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4章:十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、最愛の人が出来ました!
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しおりを挟む鳥のさえずりで目が覚めた。何回目で気を失ったのか覚えていない。……蔦が伸びてすりすりと頬に触れる。
「おはよ」
伸びて来た蔦を撫でると、蔦は「おはよー!」とばかりにくねくね動いた。コップの水を替えて陽の当たる場所へと移動させた。ドロドロになった躰もシーツもきれいさっぱりとしていて、ルードが後処理してくれたんだだろうなぁ。
クローゼットに向かい服を着替えて……はっと気づいた。クローゼットの中に入れていたあのボロボロのミサンガが行方不明になっている……! って言うか練習で作ったミサンガ全部なくなってないか、これ!?
「……まさか」
ルードに見つかってしまったんだろうか……。ひっそりと処分する予定だったのに。だってあまりに拙い出来だったから……。ルードに渡したのはきれいに出来たものだった。見つけた時ルードどんなことを想ったんだろうなぁ……。
「とりあえず、ご飯食べようかな……」
そう言ってナイトテーブルに近付く。いつものように置き手紙があった。丸文字のルードの文字を指でなぞって「ふふ」と笑い、丁寧に折ってポケットにしまった。寝室から出て廊下を歩いていると、ニコロと会った。
「おはようございます、ヒビキさま」
「おはよう、ニコロ。サディアスさんは?」
「仕事に行きました。今から朝食ですか?」
「うん」
ニコロと一緒に食堂へ。ちょっと迷ったのは内緒。前の屋敷とは場所が違うから、覚え直しだ。しかしまぁ……広い。サディアスさんの住んでいる屋敷からはどのくらい違うんだろう。辺りをきょろきょろ見渡しながら歩き、食堂につくとリーフェが居て、すぐにご飯を用意してくれた。
朝ご飯を食べて、今日はどうしようかなぁとぼんやり考えているとじいやさんから声が掛かった。
「ヒビキさま、書庫の場所はわかりますか?」
「あっ、全然知らないや……」
今日はこの屋敷の探検をしようかな。じいやさんも一緒に来てくれた。書庫までの廊下を歩き、書庫の扉を開けてもらった。中に入って、うわぁと思わず声が出た。広い。図書館だと言われても納得してしまう。
「また、随分広くなりましたね……?」
「以前の屋敷の書庫は少々手狭でしたので」
あ、増やす気だ。だって空の本棚が並んでる。じいやさんはほくほくとした顔で書庫を案内してくれた。おれでもわかりやすいようにか、本の種類ごとに本棚に名札みたいなのがつけられている。絵本とか恋愛とかファンタジーとか。色んな本があるんだなぁとしみじみ思ってしまった。
「折角なので一冊読んでいかれますか?」
「そうだね。久しぶりに読みたいかも。じいやさん、お勧めある?」
「……そうですね……こちらはいかがでしょうか。読みやすい本ですよ」
ファンタジーの棚から一冊の本を取り出しておれに渡す。取り出された本の表紙は水色で、ルードの瞳を思い出した。どんな内容なんだろうとワクワクしながら表紙を眺めるおれに、じいやさんは微笑んで「こちらへ」と本を読むスペースへと誘導してくれた。
……本当に図書館みたい。
「お茶をご用意しますか?」
「あ、じゃあお願い」
「俺が持ってきますか?」
「いや、ニコロはヒビキさまのお傍に。読みたい本があれば読んでいても構わないから」
「わかりました」
おれは椅子に座って早速と本を読み始め、ニコロはなにを読もうかなとばかりに本棚に向かい、じいやさんはお茶の準備をしに書庫から出て行った。ぱらりと表紙を捲って本文を読んでいく。ものの五分もしないうちにじいやさんが戻って来て、お茶を淹れてくれた。
「ありがとう」
「いえいえ。読めそうですか?」
「うん。大分読めるようになったみたい」
嬉しそうにおれがそう言うと、じいやさんは目元を細めて笑みを浮かべこくりとうなずく。そして、ぽんぽんとおれの頭を撫でると「ごゆっくり楽しんでください」と言って頭を下げた。おれは「うん」と答えてからお茶を飲んで「美味しい」と呟く。
みんなからそれぞれお茶を淹れてもらっているけれど、なぜかじいやさんの淹れるお茶が一番美味しい気がするのはなんでだろう。
「ニコロはそれを読むの?」
「なんか懐かしくて。孤児院の子たちに読み聞かせたなぁと」
ニコロが持って来たのは絵本だった。懐かし気にそっと表紙を撫でる。椅子に座ってぱらりと絵本を捲っていく姿を見て、孤児院の子たちが好きだったんだなぁと思った。……あれ、そう言えばここからだと馬車に乗らないといけないんだっけ?
「じいやさん」
「はい、ヒビキさま」
「……ここから買い物に行くとしたら馬車が必要?」
「そうですね……一応歩いている距離ではありますが、ここの人たちは馬車を使っております。引っ越したばかりなのでまだ馬車の手配は……」
馬車が主なのはここの人たちが貴族だからだろうか。「そっかぁ」と呟くと、ニコロが「買い物に行きたいんですか?」と聞いてきたので、首を横に振る。
「ただ、今の場所が良くわからなくて。今までずっとワープポイントで来ていたし、王都を歩くのも決まったところばかりだったから……」
「ああ、なるほど……。確かにそれは混乱しますね」
ニコロがぱたんと絵本を閉じて、それを戻し今度は地図を持って来た。王都の地図のようだ。
「って言っても、王都って人数のわりに結構狭いんで、すぐに覚えられると思いますよ。まず、ここが上層、王城や貴族街。クリスティ嬢のお店は中層近くの上層ってところですかね。上層にはもうひとつ、学園があります。ここからだとちょっと遠いですね。で、中層に行くと真ん中に噴水広場。いつもの屋台とかあるところ。商店街も中層です。シルヴェスターの宿屋は下層近くの中層。で、孤児院が一応下層なんですけど、中層に近すぎてなんとも言えない感じの下層ですね……」
「下層って……スラムってこと?」
「いえ? ただ単に中層より人数が多いほうが良い人が集まっている感じですかね」
――ってことは、王都にはスラムがないってこと? それはとても良いことだと思うけど……本当に生活難な人は居ないんだろうかとじいやさんを見上げる。じいやさんはおれの疑問に気付いたのか、
「大丈夫ですよ」
と微笑んだ。
「王都では貴族が慈善活動を積極的に行っておりますし、孤児の数もそう多くはありません。むしろ、孤児を招き入れる貴族もいるくらいですから」
「……? ルードは今まで慈善活動していなかった……?」
「聖騎士団員は聖騎士団員であることが慈善活動の一部として認められております」
「へ!?」
色々ややこしいな!? と思わず変な声をあげてしまった。
「聖騎士団員や王立騎士団は命を懸けて民を守る者たちですから……。それにルード坊ちゃんは『伯爵家の三男』と言うだけで自身の爵位は持っておりませんでしたしね」
一ヶ月もすればルードもおれも貴族の仲間入りなんだけどね……。
「ですので、今回きちんと爵位を授かると聞き、このじいやは胸がいっぱいでございます……」
ほろりと涙を浮かべるじいやさん。ハンカチで涙を拭って、ルードの成長を喜ぶように笑う彼は『おじいちゃん』だなぁと思った。
「……良かった」
「はい?」
「ルードの傍に、じいやさんがいてくれて」
ずっとルードを見守ってきてくれたじいやさん。いつからメルクーシン家に仕えていたのは知らないけれど、きっとルードはじいやさんの優しさに救われていたと思うから。
「……感無量でございます」
そう言って微笑むじいやさんの表情は、孫に褒められて嬉しい『おじいちゃん』の顔をしていた。……おれのじいちゃんはもう既に亡くなっていて、しかもそれがおれが小さい頃だったから全然覚えてないんだけど……。こういうじいちゃんだったら良いなーなんて思ってしまった。
「これからも、ルードを支えてあげて欲しいな」
「それはもちろんでございます。ルード坊ちゃんとヒビキさまのお子を見るまでは、倒れられませんな」
……それはちょっと、いやかなり気が早いと思います! おれまだ十六だし。結婚って十八じゃないとダメなんだよな、この世界。……って、おれがおろおろしているのを見て、ふたりとも笑っている。冗談? 冗談だったの!?
「ふふ、未来の楽しみが出来ました」
「楽しそうですね、家令」
「ニコロもな」
……だからっ、十八になるまで結婚出来ないし、そもそもコウノトリがどのタイミングで来るかもわかったもんじゃないんだから……! このふたりの中では、おれらのところにコウノトリが来るのは確定しているみたいだ……。
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