【本編完結】十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、攻略キャラのひとりに溺愛されました! ~連載版!~

守屋海里

文字の大きさ
160 / 222
4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!

48

しおりを挟む
 じいやさんが手配した馬車が来るのは、そろそろ夕暮れ時という時間帯だった。少し落ち着かない様子のルードに、おれはそっと自分の手を重ねる。ルードはそれに気付くと、少しだけ目を見開いて、緩やかに微笑んだ。



「大丈夫ですか?」

「ああ。すまない、心配をかけて」

「いいえ。だってあの屋敷は十年間ずっと住んでいた場所でしょう? 落ち着かなくて当然ですよ」

「……そうだな、ありがとう」



 ルードがおれの肩に額を当てる。そして、おれらは手を繋いで馬車に乗り込んだ。ここからだと一時間は掛かるんだっけ。改めて思うけど、ルードの住んでいた屋敷って王都の端も端だったんだなぁ……。ワープポイントのおかげでそんなことさっぱり感じなかったけど。



「行ってらっしゃいませ、ルード坊ちゃん、ヒビキさま」



 じいやさんやリーフェ、リア、ニコロに見送られながら、おれらは今まで住んでいた屋敷へと向かった。向かっている途中、ルードはずっと無言だった。なにを考えているのかはわからないけれど、ただ黙って、自分の気持ちと向き合っているような……そんな気がした。



「つきましたよ」



 一時間くらい経って、馬車は無事に屋敷へとついた。そして、おれらが馬車を降りると、ルードは少し離れるようにと御者さんに言って、門を開けて中へと進む。おれもついて行った。中庭の花壇の花に触れて、静かに「さようなら」と告げるルード。

 燃やしていなかったのか、あの時切れたミサンガに火をつけて、花壇に放り――フェンリルの名を呼んだ。



「ワープポイントを破壊、それから屋敷も取り壊し」

「花、燃えているが良いのか? 一応お前の花だろう」

「私はもうメルクーシン家の者じゃない。花に頼らずとも、生きていける」



 ――ああ、そうか。この花は、ルードの花だったから……ここから離れなかったんだ。ルードの中では折り合いのついていることなのだろう、どこかさっぱりした様子で燃える花を見ていた。

 そして、フェンリルは屋敷の中に入り、フラウと一緒に屋敷を氷漬けにして遠吠えを上げる。その瞬間、屋敷が砕け散った。それはもう、あっという間に。屋敷が脆いのか、それともフェンリルとフラウの力が凄まじいのか、おれにはよくわからない。

 ただ、隣に立つルードが思い出を噛み締めるように目を閉じ、それからゆっくりと瞼を上げて屋敷の『最期』を見送った。



「――さようなら、メルクーシン」



 精霊さんたちに守られているのか、おれらに火花が来ることも、砕けた屋敷の欠片が飛ぶこともなく、ただ静かに――崩壊していく屋敷を、この目でしっかりと見届けた。



「ヒビキ、花壇の炎に水をお願いできるかい?」

「もちろんです、ルード」



 おれは両手を顎の下で組み、目を閉じて精霊さんにお願いした。花壇の炎を消せるくらいの水をお願いしますって。すると、花壇にだけ雨のように水が降り注がれる。炎が消えて、フェンリルとフラウも戻って来た。ルードはフェンリルへ手を伸ばす。フェンリルは小さくなって、ルードの手のひらに自分の頭を押し付けた。撫でろとばかりに。



「ありがとう、フェンリル。見守っていてくれて」

「契約者を見守ることは当然であろうに」



 ちょっと呆れたような言い方だったけど、フェンリルの照れ隠しだったのかもしれない。尻尾が左右に大きく振られていたから。フラウたちもフェンリルの周りをくるくると飛んでいた。それはもう、楽しげに。



「帰ろうか、ヒビキ」

「あ、でもその前に――」



 おれは屋敷に向かって頭を下げた。



「今までお世話になりました。ありがとうございました!」



 そう言葉にすると、ルードが息を飲んだ。フェンリルは「ふっ」と笑い、フラウは今度はおれの傍でくるくると踊るように飛んでいた。この世界に来てからほとんどこの屋敷で過ごしてきたから、ちゃんと最後にお礼を言いたかった。言えて満足。



「……本当に、ヒビキには敵わないな……」

「ルード?」

「私の隣に、ヒビキが居てくれて良かった」



 ぽん、とおれの頭に手を置いてそう言うルードの姿は、とても優しくてなんだか切ないくらいに胸が痛んだ。ルードの隣に居られて本当に良かったと心から思う。ひとりで向かうつもりだったのだろう。もしもひとりで行かせたら、こんな風に晴れ晴れとしたルードの表情は見られなかったのかもしれない。

 メルクーシンという鎖から、ルードは解放されたのかな……?



「さ、屋敷に戻って……ヒビキにはもうひとつ、仕事を任せたいな」

「え? あ、ああ! わかりました、やってみます!」



 ぐっと意気込むように拳を握ると、ルードは「頼んだよ」とおれの頭をわしゃわしゃ撫でた。そして、また一時間かけて今日から住む屋敷へと戻る。きっと、フェンリルに乗って行けばすぐについたりしたんだろうけど、きっとルードの中で心の整理をする時間が必要で……多分、じいやさんもそれをわかっていて、わざと遅い時間に馬車を呼んだのだろう。

 帰りの馬車ではぽつぽつとあの屋敷での思い出を語り合った。たった数ヶ月しか住んでいないけれど、溢れるくらいの想い出がたくさん残る屋敷だ。ルードにとっては、きっともっとたくさんの想い出がある場所だから……。おれはルードの話を聞くのに徹することにした。

 じいやさんと一緒に訓練したり、リーフェにお菓子を貰ったり、リアと刺繍をしたりと、あの屋敷には色んな人たちとの想い出がルードの中にちゃんとあって、やっぱりあの屋敷の人たちはルードのことが大好きなんだなぁって思って、胸がぽかぽかしてきた。

 そんな話をしていると、あっという間に屋敷についた。御者さんにお金を支払って、玄関に向かうと、使用人さんたちがずらりと並んでルードとおれを出迎えてくれた。



「おかえりなさいませ、ルード坊ちゃん、ヒビキさま」

「ただいま」

「わ、みんなで出迎えてくれるってなんか新鮮……」

「丁度良かった、全員、外へ」



 使用人さんたちは頭に「?」を浮かべているだろう。それでもルードの言う通りに外に出て来た。そして、そのタイミングでサディアスさんがやって来た。まぁ、元々サディアスさんの屋敷だもんね。



「あれ、引っ越し祝いに来たんだけど、早かった?」

「いえ、丁度いいタイミングだと思いますよ。ヒビキ、お願いできるかい?」

「はい、やってみます!」



 みんな、なにが始まるのだろうとおれを見守っている。おれはそっと壁に手を置いて目を閉じて、精霊さんにお願いした。

 ――この屋敷の人たちが安全に暮らせますように。精霊さん、力を貸してください――と。壁に手を置いているから冷たいはずなのに、じわじわと手のひらが温かくなっていく。それはまるで精霊さんが「任せて!」と言っているようで……。ふっと表情を緩めて目を開けて屋敷を見上げる。

 ほんの数十秒だけだったけど、屋敷の壁が七色に光った。あの日見た、噴水のように。



「きれい……」



 誰ともつかない言葉が次々と溢れ出た。屋敷の光はすぐに消えてしまったけれど、雰囲気がなんだか違くなったような気がする。そう思ってルードを見ると、ルードは小さくうなずいた。



「フェンリル」

「うむ、見ていた。これでこの場所は悪意のあるものからは護られるだろう」

「さすが精霊の祝福。この場所が一番安全だったりして」

「可能性は否定せんがな。これほどまで魔石を集めて作り上げたというのも、中々面白い」



 そんな話を聞いていた使用人さんたちが、ごくりと唾を飲んだのが聞こえた。魔石で出来た屋敷ってそんなに珍しいものなのかな。ルードとサディアスさんの元に行くと、フェンリルがおれにすりすりと頬を擦りつけてきた。もふもふ……!



「あ、そうだ。はい、これルードに」

「これは?」

「わたしからの引っ越し祝い兼婚約祝い、かな?」



 ルードと顔を見合わせて光の精霊さんに照らしてもらう。そして、書かれていた内容を見て、ルードがばっと顔を上げてサディアスさんを見た。唖然としているような、そんな感じで。



「しかし、これではあまりにも……!」

「良いんだ。ここを買ったのは陛下からお金を使えって言われたからだし。個人的にわたしはルードのことを弟のように思っているからね、これくらいさせておくれよ?」



 周りがざわついている中、ひょいとじいやさんがその書類を見て、呆れたようにサディアスさんを見た。そして、こほんと咳ばらいをひとつ。ニコロの名を呼ぶと、ニコロがじいやさんたちに近付いて、「なにがあったんですか?」と尋ねて来た。



「――ああ、サディアスが良いなら良いんじゃないですか。言って聞くようなヤツでもないし」



 ニコロに説明するとあっさりそう言われた。サディアスさんはにこにことそれを聞いていたけれど……本当に良いんだろうか。この屋敷、ルードに譲るって……。



「それに、ヒビキさんのおかげで魔石の力も働いたしね。まぁ、好きに使ってよ。代わりに、ニコロをわたしの屋敷に連れて行っても良い?」

「ニコロが良いのなら」



 おれとルードが声を重ねて言うと、全員がニコロへと視線を向ける。ニコロは「え、ここで決断するんですか!?」と焦ったように言っていたけれど、すぐに肩をすくめて、



「サディアスの屋敷に行きます」



 と言った。その瞬間にわっと拍手が鳴り響く。……ここの人たち、本当にあったかいなぁ。そして、サディアスさんはと言うと――ぽかんとしていた。あっさりニコロが来るとは思っていなかったようだ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

魔王に転生したら幼馴染が勇者になって僕を倒しに来ました。

なつか
BL
ある日、目を開けると魔王になっていた。 この世界の魔王は必ずいつか勇者に倒されるらしい。でも、争いごとは嫌いだし、平和に暮らしたい! そう思って魔界作りをがんばっていたのに、突然やってきた勇者にあっさりと敗北。 死ぬ直前に過去を思い出して、勇者が大好きだった幼馴染だったことに気が付いたけど、もうどうしようもない。 次、生まれ変わるとしたらもう魔王は嫌だな、と思いながら再び目を覚ますと、なぜかベッドにつながれていた――。 6話完結の短編です。前半は受けの魔王視点。後半は攻めの勇者視点。 性描写は最終話のみに入ります。 ※注意 ・攻めは過去に女性と関係を持っていますが、詳細な描写はありません。 ・多少の流血表現があるため、「残酷な描写あり」タグを保険としてつけています。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

分厚いメガネ令息の非日常

餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」 「シノ様……素敵!」 おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!! その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。 「ジュリーが一番素敵だよ」 「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」 「……うん。ジュリーの方が…素敵」 ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい 「先輩、私もおかしいと思います」 「だよな!」 これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...