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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟むえ、リーフェ!? と思わず女性を凝視する。ルードに声を掛けられて、びくっと肩を跳ねさせて、ゆっくりと振り向く。あ、本当にリーフェだ。いつも三つ編みにしているのを下ろしていたし……考えてみれば私服を見るのも初めてだ。
「お、おはようございます、ルードさま、ヒビキさま」
「おはよう、リーフェ」
「おはよう。……怪しい人に見えたぞ」
「申し訳ございません……。その、休日なので恋人の様子を見に来たのですが……」
天然パーマなのかな? それとも三つ編みの癖がついているのかな? ふわふわの長い髪を指で弄りながらおれらを見た。おれとルードは顔を見合わせてからリーフェの顔を見る。
「買う気がないなら帰れと言われてしまって……」
……心底残念そうに頬に手を添えてため息を吐くリーフェ。一体どのくらいの時間居たんだろう……?
「ルードさまとヒビキさまは、どうしてこちらへ?」
「あ、えっと。刺繍用の糸とかを買いに」
「えっ。屋敷を離れても刺繍を……? ルードさまと甘~い時間を過ごされていたのでは?」
そういう時間も過ごしているけど、そこはノーコメントで! ルードに視線を向けると、楽しそうにクスクス笑っていた。それを見たリーフェが一瞬目を丸くしてそれからとても嬉しそうに表情を綻ばせた。ルードが楽しそうにしているのが嬉しいのかもしれない。
――そう思うと、ルードの屋敷に居る人たちって本当に『家族』なんだろうなぁ。
「しかし、ずっとここに居ては営業妨害だろう。私たちは中へ入るが、リーフェはどうする?」
「入ります!」
「おお、即答……」
なら、とルードが店の扉を開けて中へと入る。リーフェも一緒に入って来た。
「いらっしゃいませー。あら、メルクーシンさま、お久しぶりでございます」
出迎えてくれたのは眼鏡を掛けた女性だった。ストロベリーブロンド、なのかも。肩まであるその髪をハーフアップにして、はちみつ色の目をしている、とても綺麗な女性。おれのように服の袖を捲ってリボンで結んでいた。もしかして、この人がリーフェの?
「そして、リーフェ。あなたさっきからなにをやっているの。店の前に張り付いて……」
呆れたようにリーフェを見る女性。彼女はおれの存在に気付くと、まず視線を服の袖に向けてそれからじっとおれを見て、ふわりと優しく微笑んだ。
「お噂はかねがね。初めてお目にかかります、ヒビキさま」
「え、なんでおれの名前を知って……?」
「リーフェから色々聞いておりますので」
ね、とリーフェに視線を向ける。おれもリーフェに顔を向けて視線で「どういうこと!?」と問う。リーフェはおれから視線を逸らす。一体どんな内容をこの女性に話したんだ……?
「わたくしはシャノン。シャノン・A・クリスティと申します。以後お見知りおきを」
そう言って手を差し出してきたので、おれはその手を取って握手をした。シャノンさん。良し、覚えた。
「ヒビキです。えっと、リーフェの恋人さん、ですか?」
「はい」
お店の中で話すことではないような気がするけど、他にお客さんも居ないから営業妨害にはなってない、よな……? ちょっと不安そうにしているおれに気付いたのか、シャノンさんはおれから手を離すと、「少々お待ちください」と言って店の出入り口のカーテンを閉めた。
「これで他のお客さんは入ってきません。ゆっくり店内を見ていって下さいませ」
カーテンを閉めていると休憩中みたいな感じなのかな? おれがルードに視線を向けると、ルードが小さくうなずいた。
おれは早速刺繍糸を見に棚へ移動してみた。シャノンさんが刺繍糸の何色を探しているか聞いてくれたので、紺色と水色を探していることを伝えると一瞬ルードに視線を向けて、どこか納得したようにひとつうなずいてから目元を細めて微笑む。
「メルクーシンさまの色ですね」
……改めて言われるとちょっと恥ずかしい。隠すつもりもないけどさ。
「それでしたら、こちらの糸はお勧めですよ」
そう言って棚からひょいと糸を取り出して見せてくれた。紺色と水色の刺繍糸。でも、よーく見るとキラキラと輝くものが練り込まれいるみたいですごく綺麗だ。
「これは?」
「特殊技術を使用して出来た刺繍糸です。キラキラして綺麗でしょう?」
首を縦に動かすと、こそこそと耳打ちするように手を添えて、シャノンさんはこう言った。
「好きな人ってキラキラして見えませんか?」
いたずらっぽく笑うシャノンさん。そして、リーフェとルードへと視線を向けてからおれに微笑みかける。……シャノンさん、ちゃんとって言うのも変だけど、リーフェのことが好きなんだなって思ってちょっと心が温かくなった。
「シャノンさんはリーフェのことがそう見えますか?」
小声で尋ねてみると、彼女は一度目をゆっくりと瞬かせてリーフェに顔を向けてからおれに向かってうなずきこう言った。
「……内緒、ですよ?」
口元に人差し指を立ててぱちんとウインクするシャノンさんは、とても綺麗だ。リーフェとルードはなにか会話をしているようで、こちらの様子に気付いていない。ラブラブなんだな、このふたりも……。
「リーフェと一緒にお菓子を作ったりしているんですよね。いつもおやつを頂いてます」
「あら。最近リーフェが張り切って作っていたのは、ヒビキさまのためでもあったのですね」
楽しそうにくすくす笑うシャノンさん。こんなに綺麗な人を恋人にしたリーフェすげぇ……。いや、それを言うならあのイケメンを恋人に持つおれもすごいのでは……? 最初から好感度マックスみたいな感じだったよなぁ。俺に対して。謎だ。
「お口には合いましたか?」
「もちろんっ! すっごく美味しかったです!」
クッキーもマドレーヌもマフィンもスコーンもカップケーキも全部美味しかった記憶しかない。って言うかおれ、リーフェに色々お菓子もらっているなって今気づいた。そのうちなにかお礼が出来たら良いな!
「それはなによりですわ。ヒビキさまたちが美味しく食べてくれるから、作り甲斐があるって言っていましたもの」
口元に手を添えてにこやかに話すシャノンさんを見る。おれは頬を掻いて、シャノンさんがお勧めしてくれた刺繍糸を買うことを決めた。それにしても、特殊な技術ってどういうのだろう。
「……あれ、そう言えば店員はシャノンさんだけなんですか?」
「え? ええ。ここはわたくしのお店ですので」
「えっ!?」
びっくりして声が出た。リーフェと同い年、だよな? 多分。それで自分のお店持っているってすごくないか!?
「リーフェからなにも聞いていませんか?」
「うん。リーフェから聞くのは大体惚気だし……」
「……リーフェったら。ヒビキさま、リーフェのそんな話に付き合わなくても良いんですからね?」
「え、おれ、リーフェの惚気聞くの好きですよ? シャノンさんのこと、本当に好きなんだなぁってしみじみ感じるから」
おれが笑顔でそう言うと、シャノンさんは恥ずかしそうに頬を染めた。ああ、確かにリーフェの言う通り可愛い人だなぁと思っていたら、リーフェがおれとシャノンさんの間に割り込んできた。
すぐ近くにはルードも来ていて、リーフェのことを見て肩をすくめている。
「今の顔、すっごく可愛かった! ねぇ、ヒビキさまとなにを話していたの?」
「な、なんでもいいでしょうッ。ヒビキさま、そちらどうしますか?」
「えっ? あ、買います!」
そう言うとルードがおれにお金を渡してくれた。あ、そうだ。買い物するのが目的だった。すっかりシャノンさんとの会話に夢中になってしまった……!
「お買い上げありがとうございます。少々お待ちください」
おれからお金と刺繍糸を受け取って素早く会計を済ませて、刺繍糸を可愛い紙袋に入れて「お待たせしました」と笑顔でおれに渡してくれた。
お釣りも一緒に渡してくれたので、それをルードに渡そうとするとルードは小さく首を横に振る。どうやらこのお金はおれが持っていても良いみたい?
一体いくらになるのかよくわからないけれど、とりあえずありがたく受け取っておこう。
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