブルから降ろした。そして耳元で囁くように背を屈めて「続きは夜に、ね」と甘い声でそう言われて、背筋にぞくりとしたものが走った。――知っている、感覚だ。
 ――嘘だろ、おれ。
 ……ルードの声にも感じるの……?

「ヒビキ?」
「あっ、いえっ。図書館楽しみです!」

 はっとして慌てて顔をルードに向けてぐっと拳を握った。おれの様子にルードは首を傾げていたけれど、服の袖を捲ってこの前のようにリボンで結ぶ。

「……ルードって十五歳の時から刺繍を始めたんですよね?」
「ああ」
「……どうして刺繍を始めたんですか?」

 服を作り始めたのもそうだけど、ルードのことが気になってそう尋ねる。ルードはただ、優しく微笑むだけだった。理由を教えてはくれないようだ。おれの手を握って、そのままワープポイントのある部屋に向かう。

「今日は図書館だから、違う場所に出るよ」
「一体どれくらいの場所に設置しているんですか……」

 ルードは「……そう言えば数えたことがないな」とぽつりと呟いた。もしかして数えきれないくらいたくさんあったりするのかな? でも、そうだとしたらなんのために……? ワープポイントを使うのって大体ルードの屋敷の人だし、買い物とかが便利になるように? あれ、でももしかして魔力があれば屋敷の人じゃなくても使えたりするのかな。
 ――うーん、王都の謎。いや、メルクーシン家の謎?
 ルードが場所を設定して、一昨日と同じようにワープする。どうやら、小屋のようだ。物置? なのかな。色んな道具が置いてある。

「ここは?」
「メルクーシン家が使っていた畑道具をしまっている小屋だ」
「……畑道具?」

 きょろきょろと見渡すと、確かに農作業用の道具が見える。……え、畑やっていたの? 貴族が畑? んんん? 頭が混乱してきてルードを見上げると、おれの反応にクスクスと笑って手を引っ張り外に出る。

「じいやの趣味だ。あまり広い場所ではないが、土地を買い上げて野菜を作っている」
「……趣味で、畑仕事……?」
「元々じいやは多趣味だからな。さ、こっちだヒビキ」

 ルードが歩き出したので、おれも歩き出す。ちらっと見えた畑には、美味しそうなトマトやきゅうりが実っていた。……そう言えば、この世界ってもしかしたら四季がないのかもしれない。一定の温度っぽい……。過ごしやすくては良いけれど、四季折々の様々なことが出来ないのはちょっと残念だ。
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