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10話:屋敷内で起こったこと。
「ノーマ、早速だけど君に聞きたいことがある」
≪ギル、誰ですの? このお方。私、さっきまですっごくすっごくリンジーが憎かったのに……≫
「……奥様、この方はロッシュ王国の第三王子、レオン・フォン・ロッシュ様です」
≪……ええええ? お、王族の方なの!? まぁ、どうしましょう、こんな姿でお会いすることになるなんて! 神様は意地悪ね!≫
……話を……聞いて欲しいのだけど……。ノーマは三十代前半といったところかな。ころころと表情を変えてそんなことを話している。……と言うか、ギルベルドにも見えるし聞こえているんだ……。あー、本当に面倒な能力を持ってしまった。
≪ごめんなさいね、レオン殿下。私はノーマと申します……って、もう知っておいででしたよねっ。うふふっ≫
殺されたことでショックを受けて屋敷内に留まっていたのかと思ったけど、もしかして別の力が働いていたんだろうか。彼女の明るさにちょっと……いやかなり拍子抜けしてしまった。
「ギルベルド、この部屋に鍵を掛けて」
「かしこまりました」
僕はゆっくりと息を吐いて近くにあった椅子に腰かける。幽霊ってこんなに明るいものなんだろうか……。いや、僕が見てきた幽霊はこんなに明るくなかった。おどろおどろしい感じの幽霊しか見て来なかったんだけど……。
≪それで、私に聞きたいことってなんでしょうか?≫
「――君は、どうしてイアンと浮気をしたの?」
≪浮気? 私、浮気なんてしていませんわよ?≫
……やっぱり。彼女は完璧に被害者だったわけか……。クラウスからもらった資料を読んで、腑に落ちなかった。リンジーは愛妻家で、その妻であるノーマもリンジーにべた惚れしていたと聞いていたから。
そんな彼女がどうして庭師であるイアンとそんな関係になったのか……。
≪えっ、待ってください。イアンと浮気ってどういうことですの?≫
……そこからかぁ。……巻き込まれていただけ、と言うのは……何と言うか、本当にご愁傷様としか言えない感じだ。
「表向きには、ノーマは流行り病に掛かり亡くなった、と言うことになっている。だけど、実際は違うだろう?」
≪え、ええ……。殺された日のことはよく覚えていますわ。リンジーが鬼のような形相で私を……めった刺しにされた覚えがありますもの……とっても痛かったし、怖かった……≫
ノーマは自分を抱きしめるように腕を組んだ。その時の恐怖を思い出しているのか、ふるふると身体を震わせている。
「……そうか。ちなみに、イアンと身体の関係があったと言われていたが、そのことについては?」
≪私は旦那様一筋です! イアンとは、花仲間として仲が良かっただけですわ! 神に誓って!≫
「……ちなみに、その神とはどの神のことかな?」
≪私が信仰しているのは、イシュトナー様ですわ≫
イシュトナー……豊穣の女神か。
≪イシュトナー様は豊穣の女神。毎日、領民が豊かな作物に恵まれますようにってお祈りしておりましたの。……ああ、でも、殺された日だけはお祈り出来ませんでしたわ……。……あの、それが何か……?≫
「いや。リンジーに何か伝えたいことがあるのなら、一応聞いておくけど、どうする?」
ノーマはパッと表情を明るくした。そして、にっこりと笑顔を浮かべて、リンジーへの伝言を口にする。
≪信じられないかもしれませんが、私がリンジーを裏切ったことなど一度もありません。あなたを愛していました。――そう、お伝えください。私はもう、この部屋から解放されるのですね。……これで、やっと、この子に会えるのかしら……≫
愛しそうにお腹を撫でる仕草に、ギルベルトが「奥様、まさか……」と口にした。……お腹に、子どもを宿していたのか。
≪殿下、ありがとうございました。……そう言えば、イアンはどうなったのですか?≫
「リンジーが殺した、と聞いています。あなたを殺す前に」
≪? それはおかしいですわね。だってイアンが庭師をやめたのは、私を殺す一週間前ですもの。イアンは国外で花の勉強をするって言っていたので、国境を越えているのだと思うのですが……≫
……嘘をついているようには見えない。ギルベルトは目を大きく見開いた。……どういうことだ? 誰かが、情報操作をしている? なんのために? ……それでは、イアンだと思われていたあの死体は、一体……?
「……イアンの死体は?」
「……わからないのです。あの日は……屋敷全体が騒がしく……」
≪……そうよね、そう……。リンジーのことを嫌いになったことなんて、一度もなかったのに……あの日だけ、すごく憎かった……。……どうして? 私、どうして……っ≫
「……あなたの無念を晴らすために、僕はこの領地へ来たんだ」
もちろん、一番大きな理由はフィンだけど。この事件を知った時、肝が冷えた。フィンが住んでいる場所で、こんな事件が起こるなんて、と。恐ろしいことにこれ、今年に入ってからの話なんだよね……。
≪ありがとうございます、殿下。殿下に女神、イシュトナー様の加護があらんことを。……私は、もういきますね。ここに留まる理由はありませんから≫
「……ご協力、感謝します。……ギルベルト、……花を持って来てくれないか? あの花瓶のバラで良い」
「かしこまりました」
ギルベルトは花瓶からバラを数本抜いて、ノーマへと差し出す。ノーマはそのバラを見て、嬉しそうに微笑んだ。
≪ありがとう、ギル。――さようなら≫
「――いってらっしゃいませ、ノーマ様」
ギルベルトはそう言って、綺麗なお辞儀をした。……八本のバラの意味は、『あなたの思いやり、励ましに感謝します』。そして、百本のバラの意味は『百パーセントの愛』。うまい具合に抜いたなぁ。
差し出された八本のバラを大事そうに手にして、ノーマは笑顔で消えていった。
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