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番外編!
新月の夜に。(中編/ルード視点/ほのぼの)
しおりを挟む聖騎士団の塔を抜けて、屋敷に向かって歩いていると私の方をちらちらと見てくる人たちがいる。貴族街はこういうところが煩わしさを感じる。見るだけだから害はないのだが……。視線を煩わしく思えるようになったことも、ある意味人間らしくなったと言うことだろうか……?
「ルード!」
「ヒビキ?」
私の元にパタパタと走って来るヒビキ。その後ろにはニコロが居て、荷物を持っていた。
「お仕事は?」
「今日の分は終わったから……」
「お疲れさまでーす」
会えて嬉しい、とヒビキの顔に書いてあって、それがとても嬉しくて目元を細めるのと同時に、ニコロが声を掛けてきた。ニコロへ視線を移すと、「場所、変えましょう」と視線を動かす。……確かに、このまま衆人の目を浴びせるのもあまり……と思っていると、ヒビキが首を傾げた。……気付いているのか、いないのか。
「屋敷に一度戻ろう。ニコロ、その荷物は?」
「水着です。泳ぎに行くんでしょう?」
「……ああ」
「……ちょっと残念そうな顔するの、やめてもらえません……?」
ヒビキが望んだ水着はどんなものだろうか……。じっとヒビキを見ると、にこにこ笑っていた。かわいい。思わず手が伸びてヒビキの頬をもちもちと楽しんでしまった。むにむにと頬を摘むと、ニコロがぼそりと「バカップルがいる……」と呟いた。
「そう言えば、サディアスが結婚式について話していた」
「結婚式って、ニコロとサディアスさんの?」
「あー平行線~……」
バツが悪そうに視線を逸らすニコロに、興味津々と言うようにヒビキが視線を送る。屋敷につくと、ニコロが逃げようとしたので私たちはがしっと彼の手首を掴んで強制的にお茶会をすることにした。早退したおかげで時間はたっぷりあるし、話を聞くくらいなら私たちにも出来る。
「隊長がここまでお節介になるとは……」
「サディアスは兄のようなものだし、ニコロの雇用主でもあるし」
「おれたちも参考にしたいし?」
それもある。リーフェやリアもお茶会に参加することになった。この中で既婚者なのはリアとニコロだけだが、リーフェもそろそろ結婚したいとぼやいていたので、一年以内に結婚式が行われるかもしれない。
「リアは結婚式あげた?」
「はい、冒険者時代の仲間たちの前であげました。いやぁ、ブーケトスが修羅場になりましたね!」
懐かし気に目元を細めて当時を思い出しているリアに、私とヒビキは顔を見合わせた。ブーケトスが修羅場?
「ブーケを受け取った人が次の花嫁って、こっちでもあるの?」
「花嫁と言うか、結婚ですね。結婚が早くなるって言う言い伝えがありまして。結婚したい人たちがこう、……ね?」
ふふっと笑うリアの目は、とても面白がっているように見えた。お茶を飲みながら、周りを見渡すとお茶を飲む仕草ひとつでも、個性があるものだなと思った。……人に興味がなかった頃は、どれも同じように見えたのに不思議なことだ。
「それで、アシュリーさま……ああ、ニコロもアシュリーになったのよね。まさか式典の翌日に婚姻届け出すとは思わなかったわ」
「ここに来るたびにそれ言われてるんだけど!?」
「何度言っても良いじゃない。婚姻届け、良くサディアスさまが持っていたわね」
ふっと、ニコロが遠い目をした。……何十枚も置いてあったのかもしれない。サディアスなら考えられる。お茶菓子のクッキーを食べながらニコロの言葉を待っていると、黙り込んでしまった。
「結婚式をするのがイヤなわけじゃないんだよね?」
確認するようにヒビキが尋ねた。こくりと首を縦に動かすのを見て私たちは顔を見合わせる。公爵であるサディアスには呼ばなければならない貴族が多く居るが……ニコロにとって、それは中々の苦痛なのかもしれない。
「じゃあ、もしかして、孤児院のことを気にしている?」
「孤児院のこと?」
「あ……、あ~、そっか。そうよね、呼びたいよね……」
「……ヒビキさま、どうしてわかって……?」
ヒビキは曖昧に微笑んだ。呼びたくても呼べない、その心情を思うと胸が痛くなる。ヒビキはクッキーをひとつ手に取って、それから言葉を続けた。
「結婚式と披露宴ってセットですか?」
「……は?」
「えーっと、結婚式ってみんなの前で愛を誓うんですよね。で、披露宴で挨拶回り……では、ないんですか? で、その後二次会になったり……」
「二次会?」
「……ないの?」
ヒビキの居た世界ではそれが普通なのだろうか。こちらでは結婚式と言えば屋敷に招いて……あ。そうか、そういう手があるのか……。
「午前の部、午後の部とわけることが可能なら……」
「人が集まりやすいのは午後の部ですよね。午前の部に孤児院の人たちを呼んで……」
「え、ちょ、ちょっと待ってください。それ、二回も式をするってことですか?」
「式って言うか、午前の部で式をして、午後の部で披露宴にすれば良いんじゃないかな~って思ったり。それなら人って集めやすそうじゃない?」
午前の部でニコロの、午後の部でサディアスの招待客を集めるっことだろうか。私たちはどちらに入るのだろう。
「ニコロのことだから、サディアスさんが望めば、とか折れそうだけど、こういうことはきっちりとしておかないと大変なことになるって聞いたことある! だからニコロが呼びたい人を目いっぱい集めてさ! どうせなら、自分はこんなに幸せなんだ! ってアピールできる式にしようよ。そっちのほうが、サディアスさんも嬉しいんじゃないかな」
折角好きな人と結婚式をあげられるのだから。と、ぐっと拳を握って力説するヒビキに、私たちは少し呆気に取られてしまった。まさか、ここまでヒビキがニコロとサディアスの結婚式に興味を示すとは思っていなかった……。
「ああ、クッキー砕けた!」
「力いっぱい握るから……。って言うか、ヒビキさまがそこまで乗り気なのも珍しいですね……」
「だって、傍に居る人が幸せそうなのは、おれも嬉しいから。最終的に決めるのはニコロとサディアスさんだけど、さ……」
そこで言葉を切って、ニコロの上を見つめる。思ったよりも早かったな、とちらりと見ると、視線が合った。にこっと微笑んでからがばりとニコロを抱きしめる――サディアス。もう休憩時間になったのか。
「さ、サディアス!?」
「何の話をしていたのか、教えてくれる?」
サディアスの拘束から抜け出そうとしたが、リアが気を利かせて椅子を用意した。もちろん、ニコロの隣に。ヒビキは砕けたクッキーを食べている。リーフェが「ヒビキさまの案なのですが――……」と話し始めた。私はじっとヒビキの手を見て、砕けたクッキーをせっせと口に運んでいるのを見て、ヒビキの手を掴んで手のひらを舐めた。粉が手のひらについていて、美味しそうに見えた。実際美味しかった。
「る、ルード……!」
「?」
小声で咎めるように私の名を呼ぶヒビキが愛らしかった。あっちは夢中で話しているから、こちらのことなど気にしないだろう。普段もっとすごいことをしているのに、手のひらを舐めるくらいでも顔を真っ赤に染めるヒビキが可愛い。
「なるほどね……。確かに、わかれているなら呼べる人は増えるね。聖騎士団の貴族じゃない人たちも呼べるし」
「貴族絡みは本当にややこしい……」
「あはは、ニコロ、もしも絡まれたらすぐに言うんだよ、潰してくるから」
「過激発言禁止!」
……サディアスなら絶対に再起不能になるまでやりそうだなぁ……。とニコロに文句を言っていた貴族たちのことを思い出して、私は肩をすくめた。サディアスのスキルの良し悪しは私にはわからないが、かなりスキルを利用して追い詰められていったの様子を思い出す。……ニコロに関することだけ、絶対に見ないように、聞こえないようにしていたんだろう。そうでなければ、放っておくわけがないのだ。
ニコロもニコロで聞き流していたから……。本来なら私がその貴族を咎めるべきだったのだろうか。ニコロは……その言葉を聞いて、傷ついて……いるようには……とても見えなかったが……。
「ルード、変な顔をしてどうしたんですか……?」
「……いや、私は本当にヒビキ以外に興味がなかったのだな、と改めて痛感していた……」
ぴとりとヒビキが私の腕にくっついた。どうしたんだろうと、ヒビキを見ると、耳まで真っ赤にしていた。それから、ぱっと顔を上げて笑みを浮かべるヒビキ。
「ルードって結構恥ずかしいことをさらっと言うし、やりますよね……!」
「……そうか?」
こくんとうなずくヒビキに、私はどこが恥ずかしい言動だったのかを悩む。悩んでいる間に、サディアスとニコロの結婚式の話が纏まったらしく、「招待状の準備しなきゃね」とサディアスがニコロに向けて蕩けた笑みを向けていた。
ニコロは私たちのことをバカップルと言っていたが、ニコロたちも相当なバカップルっぽさがあると思う……。
「そろそろ戻らなきゃ。じゃあ、また後でね、ニコロ。あ、それとルード、明日は休んで良いよ~」
「良いんですか?」
「代わりに来週ちょっと遠征入るから」
イヤそうに表情を歪めると、「聖騎士団の務めです。……ヒビキさんも一緒に行く?」とヒビキに向かって聞いて来た。問われたヒビキが「え!?」と驚いていると、サディアスは「考えておいてね」と言い残して去って行った。
……ヒビキの実績を作ろうとしているな……。今のヒビキは、精霊の加護を持つ職業未定の貴族だから、これからヒビキを欲しいと言う団体は増えるだろう。その前に聖騎士団での実績を積ませ、ヒビキは聖騎士団で預かっている、という形にしておけば……この子には危険が減るだろう。
「……一緒に行く?」
「邪魔じゃありませんか……?」
「むしろいつもより早く終わったりして」
ぽつりとニコロが口を挟んだ。……確かに、ヒビキのスキルがあればあっさり片付きそうな予感はする。……それに、みっともないところは見せられないから、気合も入りそう……サディアス、もしかしてそれが狙いか……?
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