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2話:そして、十年後。お嫁さんを迎えに行きます。
――それから十年の月日が流れた。
フィンは、……と言うか、男爵家が没落してフィンが行方知らずになってしまった。丁度、フィンの十五歳の誕生日を祝った夜に、フィンはどこかに行ってしまったようだ。そのことにショックを受けて一週間くらい寝込み、その後は……フィンの行方を探すのに奔走した。
幸い、すぐに見つかった。国境間際の辺境地にフィンはいる。
僕の臣下たちはかなり優秀で、事細やかにフィンの様子を記した書類を渡してくれていた。僕はそれを眺めるのが一番好きな時間だった。
そしてつい先日――僕はようやく二十歳になった。
「……レオン、本当に行くのかい?」
「はい、父上。フィンを僕のお嫁さんにしに行きます」
にこりと微笑む父上は寂しそうに涙を浮かべた。王都から離れた国境近くの辺境地。
――それが、僕の領地だ。
フィンの行方がわかったあと、僕はどうすればフィンを迎えられるかを考えに考えた。成人するまでフィンには会わないことを決め、フィンが住んでいる場所を――辺境地を、成人祝いに欲しいと父上にねだった。
僕が一途にひとりの男性を想い続けていることを、父上たち家族は理解してくれた。だからこそ、父上は僕にその領地を渡してくれたのだろう。
「国境近くの辺境地だから、危険なことも多いとは思うが……」
「全力を尽くします」
フィンを守るために。にこりと僕が微笑むと、父上は何だか微妙そうな表情を浮かべた。フィンをお嫁さんにするために、僕は勉学も剣術も磨いて来たのだ。もちろん魔術もたくさん勉強して、それなりの成果を上げている。
家族に別れを告げて、僕はフィンの住んでいるところへと馬車で向かうことになった。
連れていく臣下は、僕の理解者だ。僕の護衛としてふたりが一緒に領地に向かう。
「……それにしても、殿下は本当に宜しいのですか?」
「何が?」
「その、屋敷の人たちは領主の元で働いていた方々ですよ。新たに雇わなくても良いのですか?」
ああ、そのことかと僕は護衛のクラウスとディルクに視線を向ける。
「どっちでも良いよ。重要なのは、僕の言うことをきちんと聞いてくれるかどうかだから」
元の領主のために働いていた人も居るだろうと言いたいのかもしれない。そう言う人は領主が別の場所に移ると聞いたら勝手についていくものだ。本当に人徳のある人物なら、自ずとそうなる。
「ところで、フィンの様子は?」
「変わりありません。本屋で働いているようです」
「そう」
もうすぐフィンに逢えると思うとワクワクして来た。
フィンの様子は毎月書類で教えてもらっているけれど、実際のフィンを見るのは久しぶりだから本当に楽しみなんだ。
僕のこと、すぐに気付いてくれるかな。
「ところで、目的地まで何時間?」
「……何事もなければ、数日でつくかと」
「……含みがあるね。こっちの道路を使うってことは、山賊でも出るの? そして、それをついでに退治して来いって?」
人使い荒いなぁ。と口の中で呟く。そして、恐らく父上が企てたであろうことに、山賊なのか盗賊なのか強盗なのかよくわからない人たちがわんさかと出てきて、数日どころか一週間近く到着に掛かってしまった……。
わんさかと出てきた山賊やら盗賊やら強盗はひとり残らず捕まえて、ちょっと生きていることを後悔するような悪夢を見させる魔法で延々と苦しめた後、近くの町の警備隊に手渡していった。
「……この国って案外治安悪い?」
「こればかりは何とも。陛下の目の届かないところですから」
「広いからねぇ……」
……辺境地までは父上の目が届かない、か。あ、だからあんなにあっさり僕に領地をくれたのかな。そんなことを考えながら、僕らは領地の屋敷へと足を踏み入れた。
思っていた以上に使用人は残っていたみたいだ。夜遅くだと言うのに使用人たちは玄関口で待っていたようだ。
「お待ちしておりました、レオン殿下。使用人一同、到着をお待ちしておりました」
恐らく、執事長であろう白髪の男性が使用人を代表して声を掛けてきた。
「出迎えご苦労。予定よりも遅れてしまった。今日はこのまま休むから、話はまた後日。……ああ、そうだ。百八本の赤いバラを用意してくれ」
「かしこまりました」
屋敷についたのが夜遅くだったから、フィンはもう寝ているだろうと判断した。寝ているのを起こすのは申し訳ないし、昨日は野宿をしたから身体を洗いたかった。
フィンを迎えに行く時は、格好いい自分でありたい。
食事を摂る気にはなれず、風呂に入ってベッドへ潜る。柔らかなベッドに潜り込んで、明日、フィンを迎えに行くことを想像して薄っすらと口角を上げた。
全く、馬車を襲おうとする人たちのせいで到着が遅れてしまった。魔法で加工している馬車だと言うのに。
――それにしても、まさか使用人たちが待っているとは思わなかった。いや、当然と言えば当然かもしれない。
後でこの屋敷を隅から隅まで歩いてみよう。隠し通路もあるだろうから、把握しておかないと……。いや、その前にやっぱりフィンを迎えに行って……。
明日のことを想像して、目を閉じる。フィンはどんな大人になっているのだろう。フィンと一緒に暮らすために、僕は色んなことを頑張って来た。僕に何も言わずに消えてしまったあなたを、探し当てられたのは奇跡のようなものだった。
また、あの笑顔が見られるかなぁ……?
フィンは、……と言うか、男爵家が没落してフィンが行方知らずになってしまった。丁度、フィンの十五歳の誕生日を祝った夜に、フィンはどこかに行ってしまったようだ。そのことにショックを受けて一週間くらい寝込み、その後は……フィンの行方を探すのに奔走した。
幸い、すぐに見つかった。国境間際の辺境地にフィンはいる。
僕の臣下たちはかなり優秀で、事細やかにフィンの様子を記した書類を渡してくれていた。僕はそれを眺めるのが一番好きな時間だった。
そしてつい先日――僕はようやく二十歳になった。
「……レオン、本当に行くのかい?」
「はい、父上。フィンを僕のお嫁さんにしに行きます」
にこりと微笑む父上は寂しそうに涙を浮かべた。王都から離れた国境近くの辺境地。
――それが、僕の領地だ。
フィンの行方がわかったあと、僕はどうすればフィンを迎えられるかを考えに考えた。成人するまでフィンには会わないことを決め、フィンが住んでいる場所を――辺境地を、成人祝いに欲しいと父上にねだった。
僕が一途にひとりの男性を想い続けていることを、父上たち家族は理解してくれた。だからこそ、父上は僕にその領地を渡してくれたのだろう。
「国境近くの辺境地だから、危険なことも多いとは思うが……」
「全力を尽くします」
フィンを守るために。にこりと僕が微笑むと、父上は何だか微妙そうな表情を浮かべた。フィンをお嫁さんにするために、僕は勉学も剣術も磨いて来たのだ。もちろん魔術もたくさん勉強して、それなりの成果を上げている。
家族に別れを告げて、僕はフィンの住んでいるところへと馬車で向かうことになった。
連れていく臣下は、僕の理解者だ。僕の護衛としてふたりが一緒に領地に向かう。
「……それにしても、殿下は本当に宜しいのですか?」
「何が?」
「その、屋敷の人たちは領主の元で働いていた方々ですよ。新たに雇わなくても良いのですか?」
ああ、そのことかと僕は護衛のクラウスとディルクに視線を向ける。
「どっちでも良いよ。重要なのは、僕の言うことをきちんと聞いてくれるかどうかだから」
元の領主のために働いていた人も居るだろうと言いたいのかもしれない。そう言う人は領主が別の場所に移ると聞いたら勝手についていくものだ。本当に人徳のある人物なら、自ずとそうなる。
「ところで、フィンの様子は?」
「変わりありません。本屋で働いているようです」
「そう」
もうすぐフィンに逢えると思うとワクワクして来た。
フィンの様子は毎月書類で教えてもらっているけれど、実際のフィンを見るのは久しぶりだから本当に楽しみなんだ。
僕のこと、すぐに気付いてくれるかな。
「ところで、目的地まで何時間?」
「……何事もなければ、数日でつくかと」
「……含みがあるね。こっちの道路を使うってことは、山賊でも出るの? そして、それをついでに退治して来いって?」
人使い荒いなぁ。と口の中で呟く。そして、恐らく父上が企てたであろうことに、山賊なのか盗賊なのか強盗なのかよくわからない人たちがわんさかと出てきて、数日どころか一週間近く到着に掛かってしまった……。
わんさかと出てきた山賊やら盗賊やら強盗はひとり残らず捕まえて、ちょっと生きていることを後悔するような悪夢を見させる魔法で延々と苦しめた後、近くの町の警備隊に手渡していった。
「……この国って案外治安悪い?」
「こればかりは何とも。陛下の目の届かないところですから」
「広いからねぇ……」
……辺境地までは父上の目が届かない、か。あ、だからあんなにあっさり僕に領地をくれたのかな。そんなことを考えながら、僕らは領地の屋敷へと足を踏み入れた。
思っていた以上に使用人は残っていたみたいだ。夜遅くだと言うのに使用人たちは玄関口で待っていたようだ。
「お待ちしておりました、レオン殿下。使用人一同、到着をお待ちしておりました」
恐らく、執事長であろう白髪の男性が使用人を代表して声を掛けてきた。
「出迎えご苦労。予定よりも遅れてしまった。今日はこのまま休むから、話はまた後日。……ああ、そうだ。百八本の赤いバラを用意してくれ」
「かしこまりました」
屋敷についたのが夜遅くだったから、フィンはもう寝ているだろうと判断した。寝ているのを起こすのは申し訳ないし、昨日は野宿をしたから身体を洗いたかった。
フィンを迎えに行く時は、格好いい自分でありたい。
食事を摂る気にはなれず、風呂に入ってベッドへ潜る。柔らかなベッドに潜り込んで、明日、フィンを迎えに行くことを想像して薄っすらと口角を上げた。
全く、馬車を襲おうとする人たちのせいで到着が遅れてしまった。魔法で加工している馬車だと言うのに。
――それにしても、まさか使用人たちが待っているとは思わなかった。いや、当然と言えば当然かもしれない。
後でこの屋敷を隅から隅まで歩いてみよう。隠し通路もあるだろうから、把握しておかないと……。いや、その前にやっぱりフィンを迎えに行って……。
明日のことを想像して、目を閉じる。フィンはどんな大人になっているのだろう。フィンと一緒に暮らすために、僕は色んなことを頑張って来た。僕に何も言わずに消えてしまったあなたを、探し当てられたのは奇跡のようなものだった。
また、あの笑顔が見られるかなぁ……?
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