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8話:それじゃあ、仕事を始めようか。

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「レオン殿下に好かれるとは、大変でしょうけれど頑張ってくださいね」
「諦めるのもひとつの手だから、覚えておいてください」
「……はぁ、え、と……?」
「はいはい。とりあえずフィンと話せたし、仕事を始めるよ」

 僕がパンパンと両手を叩くと、彼らはこくりとうなずいた。

「クラウス、ディルク、屋敷内を見て回っただろう? どうだった?」
「……そうですね、多少手を加えたほうが良い場所がそれなりに」
「訓練場になりそうな場所も手を加えて欲しいかなーって。魔術の訓練も良いのなら、余計に」
「そうだね、でもその前に街ひとつを包み込むような結界を作るほうが先かな」

 ぽんぽんと飛び交う言葉に、フィンが目を白黒とさせていた。

「あの……この会話は俺が聞いていても良いのでしょうか……」
「ええ。むしろこれから仕事仲間になるのですから、聞いてもらわないと困ります」

 そう言うクラウスに、フィンは「え」と小さく言葉を呟く。……僕の従僕ってことは、そう言うことだからねぇ……。僕がお茶を飲むと、すっかりと冷めていた。冷めていたけれど、これはこれで美味しいお茶だった。

「ええ……」

 フィンにとっては困惑する内容だろうけど、フィンにも手伝ってもらわないといけない。フィンはずっとこの街で暮らしていたのだから、それなりの情報量がある。――フィンが毎日を無事に過ごせるように、手を回さなくっちゃ。

「あ。でもフィンの最初の仕事は――ご家族に手紙を書くこと、かな。住所は僕が知っているから」
「……どうして殿下が俺の両親の住所を知っているんですか……」
「……どうしてって……」
「そりゃあもう、『レオン殿下』だからとしか……」

 クラウスとディルクが顔を見合わせてから一瞬僕へ視線を向けて、それからフィンへと視線を移動してそう言った。……どうしてって、調べたからに決まっているのに。

「そろそろフィンの部屋も用意できたかな。屋敷を見回りながら向かおうか」
「ついでに他の使用人たちの働きぶりも見ていきましょう」

 クラウスの言葉にこくりとうなずいて、僕らは部屋から出て行った。
 結構広い屋敷だから、しっかりと覚えておかないといけない。後でまた街にも行かないといけないね。避難所や抜け道があるかどうかも調べておかないと……。

「考えることがたくさんですね、殿下」
「うん。でも王城に居た時よりは気が楽だよ」

 フィンが居てくれるから。やっぱり想像のフィンよりも、実際のフィンのほうが何倍も良い。傍に居られるだけで、なんてことは言えないけれど……遠いところに居られるよりはずっと良い。

「……本当に広い屋敷ですね……」
「こういうところは迷路のように作られたりもしているからね。王城もそうだったでしょ?」
「……俺、バイトの時は殿下のところにすぐに向かっていたので、城を見回ることってなかったんですよ……」

 ……そうだったっけ? ああ、でも確かに朝起きた時にはフィンが居た。

「でも、どうしてこんなに複雑にしたんでしょうか?」
「敵がどのように侵入してくるかわからないからね。迷路のようになっていれば多少時間は稼げるし……」

 僕自身にもそれなりに敵が居るからね。ちらりとフィンを見ると、フィンが不安そうな表情を浮かべていたから、僕はフィンの手をぎゅっと握った。緊張からか冷たくなっているフィンの手を温めるように。

「殿下……?」
「大丈夫。この屋敷内は絶対に安全な場所にするから」

 安心させるようにフィンに笑顔を向けると、フィンは小さくうなずいた。
 ――そう、絶対安全な場所にしなくちゃいけない。フィンが楽しく過ごせる場所にしなくてはいけない。――そうすれば、この屋敷から出て行こうとは思わないでしょ?
 僕の考えをクラウスとディルクが読み取ったのか、ものすごく胡散臭そうな視線を僕に寄こしてきた。……本当、そう言う感情隠さないところが、ふたりの良いところだよ……。

「……みんな手際が良いね」
「そりゃあそうでしょう。前の領主の元で働いていた使用人たちなのですから」

 せっせと掃除するメイドたち。僕らに気付くと掃除の手を止めて慌てて頭を下げる。

「ご苦労様。その調子でよろしくね」
「は、はい……! かしこまりました……!」
「人手はどう? 足りている?」
「え、ええと……そう、ですね。このお屋敷広いので……隅々まで掃除するには足りない、ですね……」
「元々はどのくらいいたの?」

 メイドたちは顔を見合わせて、それから「大体でよろしいでしょうか」とこちらの顔色を窺いながら聞いて来た。僕がうなずくと、メイドのひとり……名はソフィア、だったはず。

「このお屋敷に二十五人ほど……。そして、お屋敷の周りを十人ほどが守っておりました」
「……ふむ。それじゃあ確かに人手が足りないね。すぐに募集を掛けておくよ。話してくれてありがとう、仕事に戻ってくれ」

 僕がそう言うと、メイドたちは仕事に戻った。少し戸惑っているように見えるのは気のせいではないだろう。……前の領主は、どんな風に使用人たちと接していたのかな。そこら辺は後々考えよう……。
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