【本編完結】十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、攻略キャラのひとりに溺愛されました! ~連載版!~

守屋海里

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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!

38.5(サディアス×ニコロ)

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サディアス×ニコロ。
38話の「ちょっとニコロ借りて良い?」からの応接間を出て行った後の話。幕間にしようかと思いましたが、本編に組み込みました。
ニコロの一人称。





 腕を引っ張られて歩いていく、それも、かなりの早足で。どこに向かっているのかさっぱりわからない。途中でリーフェとリアにすれ違い、俺らを見ると「あら?」って顔をしてそれからどこか安堵したように微笑んだ。ここの屋敷の女性陣は察しが良い。良すぎる。リアの目はサディアスの手首に向かい、口パクで「おめでとう」と言われた。

 話し掛けなかったのは空気を読んで、か? でたらめに廊下を歩いて、人の気配がないところに入り込む。この屋敷には使っていない部屋が山のようにある。一応全室毎日掃除したりしているけれど。



「サディアス……?」



 サディアスが扉を施錠すると、そのままベッドに連れていかれた。ちょっと借りる、と言っておきながら、ちょっとじゃない気がしてきた。多分、隊長もそれに気付いているだろうから、今頃応接間には誰も居なくなっているかもしれない。



「――夢じゃないよね?」



 ベッドに座って、サディアスがそう聞いてきた。「わたしに都合のいい夢じゃないよね?」ともう一度。俺はぎゅむっとサディアスの頬を摘んでみせた。結構本気で摘まんだから、サディアスが「いたい……」と涙目になっている。魔物の攻撃を受けても涙を浮かべるどころか薄ら笑いを浮かべていた人物が……。

 頬を摘んだ手を離して、代わりに抱きしめる。サディアスの手が弱々しく俺の背中に回り、ぎゅっと服を掴まれた。――認めるのが癪だったのもあるけれど、もう誤魔化せないくらいに自覚してしまった。失いたくない人なのだと。

 大切な人を失う恐怖を、味わいたくなかった。両親が目の前で殺された時も、孤児院の子たちが病気で亡くなっていく時も、置いて逝かないで、と思ったのだ。大切な人が増えるたびに、失うのが怖くなる。思えば、俺のほうがサディアスを利用していたのかもしれない。

 抱かれるたびにまだひとりじゃない、孤独じゃないと思えたから。……だからこそ、俺じゃサディアスと釣り合わないと考えて、拒絶して……拒絶しきれなかったけど。周りから色々言われていたのも事実だったけど、サディアスの耳には入ってないみたいで安心していたんだけどなぁ……。

 まさか隊長が俺らのことに口を挟むとは思わなかった。ヒビキさまの思考が俺らに向かっているのがそんなにイヤだったのか。あの人も人の子だったのだと今更ながらに実感した。

 初めて会った時、隊長の目は人を拒絶していた。それが、サディアスと重なった。サディアスの目を最初に見た時も、そう思ったんだ。信じられる人が居ない、心を閉ざした目。孤児院でよく見た瞳だった。――思えば、その頃から気に掛けていたのかもしれない。



「ニコロ、キスしたい。ダメ?」



 ……普段そんなこと聞いたことないくせに。抱きしめる力を緩めて顔を上げると、真っ赤に染め上がったサディアスの顔が見えて、思わず笑ってしまった。



「あ、ひどい」

「だって、サディアス……その顔……ッ」



 肩を震わせて笑う俺に、サディアスは拗ねたようにそっぽを向こうとする。その頬に手を添えて――俺から口付けた。ちゅっとリップ音を響かせて離れる。

 サディアスが信じられないものを見たとばかりに目を大きく見開く。それから、サディアスの行動は素早かった。俺をベッドに押し倒すと、マントを荒々しく脱ぎ去り、服のボタンを取るのも煩わしそうにぶちぶち乱暴に外す。俺が手を伸ばしてボタンを外すと、サディアスは嬉しそうに笑った。本当に、嬉しそうに。目を奪われるくらいの――笑顔。



「――好きだ」



 真っ直ぐに、サディアスを見上げて告げる。

 彼の動きが止まり、その後、その深紅の瞳からぽたぽたと涙が落ちて来た。サディアスは「あれ……?」と自分の目から溢れる涙を拭う。彼がこんなに泣いているところを、初めて見た。同じような涙を、この間見た。ヒビキさまが隊長にプロポーズされた時に。涙を隠すように俺の上からどいて、「ごめん、ちょっと、待って……」と背を向けるサディアス。後ろから抱きしめるとサディアスがごしごしと目元を擦っているのがわかった。

 泣き方を知らない者の、泣き方だった。サディアスの事情については詳しく知らない。だが、あんな目をしていたのだから、それなりに色々あったのだろう。声を押し殺して泣く姿を見て、綺麗だなと場違いなことを考えた。



「……待たせてごめんな」

「待って、追い打ちかけないで。止まらなくなる……」

「良いんだよ、サディアス。泣いて良いんだ。泣きたい時に泣いて、笑いたい時に笑えば良い。――もう逃げないから」

「ニコロ……。どうしよう、本当に止まらない……」



 しあわせすぎて、と続けるサディアスに俺はそっと目を閉じた。サディアスが泣き止むまで、ずっと。

 サディアスが泣き止むまで、結構な時間が掛かった。多分、今までのことがサディアスの心には重かったのだろう。俺の都合で振り回したようなもんだし。……確か、この部屋にもタオルがあったはず。タオルを濡らして目元を冷やさないと、泣きはらしたことがバレてしまうだろう。俺がサディアスから離れようとすると、反射的に手首を掴まれた。



「タオルを持ってくるだけだ」

「……ほんとう?」



 涙声で言われてこくりとうなずく。ぱっと手を離されて、ベッドから降りてタンスの中からタオルを取り出し、生活魔法でひんやりと冷やす。サディアスをベッドに寝かせて瞼の上にタオルを置く。



「……こんなに泣いたの初めてだ」

「すっきりしました?」

「敬語やだ……」

「はいはい」



 子どもか。でも、その言い方が幼くて可愛らしいと感じるのは、認めてしまったからだろう。何度かサディアスの目元を覆うタオルを冷やす。しばらくして、サディアスがのろのろと起き上がる。



「……明日、仕事は?」

「午後から……」

「なら、ゆっくり眠れるな。疲れてるんだろ、そのまま寝とけ。隊長には伝えておくから」

「眠るのもったいない……」



 それでも声は眠そうだ。……メルクーシン領であれだけ大暴れすれば疲れもするだろう。ヒビキさまにはああ言ったけど、実は詳細を知らされていた。知らせなかったのは、俺の独断だ。俺が伝えて良いことじゃないと思ったから。

 起き上がったサディアスを再びベッドに横にさせる。寝かしつけるようにぽんぽんと彼の胸を叩くと、すぅすぅと寝息を立てた。やっぱり疲れていた。疲れていたのに、陛下から聞いて俺を探しに来たのか。そしてこの屋敷まで来たのか。……自分を優先させろ、と言いたいところではあったが、顔を見れて少し安堵したのも事実だ。

 ……それにしても、ヒビキさまって俺らの話を鵜呑みにするけど、疑うことを知らないんじゃないかと少し心配になる。話の矛盾にも気付いていない時がありそうだし、どうやったらあんな風に育つんだ?

 愛されて育ってきた人だとは思うけど……。そうじゃなきゃあんな風に俺らや隊長に接することが出来ないと思う。愛されていると自覚しているからこその、愛の返し方。……まさか、自分よりもかなり年下の子に感化されるとは思わなかったな。

 若いから、だと思っていた。未来を疑わないのは。不安で揺れそうになっていた時もあったように見える。それでも、彼は隊長からの愛を疑わなかった。ちゃんと自分の立ち位置を決めていた。

 だからこそ、意外だったのだ。メルクーシン家での隊長の扱いを見て、怒りださなかったのは。あれだけ愛されているのだから、隊長のために怒るのかと思った。だが、彼は隊長の両親に対してお礼を言った。あの時のメルクーシン家の人たちの表情すごかったな、と思い出して笑う。多分、隊長はその言葉に救われたろう。生まれてきて良かったのだと。

 そして、ヒビキさまはちゃんと『ルード』を見ていたんだな、と。等身大の、隊長を。

 対して、俺は? ちゃんとサディアスを見ていただろうか。俺を追う彼から逃げてばかりで、ちゃんと見ようとしなかった。逃げることしか考えていなかった。なんでみんなが俺とサディアスのことを気に掛けているのか、理解した気がした。

 本当、お節介な人たちだ。……それに救われていたのも、本当だけれど。

 じっと眠るサディアスを見つめて、吸い込まれるようにその唇に自分の唇を重ねた。



「おやすみ、サディアス。良い夢を」
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