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6話:積もる話をしようか。
それから何分経っただろうか。扉がノックされた。ギルベルトだろう。僕が入室を許可すると、ギルベルトがお茶を持って来てくれた。僕は何も言わなかったけど、お茶菓子まで持って来た。さすがは執事長と言うところか。
「フィン様、そちらのバラは花瓶に活けますか?」
「お、俺相手に『様』なんて要らないですよ!」
「それは僕が許さないよ。フィンのことを呼び捨てにして良いのは、フィンの家族と僕だけなんだから」
フィンがびっくりしたように目を丸くした。そして、少し悩むように視線を彷徨わせてから「……お願いします」とギルベルトに花束を渡した。
「レオン殿下、フィン様のお部屋はいかがなさいますか」
「同じ部屋――って言いたいところだけど、確かこの屋敷にはパートナーのための部屋があったよね」
「はい。では、そちらに」
「ああ。ご苦労」
ギルベルトは頭を下げて出て行った。僕はお茶を飲んで小さく息を吐く。フィンは僕のことを見て、「……どうして」と口にした。
「特別扱いなんて望んでない……」
ぽつりとそんなことを口にするフィンに、僕は聞こえるようにため息を吐いた。ビクッとフィンの肩が跳ねて、それから恐る恐ると言うように僕を見る。
「あなたは僕のパートナーになるんだから、こういう扱いは慣れてもらわないと」
「……そもそも、プロポーズはお断りしたはずですが。それに、仕事を辞めさせたり住んでた場所を奪ったり、何がしたいんですか……!」
「だってこうでもしないとフィンは逃げるでしょ?」
あの日のように。
フィンは小さく息を飲んだ。それから、間が持たないと思ったのかカップを持ってお茶を飲んだ。
「本屋の店主にも、フィンが住んでた場所の家主にも、先に伝えてはいたから大丈夫だよ」
「俺は大丈夫じゃありません……!」
「……勝手にされて怒っている?」
「当たり前でしょう!」
「……それ、十年前の僕の感情だよ、フィン」
フィンの動きが止まった。目を瞬かせて、それから僕から視線を逸らす。僕はカップを置いてフィンの隣に座る。僕から離れようとしたフィンの手を掴んで、ぐっと引き寄せる。……フィンってこんなに小さかったっけ? って思うくらい、僕の記憶の中のフィンとは違う。
「レオン殿下……!?」
「積もる話をしようか。あなたが勝手に居なくなってから、今までのことを」
「……っ」
僕から逃げていたという自覚はあるのだろう。フィンは大人しくなった。僕がぎゅっとフィンの手を握るとびくりと身体を震わせる。……そんなに怯えられると結構ショックを受けるんだけど……。
「レオン殿下の世界は、かなり広がったでしょう。なぜ俺にそこまで執着するのですか」
「……前提が違うよ、フィン」
「前提?」
「僕が世界を広げたのは、フィンと結婚したかったから。僕はね、フィン。あなたが居てくれたら、僕はそれだけで良い。たとえ世界が敵になったとしても僕はあなたが居れば幸せだから。……もちろん、それが僕の独りよがりのことも知っているけどね」
――そう、これは僕の独りよがりな感情に過ぎない。だけど……これから先のことを思えば、フィンはこの屋敷に居るほうが安全だ。
「……ええと、子どもの頃の『好き』って感情を、今でも恋情だと勘違いしているとか……?」
「勘違い? 僕が?」
すっと目を細めてフィンを見る。フィンは眉を下げて僕を見て、それから視線を明後日の方向に飛ばした。そんなフィンに、僕は繋いでいないほうの手を伸ばして彼の頬に触れる。
「ずっとずっと……フィンと結婚するのを目標に頑張って来たんだよ。剣術、魔術、他にも色々。すべてはフィンを手に入れるために」
「俺は褒賞ですか」
「似たようなもんかな? でも、フィンだって恋人が出来たことないじゃない。良い雰囲気になった人も居るみたいだけど、騙されていたんでしょ?」
「……どうしてそれを……」
フィンのことならなんでも知っている。……と、言いたいところだけど、フィンを見つけるまでの間のことは知らない。フィンは家族にも連絡をせずに暮らしていたから、フィンを見つけた後は僕がフィンの家族に彼が無事なことを伝えていた。
そしてフィンが二十歳の頃、フィンがとある場所で女性と知り合い、交流を重ねていくうちに女性に惹かれていったらしい。
――その報告を読んだ時、ものすごく悲しくなったのを覚えている。
……ただ、その女性は他の男性と結婚していて、フィンのことを利用していると知り、僕は臣下にその女性たちをこの領地から追い出すように命じた。その女性の夫がフィンを利用しようと持ちかけていた。
反吐が出るとはこのことか。
「……調べてたんですか」
「うん。フィンを見つけてからずっとね。――心配だったから」
フィンがこの街に住んでいると知り、フィンの行方がわからなくなるのを恐れてずっとフィンのことを調べていた。本屋で働いているところ、例の女性と知り合ったきっかけ、女性と過ごしていた日々、――騙されていたことを知った時。
「……調べられるのってなんか怖いんですけど……」
「フィンが行方不明にならなければ、そんなこともしなかったんだけどね」
にっこりと笑みを浮かべると、フィンは「あ~……」と複雑そうな声を上げた。
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