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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟むソニアさんが今日のランチを教えてくれて、A定食はハンバーグ、B定食は白身魚フライ。おれとニコロとリーフェがA定食、ルードとサディアスさんとシャノンさんがB定食を選択してそれぞれ注文した。
それぞれ無言。ただ水を飲んでいるだけって言う、なんだか異様な雰囲気。
「えーっと、屋敷の人たちはお休みなの?」
リーフェとニコロに向かってそう尋ねると、ふたりともこくりとうなずいた。それから、リーフェが軽く説明してくれた。
「ルードさまとヒビキさまが観光旅行中なので、その間を屋敷の使用人はローテーションで休んでいます。それぞれ四連休くらいですかね」
「……じいやたちも休んでいるか?」
「ええ、まぁ……。あの人たちは働いている時が一番楽しそうですが……」
じいやさんの顔を思い浮かべて、確かにとひっそり思う。リーフェの姉夫婦にコウノトリが来た時くらいしか休みを取っていないんじゃ? って思っちゃうくらいほぼ屋敷に居たような気が。逆にリアは割と頻繁に休んでいるイメージ。小さい子を育てているから、その子たちが熱を出したりするとどうしても休まざるを得ないんだろう。
リアとは会わない日も多いからなぁ。会う時は大体刺繍を一緒にしている。
「あれ、ニコロも休みをあまり取らないって聞いたけど……、四連休なんだ?」
ルードから聞いたことを思い出して、彼に顔を向けるとニコロは思い切り表情を歪ませた。そして睨むようにサディアスさんに視線を流す。それだけで、なんとなく事情を察することが出来た。
サディアスさん、リーフェと協力しているのかな……?
「あの……」
おれがそんなことを考えていると、シャノンさんがサディアスさんとニコロへと顔を向けて話しかけようとしていた。ふたりが彼女へ視線を向けると、シャノンさんはサディアスさんに向かってこう言った。
「以前、わたくしの店で買い物して頂いてありがとうございました。その、お気に召して頂けたでしょうか……?」
サディアスさんもシャノンさんのお店でなんか買っていたのか!
彼は一瞬目を丸くして、それからぽんと手を叩いた。
「それがね、受け取ってもらえなくて。わたしはとても気に入ったんだけど……」
心底残念そうに頬に片手を添えて目を伏せるサディアスさん。バツが悪そうにシャノンさんから視線を逸らすニコロ。
「もしかして、あの大量の荷物ってシャノンさんの店で……?」
「ああ、うん。彼女の腕はすごいよ。ニコロに似合いそうな服を作ってもらっていたんだ」
「聞きたくなかった……!」
ニコロの小声が聞こえてきた。サディアスさんが持ってきていたあの荷物、やっぱりニコロ用の服だったんだ。……あれ、貴族が刺繍入りの服を贈ることが愛し子の条件なんだっけ? 手作りじゃないとダメなんだっけ?
「本当はわたしが服も刺繍もしたかったんだけど、仕事が忙しくてね……。代理で作ってもらっていたんだ」
へえ、そういうのも有りなんだ。でもまぁ、確かに忙しい人には無理そう……。ちょっと待って、ルードが十五歳くらいから作っているのは知っているけど、おれに着せるのは自分が作った物だけって言っていたような気がする。ここら辺はどういう……?
「……独占欲強いなぁ」
ぽつりと呟くサディアスさんに、ルードがちらりと視線を向けた。が、なにも言わなかった。ただ顔に「それはあなたでしょう」と書いているような錯覚を覚えた。サディアスさんも独占欲強そうなイメージは確かにあるな。
「年上の愛し子って聞いたことねー……」
ニコロがサディアスさんに向かってそう言った。もしかして、ニコロがサディアスさんのことを恋人じゃないって言っているのはそれが関係しているのかな。そもそもなんでサディアスさんはニコロのことを三年間も放置していたのか。不思議。
「……サディアスさんとニコロは付き合っていたんですよね……?」
「今も付き合っているつもりなんだけど」
「聖騎士団辞めた時に関係切ったつもりなんですけど?」
――このふたりの意見の食い合わなさ……!
ちょっと漫才を見ているみたいで面白い気がしてきた。ふたりには悪いけれど。
「どうしてアシュリーさまは、三年もニコロのことを放っておいたんですか?」
リーフェが切り込んできた!
確かに気になるけれど、それ聞いても良いのだろうか……? するとサディアスさんは忌々しそうにルードに視線を向けた。え、もしかしてルードが関わっている?
ルードとサディアスさんの関係も割と謎。ルードに愛し子が出来て泣いて喜び、ニコロの雇用に関しても前にそれで良いと思っている的なことを言っていたし。
ルードもルードでサディアスさんに対しては身内的な遠慮のなさを感じる時がある。おれにはわからないことが多すぎる……!
「ニコロの怪我はわたしを庇って出来た怪我だし、本来ならわたしが屋敷に招いたほうが良いと思うんだけどね……」
「やめてくださいお願いします」
切実な訴え過ぎるよニコロ……。そして三年も放っておいた答えになっていない。続きを促すようにリーフェがサディアスさんを見つめる。……貴族同士って苗字で呼ぶ決まりでもあるんだろうか。
「ルードにね、ニコロの怪我が完治して、歩けるようになるまでは屋敷に来るなって言われていてね」
「私に会うたびに引き抜こうとはしていましたよね、あいさつ代わりに」
ニコロはがくりと肩を落として深いため息を吐いた。あれ? でもニコロって三年前から働いていたんじゃなかったっけ。リハビリにどれくらい時間を掛けたんだろう?
「ああ、それで……。ニコロが外に行くのを断っていたのは、歩いているのをアシュリーさまに見つからないためだったのね?」
ニコロに確認するようにリーフェは尋ねる。ニコロは俯いてしまった。図星だったようだ。サディアスさんはにこにことそんなニコロを見ているし、シャノンさんはハラハラしているのが良くわかる。
「はーい、お待たせしました~」
そんな雰囲気を砕くようにソニアさんが定食を持ってきてくれた。働いている人がもうふたり定食を持ってきた。全員分を同時に提供してくれるのか。
目の前のハンバーグ定食はハンバーグが分厚くて付け合わせのコーンも美味しそう。パンとサラダ、スープも付いていて結構なボリュームだ。
手を合わせて、「いただきます」と呟いてからナイフとフォークを手に取る。
みんなそれぞれ食事を始めると、無言になった。
ハンバーグはナイフで切ると肉汁が溢れるくらいジューシーで美味しい。……それにしても、やっぱりみんな様になっているな。みんな惚れ惚れするほどの美しさ。食べているだけなのに。
「美味しいかい、ヒビキ?」
「とても美味しいです。ルードはB定食でしたよね、美味しいですか?」
「ああ。……一口食べてみる?」
ナイフとフォークで白身魚フライを切って、おれの口元に運ぶルード。……ここ人前なんですが! おれがどうしようか悩んでいると、「ほら、口を開けて」とさらに近付く。……まぁいいか、とルードから白身魚フライをもらう。
あっさりと淡泊な白身魚がフライにされているってどうしてこんなに美味しいのだろうか……! 外側はカリッと内側はジューシー。どっちの定食も当たりだなぁ、この食堂。
……そして、ものすごく見られていることに気付いてハッとした。ルードはおれが食べたことに嬉しそうにしているし、リーフェとシャノンさんは目を輝かせていたし、サディアスさんは羨ましそうにルードを見ているし、ニコロはなにも見ていません、と言うようにハンバーグを食べていた。
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