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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟む「クリスティ、この布と糸、紐を買う。ここで作っても構わないか?」
「もちろんでございます、メルクーシンさま。では、こちらへどうぞ。ヒビキさまとリーフェも」
いきなり布と糸を買うルードに驚いたけれど、ここで作るってなにを作るつもりなんだろう?
おれらはシャノンさんについていく。店の奥に休憩スペースがあるみたいで、ルードはそこでさっき買った布と糸を取り出して、シャノンさんに裁縫道具を借りてサクサクとなにかを作っていく。早い……。手慣れている人の動きだ。
「今、お茶を用意しますね」
「待って、シャノン。お茶なら私が淹れるわ」
シャノンさんはリーフェを見て、「ならお願いするわ」とリーフェに頼んだ。リーフェは張り切ってお茶を淹れ始める。シャノンさんは戸棚からクッキーを取り出すと、テーブルに置いておれを手招いた。
ポケットにお金を入れたおれは、ルードの裁縫している姿をぼんやり見ていたけど、シャノンさんに呼ばれたからテーブルに近付いて、椅子に座った。そのタイミングでリーフェがお茶を用意してくれて、なんだかいつものお茶会を思い出す。
「どうぞ、召し上がってください」
「良いんですか?」
「もちろんですわ」
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
両手を合わせてからクッキーに手を伸ばす。クッキーをひとつ摘まんで口の中へと頬張る。サクサクと軽い触感のクッキーは、前にリーフェが作って来たクッキーと同じ味がした。美味しいなぁと食べ進めていると、シャノンさんがにこにこと笑いながらおれを見ていて、首を傾げる。
「美味しそうに食べますね、ヒビキさま」
「すっごく美味しいです!」
「まぁ。ありがとうございます」
「ね、ヒビキさま。シャノンのお菓子は美味しいでしょう?」
恋人のお菓子を褒められたことが嬉しいのか、リーフェは上機嫌だ。お茶を手に取って一口飲む。うん、いつもの味。安定した美味しさ。
「紅茶も美味しいよ」
「ありがとうございます。ふふ」
そして、そんなリーフェを優しい眼差しで見つめるシャノンさん。彼女たちもクッキーを摘まんだりお茶を飲んだりと楽しそうに笑っている。……お店、閉めたままで良いのかな?
「ヒビキ」
「はいっ」
そんなことを考えていたら、ルードがおれを呼んだ。振り返るとルードがおれの近くに居て、巾着袋を手渡す。それを受け取って彼を見上げると、ルードは柔らかい口調でこう言った。
「お金はこの袋に入れると良い。落としては大変だろう?」
「あ、ありがとうございます……!」
そっか、おれ財布持ってないもんな。ポケットからお金を取り出して早速ルードの作ってくれた巾着袋に入れる。水色の布に紺色の紐。ルードの色だなぁと思ったら、このやり取りを見ていたリーフェとシャノンさんが微笑ましそうに目元を細めていた。
「お見事ですわね、メルクーシンさま。三十分もしないうちに完成させるなんて……」
頬に手を添えてシャノンさんがしみじみ呟く。確かにすごい。おれが同意のうなずきを返すと、ルードは不思議そうに目を丸くしてそれからシャノンさんを見て緩やかに首を振った。
「……プロであるあなたには敵わないさ」
「ありがとうございます」
……?
あれ、ここってただの手芸屋じゃないの? シャノンさんもなにか作れるの?
ふたりのやり取りを見て首を傾げると、リーフェがこっそりと教えてくれた。
「手芸道具やシャノンが作った物を置いているんですよ、このお店」
「え、そうなんだ。手芸店と言うより雑貨店なのかな……」
後でシャノンさんが作った物を見せてもらおう。……リーフェに視線を向けると、彼女も袖を捲ってリボンで止めていた。見たことない刺繍が視界に入って、思わずじっと見つめているとリーフェがおれの視線を追ってにこやかに説明してくれた。
「貴族同士では、こうやって互いの刺繍入りの服を着てアピールするんです」
「じゃあ、この刺繍をしたのはシャノンさん?」
「はい。そしてシャノンの着ている服に刺繍をしたのは私です。本来なら服を贈るのですが、私あまり裁縫は得意じゃないので……」
「刺繍も苦手って言っていたもんね」
「ええ……。あ、でもこの服はシャノンのお手製なんですよ!」
自慢するように胸元に手を当てて笑うリーフェの姿も可愛いなぁと思った。シャノンさんのことが大好きなんだって伝わってくる。リーフェが着ているのは明るい色のワンピースで、彼女の性格の明るさを思えばピッタリだと思う。
「クッキー、リーフェが前に作ってくれたのと同じくらい美味しいね」
「シャノンのお菓子は世界一ですよ、ヒビキさま」
さりげなく、でもないけれど、こうやって惚気てくるリーフェ。シャノンさんとルードはなにか会話をしている。それにしてもこのクッキー本当に美味しい。ニコロにも分けてあげたい。
「シャノンさん、このクッキーを少し分けてもらえませんか?」
ルードとシャノンさんの会話が途切れたところを狙って、声を掛ける。おれの申し出にちょっと驚いた顔をしたシャノンさんだったけど、おれが理由を話すと納得したようにうなずいて「用意しますね」と早速クッキーを包もうとしてくれた。
「シャノン、少し多めに入れてもらえる? 今日はニコロ、孤児院に顔を出すって言っていたから」
「え? そうなの?」
じゃあ孤児院に行けばニコロに会えるのかな。そう考えているとルードがおれの顔を見て、それから頭を撫でた。次の行き先が決まったところで、もう一度店内を見ていいかシャノンさんに尋ねると「もちろんですわ」と快諾してくれた。
おれが店内に戻って早速辺りを見渡して、シャノンさんが作った物を探す。毛糸の帽子や靴下、カーディガン。それにハンカチに可愛い刺繍がされていたりと探してみるとたくさんあった。
シャノンさん器用だなぁとしみじみしていると、クッキーを包み終わったシャノンさんが声を掛けてきた。可愛らしいラッピング。細やかな心遣いを感じる……!
「これ、全部シャノンさんが作っているんですか?」
「え? ええ。わたくしのスキルは裁縫ですので……」
……スキルって色々あり過ぎじゃないか……?
リーフェが鋼の檻、ニコロが突風、リアが刺繍、サディアスさんが読心術、そしてシャノンさんが裁縫……。一体どれくらいの種類があるんだろう。ちょっと気になってきたぞ。
それに、サディアスさんのスキルは箝口令が出ているけれど、他のスキルについては口にしていいものが多いのか?
「スキルって色々あるんですね……」
「そうですね。わたくしはこのスキルで店を持つことが出来ましたの」
自分の作った商品を手に取って、愛しそうに撫でるシャノンさん。ひとつひとつに愛情を持って作っているんだろうなって思った。そして、ふわりと微笑むとおれにクッキーを渡す。
「彼の口に合えば良いのですが……」
「あ、それは絶対大丈夫ですよ。ニコロ、甘い物大好きだから」
甘い物を食べている時のニコロの様子を思い出して小さく笑う。幸せそうに食べていたもんな。シャノンさんはそんなおれの言葉に目を瞬かせて「それなら大丈夫かもしれませんね」と微笑んだ。
商品を戻してシャノンさんは後ろを振り返る。リーフェとルードも近くまで来ていた。
「ねえ、シャノン。今日はこのままお店をお休みにして、お昼をルードさまとヒビキさまと一緒に食べない?」
「リーフェったら、おふたりの時間を邪魔しちゃダメよ?」
眉を下げて肩をすくめるシャノンさん。おれとルードは顔を見合わせて、それからルードは「ヒビキの好きにして良いよ」と言ってくれたので、もう少しシャノンさんとも話してみたかったし、昼食に誘うことにした。
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