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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟む「そう言えば、ここは宿だったんですか?」
「ああ……。隠れ家だと言っただろう? ここの宿主は私であって私じゃない」
「えっ?」
どういう意味だろう? と首を傾げると、ルードはにこりと微笑んで立ち上がる。そして、おれの手を取って立ち上がらせると家の外へと出た。湖まで近付いてそっとその湖に触れて、祈るように目を閉じる。
すると――湖が凍り始めた! ルードは湖から手を抜いて「来るよ」と湖の先を指した。なにが来るのだろうと思っていると、確かになにか足音が聞こえる――……。
「……なにか用か、契約者よ」
「…………え、オオカミがしゃべった!?」
オオカミ――にしては大きい。大きすぎる。ああ、でももふもふだ。埋もれたい! ……じゃなくて。おれがパニックを起こしているとくつくつ喉を鳴らしてルードが肩を震わせながら笑った。
「あの家の正式な宿主だよ、ヒビキ」
「え、えええええっ!?」
「あー……、なるほど。契約者の愛し子か」
オオカミ? はどこか納得したように呟くと姿をどんどんと小さくした。子犬程度の大きさになると、おれに近付いてふんふんと匂いを嗅いでいる。そして、「精霊の好きな匂いだ」と言った。
精霊の好きな匂い?
「精霊の祝福か。こんなに好かれている人間を見るのは久しぶりかもしれん」
「あ、あの……えーっと……」
「ヒビキ、こちらは氷の精霊のフェンリルだ」
フェンリル!? なんかで聞いたことあるぞ! えーと、なんだっけ。って言うか精霊って目に見えるの!?
「私が氷の精霊に好かれているのは話したね?」
「は、はい。聞きました」
「契約者は氷の精霊が好む匂いをしていたから、契約した」
フェンリルはあっさりとそう言い、ルードはうなずいた。ぽかんと口を開けていると、フェンリルが撫でろとばかりにおれの足元にすりすりとしてきたので、おれはしゃがんでそうっと撫でた。わー、可愛い……。
「フェンリルもヒビキを気に入ったようだ」
「フェンリルも?」
「周りを見てごらん」
いつの間にかおれらの周りに小さな光が集まっていた。全部同じ色。開いた口が塞がらないとはこのことか。
「フラウたちも気に入ったようだな」
「えっと……ごめんなさい、フラウって?」
「氷の下位精霊だ。フェンリルは彼女たちの纏め役、のようなものかな」
「彼女?」
「フラウは雪娘だから。みんなあの家に住んでいたんだよ」
……まさか最終日にそんなことを知ることになるとは。ルードがここを宿と言ったのはそういう理由だったのか……? 隠れ家で宿ってどういうことなのかと思っていたけど、ルードとふたりきりの生活が楽しくてすっかり頭から飛んでいた。
「料理の許可って……」
「フェンリルの許可。快く許可してくれたよ」
もしかしておれが寝ている時にでも呼んでいたのかな? それで許可を貰っていたとか?
「そっか……。ありがとうございます、フェンリル」
フェンリルは「面白い人間だな」と呟いておれの手から離れてまた大きくなっていった。もふもふが大きくなっていく……。
「ルードとヒビキは今日で戻るのだろう? 我らは再びそこに住むぞ」
「ああ。貸してくれてありがとう」
「なに、あの家を住みやすくしてくれたのはルードだろう」
そう言ってフェンリルとフラウはどこかに去っていった。……今はどこに住んでいるのだろう。
「……精霊って契約出来るんですか?」
「ああ。相性が良ければな。私のスキルが氷の剣なのもフェンリルが関係しているのかもしれない」
「それはどういう……?」
「私がフェンリルと契約したのが五歳の頃だ。子犬だと思っていたらフェンリルだった」
……家族びっくりしただろうなぁ。懐かしむように目元を細めたルードをちらりと眺め、それから氷が解けて元の湖に戻った。こういうことも出来るんだ、精霊すごい。
それにしても……ちっちゃなルードとフェンリルが戯れているのを想像して和んだ。絶対可愛い!
「さて、そろそろ行こうか」
「ルードの行きたい場所でしたね」
ゆっくりと首を縦に動かすルード。おれのほうから手を握ると、ルードはおれの顔と繋がれた手を見て嬉しそうに表情を緩ませて隠れ家に戻り玄関の鍵を施錠して、ワープポイントに立つ。ルードが手を翳して、いつもと同じようにワープポイントから王都に入り――えーっと、ここはどこだ。
「……毎回違う場所に出ている気がします」
「はは。今日はここからのほうが近いから。こっちだ、ヒビキ」
おれの手を引いて歩き出すルード。なんだか上機嫌のように見える。隣に立って一緒のペースで歩くと、ルードはフェンリルとの契約のことを口にした。
「私が精霊と契約しているの、黙っていてすまない」
「謝らないでください! ちょっとびっくりしましたけど……」
「うん。フェンリルがね、ヒビキの様子を見たいって言ったから黙っていたんだ」
「フェンリルが?」
ところでフェンリルって呼び捨てにしているけど良いのだろうか。フェンリルって言う名前なのかな。雪娘がフラウだっけ。色々考えていたら頭がこんがらがって来たぞ。まぁ、冷静に考えれば精霊の居る世界なのだから、姿が見えてもおかしくないのか……。
「あの家にいきなりあんなに大きな狼が居たら驚くだろう?」
「驚かないわけがないですよね……」
「なので、ヒビキが大丈夫そうなら紹介しようと思っていて。折角だから今日会わせたんだ」
今日で屋敷に帰るから、かな。あの白い毛並みのもふもふ感は堪らなかった。大きくなったフェンリルももふもふしたかった……。さすがにそれは怒られそうだけど。
「ヒビキはもしかしたら、この世界全ての精霊に好かれているのかもしれないな」
「水晶には七つの光でしたけど……」
「水晶のほうに限界があるのかもしれないよ?」
七つまでの光しか見えない可能性? そんなことあるのかなぁと考えていると、ルードの目的の場所へ辿り着いたらしい。布を扱っているお店、なのかな?
ルードはカランと鈴を鳴らしながら店に入る。おれも一緒に入るとお店の人らしい――えーっとソニアさんとは真逆な人が出て来た。女性、なんだろうけれど……おれより背の高い男装した人がおれらに気付いてこちらに走り寄って来た。
「これはメルクーシンさま。ようこそいらっしゃいました。そちらの方は?」
「私の恋人だ」
「まぁ、恋人と来ていただけるなんて光栄ですわ。初めまして、ワタシはこの店の店主、メイベルと申します。どうぞお見知りおきを」
左胸に手を添えて恭しく頭を下げる女性に、おれははっと我に返って、すぐに挨拶をした。
「初めまして、メイベルさん。おれはヒビキって言います。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、メイベルさんがおれの肩に手を置いてた。驚いて顔を上げると、じっと真剣な表情を浮かべながらおれを見て、それからぱっと笑みを浮かべた。
「可愛らしいお方ですね。ヒビキさまに似合う布をご用意しますわ」
そう言ってメイベルさんは店の奥へと早足で去っていく。おれが思わずルードを見上げると、彼はぽんとおれの頭に手を置いてわしゃわしゃと撫でた。
「ここは……?」
「布屋。売っているのは布だけだが、その布のクオリティが高い。ヒビキが着ている服もここで買った布だ」
服に使う布……だけを扱う店? そういう専門店もあるんだ。って言うか、おれが着ている服!? と視線を落とすと、メイベルさんが戻って来た。そして、おれらに布地を見せる。
「ヒビキさまにはこちらのパステルカラーが似合うと思います。こちらやこちらも似合うでしょうし……」
そう言ってメイベルさんが柔らかい黄色や淡い緑色などをおれに勧めてくる。どうすればいいのかわからなくて、ルードに視線を移すと彼は真剣に布を選んでいた。あ、これ作るつもりデスネ……?
「えーっと、おれあまりそう言うのに詳しくないんですけど……」
「あら。ではこの中でどれが一番お好きな色ですか?」
「この中で? んー……と、この色かな?」
「それを貰おう」
おれが悩んで選んだのはやっぱり、ルードの目と同じスカイブルーの布だった。その布を見て、メイベルさんがすっとルードに視線を向け、それからなにかを察したかのように微笑む。……なにを察したんだろう。
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