【本編完結】十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、攻略キャラのひとりに溺愛されました! ~連載版!~

守屋海里

文字の大きさ
218 / 222
番外編!

新月の夜に。(前編/ルード視点/ほのぼの)

しおりを挟む

「ヒビキ、今日の夜は空いている?」

 ふと思い出したように私がそう尋ねると、ヒビキはもぐもぐごくんと口の中に詰め込んでいた料理を飲み込んでからこくりとうなずいた。

「おれはいつでも空いてますけど……」
「……今日は、あの湖の家に行こうと思うんだ。ヒビキに見せたいものがあって。……それに、泳ぎたいって言っていただろう?」

 ぱぁっとヒビキの表情が明るくなった。湖の近くにある家は、普段フェンリルたちがくつろぐために使っている。この屋敷に呼んでも良いのだが、フェンリルやフラウはアレで結構シャイなところがあるのだ。それを知っているのは、恐らく私だけだろう。

「明日は休みだから、湖で泳いだ後あの家のお風呂で温まってから寝よう?」
「はい!」

 すごく元気な声が返って来た。こんなに喜んでくれるのなら、もっと早く誘えば良かった。だが、どうしても今日が良かった。ヒビキならきっと喜んでくれると思うから。

「じいや、仕事が終わったらヒビキと出掛ける。今日は屋敷に戻らないから、後は頼む」
「かしこまりました」

 じいやが目元を細めて微笑んだ。どことなく、嬉しさがにじみ出ている気がする。……こんな風に、誰かの機嫌を感じ取れるようになるとは思わなかった。これもヒビキのおかげだと思うと、より一層ヒビキへの愛が増していく。心が満たされていくのを感じつつ、マルセルの作った朝食を食べ終えて仕事へ向かう。
 婚約をしてから、ヒビキは一緒に起きて朝食を食べた後、見送りをしてくれるようになった。正直、背を伸ばしてちゅっと唇へ行ってらっしゃいのキスをされると、仕事に行きたくなくなるくらい可愛い。頑張って起きようとしてくれるところも愛おしい。――大体抱きつぶしてしまうが……。
 私からもキスを返して、「行ってきます」と言うとヒビキは「帰りを待ってますね」と微笑んでくれる。……帰りを待つ、愛しい人が居るというのは幸福感に包まれるものなのだな、と改めて実感する。
 後ろ髪を引かれる感覚を覚えつつ、仕事場へ向かう。今日は書類に目を通さないといけない。早く終わらせて、早く帰ろう。そう決意して、聖騎士団の塔の執務室へ足早に向かった。




「……何でいつもそのスピードで出来ないんですか、ホシナ隊長!」
「ヒビキとの約束がなければやる気が出ない」
「惚気か!」

 我ながら呆れるほどのスピードで書類へ目を通して、必要なものと不要なものを分けられた。そして必要なものには承認の判子を押し、不要なものはバビントンに始末を頼む。……それにしても、今までメルクーシン隊長と言っていたのに、あの式典の後、あまりにもすんなりとホシナ隊長と呼ばれることに、私のほうが困惑してしまった。一番隊の隊員たち、適応力が高くないか……?

「とりあえず、今日のホシナ隊長の業務は終わりました。早退します?」
「そうだな、サディアスに聞いてからにする」

 椅子から立ち上がってサディアスの元に行こうとすると、「そういえば」とバビントンが呟いた。彼に視線を向けると、真剣な表情で私に向かってこう言った。

「ご婚約おめでとうございます」
「……それ、今言うのかい?」

 目を瞬かせて尋ねると、バビントンはバツが悪そうに視線を逸らし、後頭部に手を置いて小さく息を吐いた。

「団長とニコロが結婚したでしょう? その衝撃ですっかりお祝いの言葉を伝えるの忘れていたな、と」

 あの式典の翌日、サディアスとニコロは婚姻届けを出した。受理したのは陛下だ。式には呼んでねと無邪気に笑った受理してくれたらしい。貴族の結婚は陛下の許可が必要だから……と言うか、まさか婚約期間ゼロで結婚するとは流石に私も思わなかった。

「まぁ、確かに衝撃的だったな」

 昨日のことのように思い出せる。ものすごく幸せそうなサディアスがニコロを連れて聖騎士団へと来て、『わたしたち結婚したから!』と宣言したのだ。式には準備がかかるから、婚姻届けだけ出したそうだ。それを聞いて、私たちの時はどうしようかと考えた。
 婚約期間は二年ある。その間に色々準備をしなければならない。ヒビキが着る服、私が着る服、結婚式を行う場所、招待する人々。だが、それを面倒だとは感じない。正真正銘、ヒビキが私のものになるという儀式だから。いや、逆か? 私がヒビキのものになるのだろうか。それもそれで良い。

「……隊長の幸せそうな表情も衝撃的ですけどね?」
「……そんなに顔に出ていたか?」
「早くヒビキさんに会いたいって顔に書いてあります」

 ……ヒビキの表情筋の動きが移ったのだろうか? ヒビキの考えていることはわかりやすいとずっと思っていたが……。

「ヒビキさんに関わることならわかりやすくなりましたよ、隊長」
「……そうか」

 思わず自分の顔に触れてみる。自分の感情が表に出るようになるのは、良いことなのか悪いことなのかよくわからない。ただ、確かにヒビキに会いたいとは思う。ほぼ毎日見ているのに、ヒビキと言葉を交わすたびに、傍にいるだけでも愛しさが募っていく。

「良かったですね」
「良かった?」
「それだけ愛せる人が、隊長の傍に居てくれるって貴重じゃないですか」

 バビントンがそう言いながら不要な書類を持って「処分してきまーす」と執務室から出て行った。私はその背中を見送って、ふっと息を吐いた。右手に巻いてもらったミサンガへ視線を向けて、そっとそれを撫でた。――帰って、ヒビキの顔を見よう。
 サディアスの元に向かい、早退の許可を貰おうと歩いていると、サディアスのほうからやって来た。

「あ、ルード」
「休憩ですか?」

 そんなとこ、と微笑むサディアスは、ものすっごく幸せそうに見えた。ニコロを求め続けていたことを知っているから、何とも言えない気持ちになる。ニコロも大事な私の家族の一員だと思うから?

「ニコロは?」
「ヒビキさんのところじゃないかな? 水着がどうのこうのって言っていたから」

 サディアスは私より遅く来たのだろう。そもそもサディアスの仕事のほとんどは副騎士団長がこなしていると聞いたことがある。もちろん、サディアスでなければならない案件は彼がこなしているだろうが。

「水浴びにでも行くの?」
「そのつもりです。ヒビキが泳ぎたいと言っていたから」
「……ああ、他の人に見られるのはイヤなのか」

 こくりとうなずく。ヒビキの裸体を見て良いのは私だけだ。
 サディアスがにんまりと口角を上げて、私の肩を叩く。そのまま子どもにするようにわしゃわしゃと頭を撫でられて、驚いて目を丸くすると優しい表情を浮かべたサディアスが視界に入って息を飲む。

「変わったね、ルード。あの頃の鋭さが嘘のようだ」
「……そっくりそのまま、あなたに返しますよ、サディアス」

 もしも、と考えて恐ろしくなる時がある。ヒビキと出逢えなかったら、私はどうなっていたのだろうか、と。きっと、それはサディアスも同じだろう。私にとってのヒビキは、サディアスにとってのニコロだろうから。
 しかし、サディアスと向き合うと決めた後のニコロは色々とすごかったな、とぼんやり考える。逃げ回っていたのが懐かしく感じるくらいには。

「そう言えば、サディアスとニコロは結婚式どうするんですか?」
「半年以内にはする予定だよ。とはいえ、ニコロはあんまり乗り気じゃないけど~……」

 残念そうに唇を尖らせるサディアスに、私は肩をすくめた。恐らく、派手にしたいサディアスと、こじんまりとしたいニコロの意見の違いだろう。とはいえ、サディアスは公爵だから結婚式になると呼ぶ貴族が多い。こればかりはニコロが折れるだろうなと考えた。

「そっちは準備期間が長いねぇ。二年か。ヒビキさんの十八歳の誕生日に結婚式?」
「まだそこまで考えていませんよ……。ヒビキは今、貴族のことを勉強中ですし」

 立ち振る舞いなどをじいやから教わっている。その姿がまた愛らしい。……それはともかく、今日泳ぐことで気分転換になれば良いのだが。

「で、執務室から出てどこに行こうとしていたのさ?」
「ああ、早退の許可を取りに。私の仕事は終わったので、ヒビキと過ごそうかと」
「はいはい、ご苦労様。あ、招待状出すから、結婚式には参加しておくれよ?」
「それはもちろん」

 それじゃあ、とひらりと手を振ってサディアスが去っていく。あの頃の余裕のなさを思い出して、私はゆっくりと息を吐いた。
 早く帰ってヒビキに会いたい。会って抱きしめたい。……我ながら、とことんヒビキに惚れていると思う。

しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...