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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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そのうちにお腹が空いたのかそれとも眠くなったのか、本日の主役である赤ちゃんが泣き始めて、その子のお母さんがよしよしとあやしていたけど、結局会場から出て行ってしまった。サディアスさんはもう渡し終えたのか、ニコロに言われたからか、さくっとこっちに戻って来た。
そして、おれとルードを呼ぶ。わざとらしく、大きな声で。びっくりしてサディアスさんを見ると、みんなの視線が一気にこっちに向かってきた。ピリピリするような視線に、困惑の表情を浮かべると、サディアスさんが本当にわざとらしく世間話をし始めた。
「それにしても、相変わらずここは寒いね! ヒビキさん、暖めてくれない?」
「え? ど、どうやって?」
「火の精霊にお願いすると良いよ。ヒビキさんの言う事なら絶対聞いてくれるから」
パチンとウインクひとつ。確かにここ王都に比べると寒いけど……。
「サディアスさんを? それとも部屋を?」
「部屋かな。寒い人もいるだろうし?」
まぁ、確かに。パーティーだと張り切ったのか、女性は薄着の人たちが多いし。冷えは女の敵だけどおしゃれには冷えがつきもの的なことを姉が言っていたのを思い出した。とはいえ暑くし過ぎるのもダメだから……。
おれは目を閉じて精霊さんに大体二十二度前後にしてくださいってお願いした。おれもちょっと肌寒かったし、日本ではこのくらいの気温が一番過ごしやすかった気がしたから。ぽう、と手のひらが温かくなる感覚。『まかせて』って言われたような気がした。
「――うん、さすがヒビキさん。この場所以外も恩恵を授かったみたい」
感心したようにそう言うサディアスさんに、周りがざわついた。
「一気に暖かくなったようだが……?」
疑問を投げたのはルードのお父さんだった。厳格そうな顔だ。となりにはなにかに怯えたような女性がいる。ルードのお母さんかな。って言うか、メルクーシン家全員こっちに来てないか?
「ああ、すまないね。寒かったからつい」
「いえ、アシュリーさま、それは良いのですが……」
あ、サディアスさんには敬語を使うのか。サディアスさんのほうが爵位が上だから? じっとこっちを見つめてくるメルクーシン家の人たちに、おれはどうすればいいのかわからなくてルードを見上げる。ルードも困惑しているみたいでサディアスさんに視線を向けていた。
「……その刺繍、ルードリィフが?」
「え? あ、はい。そうです」
「貴族の愛し子が……」
言外におれじゃ不釣り合いって言われている気が……。まぁ、ルードはイケメンだしな。……ん? 違うか。この人たちは『貴族』であることが誇りなのだろう。だからこそ、貴族っぽくないおれを睨んでいる?
「……私が愛する者の前で、その態度はないでしょう」
怒気が込められた声だった。おれは気にしていないから良いんだけど。それにしてもさっきからルードリィフルードリィフってルードの本名なのになんか聞きなれない人名のようで……。
「あ、あの、はじめまして。ヒビキって言います」
さっきもこんな挨拶をしたような気がするけど、メルクーシン家の人たちは一気におれを凝視した。すっごい居心地悪いんですけど! でもね、これだけは言わなきゃって思って更に言葉を続けた。
「ルードをコウノトリに運んでもらって、ありがとうございました」
生んでくれて、と言おうとしたけど、考えてみればこの世界はコウノトリが赤ん坊を運んで来るんだったと思い出して、そう言った。その時のメルクーシン家の人たちの表情と言ったら! 心底驚愕するような、恐ろしいものを見るような、色々な感情が混ざり合った視線を向けて来た。
「正直、おれはあなたたちのことを知りませんし、ルードからも軽くしか聞いていません。ただ、このパーティーで会えたなら伝えたいことがあって」
「――ほう?」
「招待状を渡さなかったってことは、ルードをメルクーシン領に呼ぶつもりはなかったんですよね? それなら――ルードはおれがもらいます」
物じゃないんだから、あげるあげないって言うのはきっと正しくない。でも、でもさ! こんなにルードのことを敵視しているような人たちに、ルードを渡したくない。おれの言葉があまりにも意外だったのか、メルクーシン家の人たちは困惑の表情を浮かべた。
「それがどういう意味かわかっているのかね? 見たところただの平民のようだが、平民如きが本当に貴族の息子に嫁げるとでも?」
「――息子と思われていないことくらい、知っていますよ」
ぽつりと呟いたルードの言葉に胸がぎゅっと痛くなる。ぽん、とおれの頭を撫でるルードを見上げようとしたけど、彼は決しておれを見なかった。こっちを見て欲しいのに。ルードが自らおれの頭を撫でたのが意外だったのか、メルクーシン家の人たちはさらに困惑していた。
「あれ? おじさんは『ばけもの』なんでしょ? 『にんげん』じゃないんでしょ?」
子どもの無邪気な声に、その場の空気が凍った。こんな小さな子が、そんな言葉を口にするってすごく怖い。なんでそんなに――ルードのことを怖がるのだろうか。
「こんなに小さい子に、ルードのことを化け物だと教えていたの?」
静かに怒るサディアスさんの声。それに気付いたのか、ルードのお父さんが慌てたようにサディアスさんに声を掛ける。
「いえ、違うのですよ、アシュリーさま。ただ」
「ただ? 違うわけないよね? ヒビキさんに関しても『平民如き』? 本当に視野の狭い貴族主義だこと」
サディアスさんのきれーな顔から紡がれる言葉の恐ろしさよ……! 怒り心頭、という言葉がぴったりだ。
「アシュリーさまは子がいませんので、我々の苦労を知らないのですよ」
「アシュリー家に嫁いだものに平民は多く居ますが?」
それはアシュリー家の執着心の問題なのでは……と思いつつも口にはしない。「それに」とサディアスさんがニコロを引っ張る。突然のことに驚いて、ニコロはぽすっとサディアスさんに抱きしめられた。
「わたしが愛する者も平民です。わたしに向かって、彼を『平民如き』と言えますか?」
「え、ちょ……!」
巻き込まれたニコロは慌てたようにサディアスさんから離れようとした。だけど、がっちりとホールドされてニコロは抜け出せない。その表情は『目立ちたくない!』と思い切り書いてある。
「アシュリーさまが、平民を……? ご冗談でしょう……?」
心底信じられないって顔で、サディアスさんとニコロを交互に見ていた。
「王都では普通のことですよ。人を愛する心に、貴族も平民も関係ありませんから」
……初めて聞いたんですけどー……。ルードも呆れたような視線をサディアスさんに向けていた。きっと彼も初めて聞いたのだろう。後半は良いこと言っているハズなのに、ニコロが藻掻いているから決まるところも決まらない。
「本当の『化け物』って言うのはね――……。家族のことを愛そうともしない、あなたたちのことを言うのでないかい?」
「な、なにを……」
「やっぱりこれ以上、あなたたちと付き合う義理はないね。このパーティーが終わったら、わたしはもうメルクーシン家に関わることを断るよ」
「なっ! そ、それは困ります……!」
「それはわたしが公爵だからでしょう? いい加減貴族以外にも目を向けなよ。わたしより年上なのにどうしてそんなに……ああ、ごめん。年上だから頑固なのか」
綺麗な人が切れると怖いってどっかで聞いたことがあるけれど、まさにそれを実感している。そしてサディアスさんには『平民如き』って言葉を使わない辺り、本当に貴族主義の人なのだろう。
それにしてもよくこんなにさらさらと言葉が出るもんだ。ちょっと圧倒されてしまった。
ルードはぽかんとしているし……。そんな表情も可愛いとは思うけど。
「ルード」
「あ、ああ……。なんだい、ヒビキ」
力が抜けたのかあっさりとルードの手から抜け出せた。だから、おれはルードと向かい合うように立って、その手を握った。その瞬間、ぽとりとミサンガが切れた。ミサンガが切れたことに驚いて、ルードが目を瞠るのと同時に、おれの口から言葉が飛び出た。
「おれと結婚してください」
静まり返った広間の中で、おれの声が凛と響いた。
そして、おれとルードを呼ぶ。わざとらしく、大きな声で。びっくりしてサディアスさんを見ると、みんなの視線が一気にこっちに向かってきた。ピリピリするような視線に、困惑の表情を浮かべると、サディアスさんが本当にわざとらしく世間話をし始めた。
「それにしても、相変わらずここは寒いね! ヒビキさん、暖めてくれない?」
「え? ど、どうやって?」
「火の精霊にお願いすると良いよ。ヒビキさんの言う事なら絶対聞いてくれるから」
パチンとウインクひとつ。確かにここ王都に比べると寒いけど……。
「サディアスさんを? それとも部屋を?」
「部屋かな。寒い人もいるだろうし?」
まぁ、確かに。パーティーだと張り切ったのか、女性は薄着の人たちが多いし。冷えは女の敵だけどおしゃれには冷えがつきもの的なことを姉が言っていたのを思い出した。とはいえ暑くし過ぎるのもダメだから……。
おれは目を閉じて精霊さんに大体二十二度前後にしてくださいってお願いした。おれもちょっと肌寒かったし、日本ではこのくらいの気温が一番過ごしやすかった気がしたから。ぽう、と手のひらが温かくなる感覚。『まかせて』って言われたような気がした。
「――うん、さすがヒビキさん。この場所以外も恩恵を授かったみたい」
感心したようにそう言うサディアスさんに、周りがざわついた。
「一気に暖かくなったようだが……?」
疑問を投げたのはルードのお父さんだった。厳格そうな顔だ。となりにはなにかに怯えたような女性がいる。ルードのお母さんかな。って言うか、メルクーシン家全員こっちに来てないか?
「ああ、すまないね。寒かったからつい」
「いえ、アシュリーさま、それは良いのですが……」
あ、サディアスさんには敬語を使うのか。サディアスさんのほうが爵位が上だから? じっとこっちを見つめてくるメルクーシン家の人たちに、おれはどうすればいいのかわからなくてルードを見上げる。ルードも困惑しているみたいでサディアスさんに視線を向けていた。
「……その刺繍、ルードリィフが?」
「え? あ、はい。そうです」
「貴族の愛し子が……」
言外におれじゃ不釣り合いって言われている気が……。まぁ、ルードはイケメンだしな。……ん? 違うか。この人たちは『貴族』であることが誇りなのだろう。だからこそ、貴族っぽくないおれを睨んでいる?
「……私が愛する者の前で、その態度はないでしょう」
怒気が込められた声だった。おれは気にしていないから良いんだけど。それにしてもさっきからルードリィフルードリィフってルードの本名なのになんか聞きなれない人名のようで……。
「あ、あの、はじめまして。ヒビキって言います」
さっきもこんな挨拶をしたような気がするけど、メルクーシン家の人たちは一気におれを凝視した。すっごい居心地悪いんですけど! でもね、これだけは言わなきゃって思って更に言葉を続けた。
「ルードをコウノトリに運んでもらって、ありがとうございました」
生んでくれて、と言おうとしたけど、考えてみればこの世界はコウノトリが赤ん坊を運んで来るんだったと思い出して、そう言った。その時のメルクーシン家の人たちの表情と言ったら! 心底驚愕するような、恐ろしいものを見るような、色々な感情が混ざり合った視線を向けて来た。
「正直、おれはあなたたちのことを知りませんし、ルードからも軽くしか聞いていません。ただ、このパーティーで会えたなら伝えたいことがあって」
「――ほう?」
「招待状を渡さなかったってことは、ルードをメルクーシン領に呼ぶつもりはなかったんですよね? それなら――ルードはおれがもらいます」
物じゃないんだから、あげるあげないって言うのはきっと正しくない。でも、でもさ! こんなにルードのことを敵視しているような人たちに、ルードを渡したくない。おれの言葉があまりにも意外だったのか、メルクーシン家の人たちは困惑の表情を浮かべた。
「それがどういう意味かわかっているのかね? 見たところただの平民のようだが、平民如きが本当に貴族の息子に嫁げるとでも?」
「――息子と思われていないことくらい、知っていますよ」
ぽつりと呟いたルードの言葉に胸がぎゅっと痛くなる。ぽん、とおれの頭を撫でるルードを見上げようとしたけど、彼は決しておれを見なかった。こっちを見て欲しいのに。ルードが自らおれの頭を撫でたのが意外だったのか、メルクーシン家の人たちはさらに困惑していた。
「あれ? おじさんは『ばけもの』なんでしょ? 『にんげん』じゃないんでしょ?」
子どもの無邪気な声に、その場の空気が凍った。こんな小さな子が、そんな言葉を口にするってすごく怖い。なんでそんなに――ルードのことを怖がるのだろうか。
「こんなに小さい子に、ルードのことを化け物だと教えていたの?」
静かに怒るサディアスさんの声。それに気付いたのか、ルードのお父さんが慌てたようにサディアスさんに声を掛ける。
「いえ、違うのですよ、アシュリーさま。ただ」
「ただ? 違うわけないよね? ヒビキさんに関しても『平民如き』? 本当に視野の狭い貴族主義だこと」
サディアスさんのきれーな顔から紡がれる言葉の恐ろしさよ……! 怒り心頭、という言葉がぴったりだ。
「アシュリーさまは子がいませんので、我々の苦労を知らないのですよ」
「アシュリー家に嫁いだものに平民は多く居ますが?」
それはアシュリー家の執着心の問題なのでは……と思いつつも口にはしない。「それに」とサディアスさんがニコロを引っ張る。突然のことに驚いて、ニコロはぽすっとサディアスさんに抱きしめられた。
「わたしが愛する者も平民です。わたしに向かって、彼を『平民如き』と言えますか?」
「え、ちょ……!」
巻き込まれたニコロは慌てたようにサディアスさんから離れようとした。だけど、がっちりとホールドされてニコロは抜け出せない。その表情は『目立ちたくない!』と思い切り書いてある。
「アシュリーさまが、平民を……? ご冗談でしょう……?」
心底信じられないって顔で、サディアスさんとニコロを交互に見ていた。
「王都では普通のことですよ。人を愛する心に、貴族も平民も関係ありませんから」
……初めて聞いたんですけどー……。ルードも呆れたような視線をサディアスさんに向けていた。きっと彼も初めて聞いたのだろう。後半は良いこと言っているハズなのに、ニコロが藻掻いているから決まるところも決まらない。
「本当の『化け物』って言うのはね――……。家族のことを愛そうともしない、あなたたちのことを言うのでないかい?」
「な、なにを……」
「やっぱりこれ以上、あなたたちと付き合う義理はないね。このパーティーが終わったら、わたしはもうメルクーシン家に関わることを断るよ」
「なっ! そ、それは困ります……!」
「それはわたしが公爵だからでしょう? いい加減貴族以外にも目を向けなよ。わたしより年上なのにどうしてそんなに……ああ、ごめん。年上だから頑固なのか」
綺麗な人が切れると怖いってどっかで聞いたことがあるけれど、まさにそれを実感している。そしてサディアスさんには『平民如き』って言葉を使わない辺り、本当に貴族主義の人なのだろう。
それにしてもよくこんなにさらさらと言葉が出るもんだ。ちょっと圧倒されてしまった。
ルードはぽかんとしているし……。そんな表情も可愛いとは思うけど。
「ルード」
「あ、ああ……。なんだい、ヒビキ」
力が抜けたのかあっさりとルードの手から抜け出せた。だから、おれはルードと向かい合うように立って、その手を握った。その瞬間、ぽとりとミサンガが切れた。ミサンガが切れたことに驚いて、ルードが目を瞠るのと同時に、おれの口から言葉が飛び出た。
「おれと結婚してください」
静まり返った広間の中で、おれの声が凛と響いた。
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