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12話:心配性が居る。
「ちょっとこの部屋に悪いものが溜まっていたから、追い出しただけ――フィン? どうしたの?」
顔を真っ青にさせるフィンに、ディルクが僕に近付いて耳打ちして来た。
「お化け関係怖いんじゃないですか?」
「……」
それはそれで可愛いなぁ……。っと、そうじゃなくて。僕がフィンに手を伸ばすと、フィンは目をパチパチと瞬かせた。そっとフィンの手を掴む。冷たい。そっか、フィンはお化け関係が苦手なのか……。
「もう大丈夫。悪いものは全部消えたから。……怖いなら、一緒に寝る?」
「結構です!」
「つれないなぁ。……あぁ、でも、渡したペンダントはちゃんと近くに置いておいてね。身につけるのが一番だろうけど……」
にこりと微笑むとフィンが視線を逸らした。僕が渡したペンダント、ちゃんと持っていてくれたら良いんだけど……。
「ギルベルド、それじゃあ部屋の家具に関してはフィンと相談してくれる?」
「かしこまりました、レオン殿下」
「じゃあ、またね。フィン。フィンの好きなようにして良いからね。――行こう、ディルク」
僕がひらりと手を振ると、ギルベルドは頭を下げてフィンは「はぁ……」とちょっと気のない返事をした。
ディルクと一緒に執務室に向かうと、クラウスが既に執務室の前に立っていた。
「レオン殿下、お待ちしておりました」
「うん。――じゃあ、こっちはこっちで色々話し合おうか。ディルク、お茶の用意してくれる?」
ちらりとクラウスに視線を向けるディルクに、クラウスはこくりとうなずく。……年齢はディルクのほうが上だけど、数ヶ月クラウスのほうが先に護衛になったからの微妙な上下関係……。見ている分には面白い。
それに、執事役にはまった時にお茶の淹れ方の勉強を重ねていたから、ディルクの淹れるお茶って美味しいんだよね。
三人分のお茶を用意して、それぞれソファに座ってこくりと一口。
「……殿下、身体の具合は大丈夫ですか?」
「あのくらいなら大丈夫だよ。……今日の夜に行う分の力は残しているし」
「あまり無理をなさらないでくださいね」
「え、やだ」
きっぱりとそう言うと、クラウスとディルクが重々しくため息を吐いた。
僕の『聖なる力』は、僕の生命力を使っているらしい。なので、使いすぎればそれこそ倒れる。魔力切れとはまた違う感じ。そのことを、クラウスとディルクは知っているのだ。
「数日寝込むくらいはどうってことないし、それよりもここを安全な場所にするほうが先」
「……寝込むだけで済めばいいですけどね……」
「……その力に目覚めてから、使いすぎて血ィ吐いたことありますよね……」
「……ほら、あの時は目覚めたばかりで限界を知らなかったから……」
そもそもこの力を使い続けることは、僕の寿命を縮めると言うことだから、このふたりは僕にその力を使って欲しくないのだろう。
それでも、ここの領主になった僕について来るのだから……。
「……こちらがこの街の地図です」
「ありがとう。深夜に決行する」
「大量の水が必要ですねぇ……」
「――いや、要らない」
え、と僕を見るクラウスとディルクに、僕はにっこりと微笑んでみせた。
「まさか、聖水なしでやるおつもりですか!?」
「補助なしでやるなんて狂気の沙汰ですよ!?」
「クラウスとディルクの分はちゃんと聖水渡すよ……。でも、僕の分は必要ない。聖水でまろやかに浄化するつもり、ないから」
水に包み込むように、優しく浄化をするつもりはない。ちょっと街を見ただけでわかる、黒い靄。不思議なことにフィンの周りには何もなかった。……多分、フィン自身が跳ね返しているのだろうけど、フィンにも『聖なる力』が宿っているのだろうか。
――宿らないほうが良い、こんな力なんて。
「それでクラウス、求人は出してくれた?」
「はい、滞りなく。補充できると良いですね」
「え、ちょ、何で話題転換!?」
ディルクが慌てたようにそう言う。僕らの中ではもしかしたら、一番ディルクが常識人だったりして?
「いくら殿下でも無茶でしょう!」
「でもやらなきゃいけないことだよ、ディルク。それに別に僕が全部やることじゃないし」
「それでも! もう少しご自分の身体を大切にするべきです!」
「――僕は僕の目的のためにその力を使うだけ。……頭を冷やしてこい、ディルク」
ディルクは眉を顰めて執務室から出て行った。ばたんっと大きな音を立てて扉を閉めていった。
「……ダメですよ、殿下。あの言い方じゃディルクの頭に……殿下?」
「……ごめん、やっぱり、ちょっと無理をしたみたい……」
「レオン殿下!」
意識が急速に遠のく。……僕が聖者なんて、笑える話だ。
それでも、こんな姿を見せたらディルクは今日の深夜に行うことを中止にしようと言うだろうし。クラウスだって本当は乗り気じゃないことを知っている。
……それでも、それでも僕は、今日中にやり遂げなくてはいけない。
たとえ血を吐いても、数日寝込んだとしても、この場所だけは絶対に、守らないといけないから。遠のく意識の中、慌てたようなクラウスの声が聞こえた。
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