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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟むしんとした静寂。ルードの手が段々と温かくなっていくのを感じて、おれは彼に微笑みかけた。
「おれと家族になろう?」
ルードはおれをじっと見つめて、それからふはっと笑った。
「困ったな、プロポーズは私からしようと思っていたのに。いつもヒビキに先を越されてしまう」
「じゃあ、今度ルードからプロポーズしてください、出来ればふたりきりの時に!」
おれが明るくそう言えば、ルードはこくりとうなずいてくれた。そして、愛しそうに落ちたミサンガを拾って撫でた。
「本当に叶うとは思わなかった」
「それ、ちゃんと燃やしてくださいね……」
勿体ないなぁと呟いているのは聞こえないふりをして、おれはメルクーシン家の人たちに顔を向ける。それから、飛び切りの笑顔で明るく言い放つ。
「あ、おれのスキルって『精霊の祝福』なので、これだけで貴族になれる資格があるって聞きました。――万が一、おれが貴族になったとしても、あなたたちと関わり合いになることはないと思いますけど!」
なる気はないけどね!
「ヒビキ、ナイフは持っている?」
「え? ええ、持っていますけど……」
「ちょっと貸して」
ポケットからナイフの入ったケースを取り出してルードに渡す。ルードはナイフをケースから取り出して、ケースをおれに渡した。いつものように一纏めにしている髪を掴んで、一気にナイフを入れた。
「フェンリル」
彼が契約している精霊の名を呼ぶと、大きな姿のフェンリルが現れてパーティーに集まった人たちが一気におれらから離れた。
「随分と男前になったじゃないか、契約者よ」
「ありがとう。これ、いる?」
「もらうとも。これで数百年は生きることが出来る」
フェンリルのご飯って魔力なのかな? ぱくっとルードの髪を咥えると上機嫌になったように見えた。それからじろりとメルクーシン家の人たちをひと睨み。髪を咥えながら器用に喋る。
「この地の守護はまた別のものになるだろう。それまで寒さが続くことになるだろうが、身から出た錆としてしっかり領地を守れよ、メルクーシン」
「ど、どういうことだ……!」
フェンリルを睨みつけるルードのお父さん。
「フェンリルは元々、このメルクーシン家の守護精霊だったんですよ。ですが、精霊であるフェンリルをあなたたちは恐れた。だからこそ、フェンリルは力を失うところだったんです」
「それをメルクーシン家の三男が救うとは、世の中どうなるかわかったものではないな」
そう言えば本で読んだことがあるような、ないような。この世界って精霊の力を借りて生きているから、加護を失うと大変なことになるとかならないとか。あれってフィクションの話だと思っていたけど、違うのかな?
「嘆くのならば、愛する努力をしなかったことを嘆けよ。――人間」
冷たい声と瞳でそう言うと、フェンリルはその場から消えてしまった。呆気に取られているおれらと対照的に、わなわなと震えるメルクーシン家の人たち。
「愛せて……愛せていたなら、愛していたわよ! いつ死ぬかわからないほどの魔力を持って、強大な精霊を従える子のことを、どうやったら普通の子として愛せるというの!?」
ヒステリックに叫んだのは多分、ルードのお母さん。彼女はそう叫ぶと逃げるように広間から姿を消してしまった。
「相変わらずのヒステリックぶりだこと」
サディアスさんの声も冷たい。メルクーシン家の人たちはおれらを睨んで、彼女を追いかけて行った。小さい子はなにがなんだかわからないみたいで、とりあえず家の人についていったって感じだった。
主催者がこの会場から離れて良いものなんだろうか……。貴族のパーティーってどういう感じなのかしらないからなんとも言えないけど。
「あの、いい加減離してもらえませんかね……!」
「ああ、ごめんごめん。つい。抱き心地が良くて」
「嘘言え!」
彼らのやり取りはいつも通りで、なんだか急に力が抜けてしまった。って言うか、それよりも!
「ルード、どうして、髪を……!」
「ヒビキを見ているとショートも良いなぁと思って。機会があれば切ってみたかったんだ」
マントでナイフを綺麗に拭いてからケースをひょいと取ってナイフをしまう。それをおれに持たせて、おれはポケットに入れた。いやだから、そうじゃなくて!
ルードをしゃがませて髪を見る。ナイフで切ったからバラバラだ。
「――後で、髪の毛整えてもらいましょうね……」
短くなった髪をさらさらと梳く。心地よさそうなルードに、思わずぎゅっと抱きしめる。周りがざわついたけど知らない。今はただ、ルードのことを甘やかしたかった。そんなおれらを、サディアスさんとニコロは見守ってくれていた。
あまりにも散々なパーティーだったと思う。あそこまでメルクーシン家の人たちがルードのことを嫌っているとは思わなかった。対してルードはそこまで嫌いって感じがしない。むしろ、あまり関心がないような……?
「それにしても思い切ったね、ヒビキさん」
一泊することになっているらしく、与えられた部屋はなんと四人部屋。そこにさらっとサディアスさんもいるのだから、一体どういう『お願い』をしたんだろうか。
「みんなの前でプロポーズなんて」
いたずらっぽく微笑むサディアスさんに対して、おれはさっきの言動を思い出してあはは、と頬を掻いた。ニコロもこくこくとうなずいて、ルードに至ってはさっきからずっと熱い視線をおれに向けている。
「なんて言うか、あの人たちがルードの家族ってことに納得がいかなくて。だったら、おれが家族になりたいなぁって」
「まぁ、確かにすごかったですね、色々と。あれなら孤児院のほうが家族感ありますよ」
「ここに戻ることはもうないだろうから、関係ないけどね! そうだろう、ルード?」
「そうですね。今まで面倒で後回しにしていましたが……すべてを終わらせるつもりです」
すべてを終わらせる? と首を傾げた。ルードは「心配いらないよ」と微笑む。
「メルクーシンの名を捨てるだけだから」
ガタガタン! と音を立てておれとニコロが椅子から立ち上がった。ニコロは目を大きく見開いて、それから目を細めてゆっくりと椅子に戻り、「それが隊長の決めたことなら」と口にする。
「名を捨てるって……!?」
「そうだな、ルードリィフと呼ばれるよりルードと呼ばれるほうが多いし、メルクーシンの苗字を捨ててホシナと名乗ろうか」
「あは、ルードが嫁いじゃう?」
婿養子か! と思わず心の中でツッコミを入れる。
「そもそも隊長の爵位どうするんですか。ヒビキさまの爵位も」
「え、おれ爵位要らないんだけど……」
「身を守るためにも取っといたほうが良いのでは? また平民がどうのこうのって絡まれますよ?」
「身分で態度を変える人と付き合いたくありません」
ばっさりそう言うと、「そう言うと思った」とばかりにニコロが肩をすくめた。思っていたならなぜ口にした。
「こういう土地は寒いからなのか、ただ単にメルクーシン家だからなのか、結構ぎすぎすしているんだよねー」
のんびりした口調で教えてくれたサディアスさんに、おれらは顔を向けた。
「ここまであからさまな貴族主義ってこの国では珍しい部類なんだけどねぇ」
さっきまでの怒りに満ちた声はどこに行ったと聞きたいくらい、優しい声だった。もしかして、怒って見せたのは演技だったのだろうか……そうだとしたら、サディアスさん演技派……!
「王都にも居るにはいるけど、さすがにここまでじゃないしなぁ……。なんであんなに貴族主義なんだろ?」
「メルクーシン家って今、あんまり評判良くないんだよね。数多くのパーティーに参加したから、色々噂話聞いちゃった」
「え、忙しいのにパーティーにも行っていたんですか……?」
「貴族の付き合いも面倒だよね~」
サディアスさんって実は三つ子だったりしない? もしくは分身の術が使えるとか! ニコロを口説いて聖騎士団の仕事もして、さらには貴族の付き合いも果たしていたとは……。
「あれ? でもルードはパーティーに参加してませんよね……?」
だってルードが居ない時は遠征の時だけだ。
「ああ、ルードはパーティに参加しないよ。わたしが覚えている限り、王都の夜会に片手で足りるくらいしか参加していないはず」
……じっとルードを見ると、彼は「賑やかなところは嫌いだ」と顔を背けてしまった。
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