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9話:フィンの部屋。
色々と見回って、キッチンのほうも人手が足りないと言われた。今日中に募集を掛けておいた方がいいかもしれない。クラウスにそう伝えると、「すぐに手配します」と手を胸に当てて頭を下げた。人手不足がすぐに解消すれば良いんだけど。
「ディルクはこのまま僕らについて来て」
「かしこまりました」
フィンの部屋を教えておかないといけない。色々と歩いている途中で、ギルベルトにばったり会った。
「どこに向かわれているのですか?」
「フィンの部屋」
「でしたら、ご案内いたします」
こくりとうなずくとギルベルトはにこりと微笑んで、先頭を歩き出す。フィンの部屋へと歩いていく途中、中庭が見えた。綺麗な花が色とりどり艶やかに咲いている。
「……元の領主は、花が好きだったのかな?」
「いえ、領主様よりも奥様のほうが。奥様自ら花の手入れをしていたほどですから……」
ここの領主であった伯爵家、リンジー・クレイグ・ロウトン。彼は愛妻家であることで有名だった。妻であるノーマのために、中庭を花で埋めつくしたのだろう。だが、ノーマは流行り病で呆気なくこの世から旅立った。……ノーマを失ったリンジーは、精神を病んでしまい現在は王都の病院に入院している……表向きはこうだ。
「……現在、花壇の手入れは誰が?」
「庭師はやめてしまったので、僭越ながら我々使用人が日替わりで」
「そう。庭師も雇わないとね」
――その庭師、イアンと言う名前だったかな。……ノーマとイアンは、リンジーの目を盗んで身体の関係を持ったらしい。……それに気付いたリンジーが……と言うのが、領主たちの結末だ。ギルベルドは「やめた」と言っていたが……。
ちらりとギルベルドを見ると、彼は曖昧に微笑むだけだった。……フィンを怖がらせないためについた嘘だ。
――そして恐らく、ギルベルドはこの屋敷で行われたことをすべて知っている。僕に話さないのは、話す必要なしと見ているか、僕が既にすべてを知っていることに気付いているかの二択。……後者だろうな。
「こちらの部屋になります」
そう言ってギルベルトが足を止めた。
「部屋のものは取り替えますか?」
「えっ、いや、そのままで……!」
「すべて取り替えて。ディルク、フィンの部屋の場所は覚えたね?」
「はい、殿下。迷うことなく辿り着く自信があります」
それならもしもの時も安心だ。ディルクは屋敷のことを見て回っていたし……。僕はフィンを見て、にこりと微笑みを浮かべる。そして、自分がつけていたネックレスを、フィンへと渡した。
「あ、あの殿下……これは、一体?」
「フィンは僕のお嫁さん予定だからね、あげる」
「い、頂く理由がありません……!」
言外に嫁にならないと言われている気がする。だけど、気にしない。僕が身につけていたネックレスだ。小さいけれど強力な魔石に、僕の魔力を込めてお守りとしたもの。いつかフィンに渡すつもりだったものだから、ずっと身につけていた。
僕の魔力を吸った魔石には、身を護る魔法が込められている。矢が飛んできても、槍が飛んできても、魔法が飛んできても当たらないという魔法だ。
「フィンの主は僕なんだから、素直に受け取って。そして、毎日欠かさず身につけていること」
「ま、毎日ですか……?」
「そう。毎日。……さて、フィンの部屋の場所もわかったことだし、今日のところはディルクと行動してくれる? ディルク、わかっているとは思うけど……」
「はいはい、ちゃんとやりますって。行きましょうか、フィン様。屋敷内を案内します」
そう言って、フィンとディルクはこの場から去って行った。残った僕とギルベルトは、
部屋の前で言葉を交わす。
「……前のままなんだね?」
「……はい。入られますか?」
こくりとうなずく。ギルベルトが扉を開けて、僕が部屋の中へ入るのを見て、自分も部屋へと入った。僕が贈ったバラの花束はきちんと花瓶に活けてあった。……それにしても、フィンを入れないで良かった。ここまで空気が重くなるとは……自分が撒いた種の癖に……。
「……よく、この部屋だけで済んだなぁ」
「……わかるのですか?」
「そりゃあね。――僕が王位継承権を放棄したもうひとつの理由が、それだから」
僕がにっこりと微笑みを浮かべてみせると、ギルベルトは驚いたように僕を見た。……僕は確かに王族だけれど、三人兄弟の中で僕だけ母が違う。
……そう、僕の母は『聖女』だった。
僕を産んですぐに亡くなったらしい。だが、僕のことを知った兄上の母が、自分の子として育てると引き取ってくれた。育ての親と産みの親。……とはいえ、やはり色々複雑だったのだろう。母上とあまり会うことはなかった。
「――フィンに悪影響を及ばされても、困るしね」
目を閉じて、部屋の中に居る黒い靄を集める。――ノーマの思念。彼女は、この屋敷でリンジーに殺された。そして、それはイアンも同じ。だが、イアンはあっさりと天国に向かったようだ。残されたのはノーマだけ。
屋敷内の使用人たちの表情が暗かったのは、そう言う理由もあるんだろう。……もちろん、僕にはそんなことを悟らせないようにしていたが、立場上そう言うのってわかるんだよね。僕に偽りない笑顔を向けてくれたのは、フィンだけだ。
「さて、ノーマ。あなたの無念を聞こうじゃないか」
黒い靄はやがて人の姿になり、生前の姿を映し出した。ゆっくりと目を開けると、ノーマが自分の手を見て目を大きく見開いていたのが見えた。
「……奥様……」
≪……わたし、私……死んだのではなくて……?≫
ギルベルトが驚愕の表情を浮かべてノーマを見つめている。ノーマはただただ驚いていた。
「ディルクはこのまま僕らについて来て」
「かしこまりました」
フィンの部屋を教えておかないといけない。色々と歩いている途中で、ギルベルトにばったり会った。
「どこに向かわれているのですか?」
「フィンの部屋」
「でしたら、ご案内いたします」
こくりとうなずくとギルベルトはにこりと微笑んで、先頭を歩き出す。フィンの部屋へと歩いていく途中、中庭が見えた。綺麗な花が色とりどり艶やかに咲いている。
「……元の領主は、花が好きだったのかな?」
「いえ、領主様よりも奥様のほうが。奥様自ら花の手入れをしていたほどですから……」
ここの領主であった伯爵家、リンジー・クレイグ・ロウトン。彼は愛妻家であることで有名だった。妻であるノーマのために、中庭を花で埋めつくしたのだろう。だが、ノーマは流行り病で呆気なくこの世から旅立った。……ノーマを失ったリンジーは、精神を病んでしまい現在は王都の病院に入院している……表向きはこうだ。
「……現在、花壇の手入れは誰が?」
「庭師はやめてしまったので、僭越ながら我々使用人が日替わりで」
「そう。庭師も雇わないとね」
――その庭師、イアンと言う名前だったかな。……ノーマとイアンは、リンジーの目を盗んで身体の関係を持ったらしい。……それに気付いたリンジーが……と言うのが、領主たちの結末だ。ギルベルドは「やめた」と言っていたが……。
ちらりとギルベルドを見ると、彼は曖昧に微笑むだけだった。……フィンを怖がらせないためについた嘘だ。
――そして恐らく、ギルベルドはこの屋敷で行われたことをすべて知っている。僕に話さないのは、話す必要なしと見ているか、僕が既にすべてを知っていることに気付いているかの二択。……後者だろうな。
「こちらの部屋になります」
そう言ってギルベルトが足を止めた。
「部屋のものは取り替えますか?」
「えっ、いや、そのままで……!」
「すべて取り替えて。ディルク、フィンの部屋の場所は覚えたね?」
「はい、殿下。迷うことなく辿り着く自信があります」
それならもしもの時も安心だ。ディルクは屋敷のことを見て回っていたし……。僕はフィンを見て、にこりと微笑みを浮かべる。そして、自分がつけていたネックレスを、フィンへと渡した。
「あ、あの殿下……これは、一体?」
「フィンは僕のお嫁さん予定だからね、あげる」
「い、頂く理由がありません……!」
言外に嫁にならないと言われている気がする。だけど、気にしない。僕が身につけていたネックレスだ。小さいけれど強力な魔石に、僕の魔力を込めてお守りとしたもの。いつかフィンに渡すつもりだったものだから、ずっと身につけていた。
僕の魔力を吸った魔石には、身を護る魔法が込められている。矢が飛んできても、槍が飛んできても、魔法が飛んできても当たらないという魔法だ。
「フィンの主は僕なんだから、素直に受け取って。そして、毎日欠かさず身につけていること」
「ま、毎日ですか……?」
「そう。毎日。……さて、フィンの部屋の場所もわかったことだし、今日のところはディルクと行動してくれる? ディルク、わかっているとは思うけど……」
「はいはい、ちゃんとやりますって。行きましょうか、フィン様。屋敷内を案内します」
そう言って、フィンとディルクはこの場から去って行った。残った僕とギルベルトは、
部屋の前で言葉を交わす。
「……前のままなんだね?」
「……はい。入られますか?」
こくりとうなずく。ギルベルトが扉を開けて、僕が部屋の中へ入るのを見て、自分も部屋へと入った。僕が贈ったバラの花束はきちんと花瓶に活けてあった。……それにしても、フィンを入れないで良かった。ここまで空気が重くなるとは……自分が撒いた種の癖に……。
「……よく、この部屋だけで済んだなぁ」
「……わかるのですか?」
「そりゃあね。――僕が王位継承権を放棄したもうひとつの理由が、それだから」
僕がにっこりと微笑みを浮かべてみせると、ギルベルトは驚いたように僕を見た。……僕は確かに王族だけれど、三人兄弟の中で僕だけ母が違う。
……そう、僕の母は『聖女』だった。
僕を産んですぐに亡くなったらしい。だが、僕のことを知った兄上の母が、自分の子として育てると引き取ってくれた。育ての親と産みの親。……とはいえ、やはり色々複雑だったのだろう。母上とあまり会うことはなかった。
「――フィンに悪影響を及ばされても、困るしね」
目を閉じて、部屋の中に居る黒い靄を集める。――ノーマの思念。彼女は、この屋敷でリンジーに殺された。そして、それはイアンも同じ。だが、イアンはあっさりと天国に向かったようだ。残されたのはノーマだけ。
屋敷内の使用人たちの表情が暗かったのは、そう言う理由もあるんだろう。……もちろん、僕にはそんなことを悟らせないようにしていたが、立場上そう言うのってわかるんだよね。僕に偽りない笑顔を向けてくれたのは、フィンだけだ。
「さて、ノーマ。あなたの無念を聞こうじゃないか」
黒い靄はやがて人の姿になり、生前の姿を映し出した。ゆっくりと目を開けると、ノーマが自分の手を見て目を大きく見開いていたのが見えた。
「……奥様……」
≪……わたし、私……死んだのではなくて……?≫
ギルベルトが驚愕の表情を浮かべてノーマを見つめている。ノーマはただただ驚いていた。
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