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season2
94話:お花見はヤバイ
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良い天気だなぁ。窓から見える青空は、今日が最高の花見日和であることを教えてくれる。
――なのになんで俺は、倉庫の中で弟と掃除をしてるんだろうか。
「こら、アレク。そんな乱暴に扱わないでください! もっと丁寧に!」
弟のジェルマンは、古い木箱を開けて中身を確認しながら俺に甲高い声で文句を言った。
俺達が経営している店はアンティークを扱っているから、倉庫の中は古くて高級な物が多い。
絵画や美術品、それに陶器や宝飾品。どれも丁寧に扱わないといけない品ばかりだし、中にはまめに手入れしないとダメな物もあって、掃除は結構面倒くさい作業だった。
「へいへい、ちゃんとやりますよっと……お、なんだこの箱。――へぇ、綺麗な腕輪じゃねぇか」
俺は棚の上にあった箱の中から、緑色の細かく装飾が施された腕輪を見つけた。たぶん翡翠(ひすい)だろう。ツヤツヤしていて透明感のある美しい緑色をしている。
窓からもれる光に当ててじっくり見ると、見たこと無いような文字が細かく刻まれているのがわかった。
「なぁ、ジェル。この腕輪さぁ、すげぇ綺麗なのになんで倉庫に放り込んでるんだ? 呪われてんのか?」
「いえ、そういうわけでは無いのですが……それは魔力を封じ込める腕輪なんですよ」
「どういうこった?」
「見せた方が早いですかね。貸してください」
ジェルは俺から腕輪を受け取ると、呪文を唱える。
すると彼の目の前に光る半透明の壁が現れた。これはあらゆる物理攻撃を防ぐジェルの得意の障壁(しょうへき)の魔術だ。
しかし光る壁は、彼が腕輪をはめると跡形も無く消え去った。
「いいですか、ここからが重要だから見ててくださいよ?」
そう言ってジェルは腕輪をはめた状態で再び呪文を唱えた。でも何も起きない。
「あれ? なんで光の壁がでてこねぇんだ?」
「この腕輪のせいです。これを身につけていると魔力が激減して魔術が使えなくなるんですよ」
「へぇ、そういうことか。すげぇなぁ」
俺が感心すると、ジェルはなぜか苦笑いした。
「でもこんな物、いくらすごくても何の役にも立たないですよ。魔力が増幅するアイテムなら欲しかったんですが、逆では使い道がありませんし」
なるほど。要は弱くなってしまうアイテムと思えばいいのか。
「じゃあ、倒したいやつの腕にはめて弱体化を狙えるってことか?」
「無理ですね。ほら、自分で簡単に着脱できますから」
ジェルは、腕輪を外して俺に渡した。たしかにこれじゃ使えそうにないな。
「でもさ、魔術を使わない人には関係無いし、普通にアクセサリーとして綺麗だから店頭に出しておいてもいいんじゃねぇか?」
「確かに質の良い翡翠ですから、倉庫に眠らせておくのは惜しいかもしれませんねぇ」
そんな話をしながらしばらく掃除を続けて、やっとリビングで休憩することになった。
「お疲れ様です。今、紅茶入れますね」
ジェルが紅茶を用意している間、俺はソファーにもたれかかって窓の外を見ていた。
――あぁ、出かけたいなぁ。きっと今頃は川沿いの桜も公園の桜も綺麗だろう。満開の桜の下で飲む酒は最高に美味いに違いない。
「なぁ、ジェル。お花見に行かねぇか?」
「いけませんよ、パンデミックなんですから。不要な外出は控えないとですし、お花見も中止です」
ジェルの言い分はもっともだ。今年に入ってから性質(タチ)の悪い伝染病が流行していて、世界中で猛威をふるっている。それに伴い、お花見だけでなくさまざまなイベントが自粛されていた。
「ジェルが障壁張ってくれたら大丈夫じゃねぇか?」
「それだとお花見してる間、ワタクシずっと障壁張りっぱなしじゃないですか。――そもそも障壁でウイルスは防げるんでしょうかね……?」
「それはわかんねぇけどさ、お兄ちゃんお出かけしたいんだよ~。もう家にいるの飽きた。お花見行きたい!」
あちこちの国が渡航中止になってしまったので、以前のように旅行することもできなくなった。
だからせめて、家の近所でちょっとお花見するくらいは許してくれてもいいんじゃないだろうか。
「なぁ、ジェルちゃ~ん。どこでもいいからさぁ~。お花見行こうよぉ~」
俺はソファーに座ったまま手足をブラブラさせて、全力で出かけたいアピールをしてみた。
「しょうがないですねぇ……」
ジェルはあごに手を当て、しばらく考え込んでいる。これは脈アリとみていいかもしれない。
「アレク。お花見ができるなら本当にどこでもいいですか?」
「おぅ、ジェルが一緒ならどこでもいいぞ!」
「――わかりました。ではアレクはお花見の準備をしてください」
「やったー!」
へへ。やっぱりジェルは、なんだかんだ言っても俺のワガママを聞いてくれるんだよな。
――なのになんで俺は、倉庫の中で弟と掃除をしてるんだろうか。
「こら、アレク。そんな乱暴に扱わないでください! もっと丁寧に!」
弟のジェルマンは、古い木箱を開けて中身を確認しながら俺に甲高い声で文句を言った。
俺達が経営している店はアンティークを扱っているから、倉庫の中は古くて高級な物が多い。
絵画や美術品、それに陶器や宝飾品。どれも丁寧に扱わないといけない品ばかりだし、中にはまめに手入れしないとダメな物もあって、掃除は結構面倒くさい作業だった。
「へいへい、ちゃんとやりますよっと……お、なんだこの箱。――へぇ、綺麗な腕輪じゃねぇか」
俺は棚の上にあった箱の中から、緑色の細かく装飾が施された腕輪を見つけた。たぶん翡翠(ひすい)だろう。ツヤツヤしていて透明感のある美しい緑色をしている。
窓からもれる光に当ててじっくり見ると、見たこと無いような文字が細かく刻まれているのがわかった。
「なぁ、ジェル。この腕輪さぁ、すげぇ綺麗なのになんで倉庫に放り込んでるんだ? 呪われてんのか?」
「いえ、そういうわけでは無いのですが……それは魔力を封じ込める腕輪なんですよ」
「どういうこった?」
「見せた方が早いですかね。貸してください」
ジェルは俺から腕輪を受け取ると、呪文を唱える。
すると彼の目の前に光る半透明の壁が現れた。これはあらゆる物理攻撃を防ぐジェルの得意の障壁(しょうへき)の魔術だ。
しかし光る壁は、彼が腕輪をはめると跡形も無く消え去った。
「いいですか、ここからが重要だから見ててくださいよ?」
そう言ってジェルは腕輪をはめた状態で再び呪文を唱えた。でも何も起きない。
「あれ? なんで光の壁がでてこねぇんだ?」
「この腕輪のせいです。これを身につけていると魔力が激減して魔術が使えなくなるんですよ」
「へぇ、そういうことか。すげぇなぁ」
俺が感心すると、ジェルはなぜか苦笑いした。
「でもこんな物、いくらすごくても何の役にも立たないですよ。魔力が増幅するアイテムなら欲しかったんですが、逆では使い道がありませんし」
なるほど。要は弱くなってしまうアイテムと思えばいいのか。
「じゃあ、倒したいやつの腕にはめて弱体化を狙えるってことか?」
「無理ですね。ほら、自分で簡単に着脱できますから」
ジェルは、腕輪を外して俺に渡した。たしかにこれじゃ使えそうにないな。
「でもさ、魔術を使わない人には関係無いし、普通にアクセサリーとして綺麗だから店頭に出しておいてもいいんじゃねぇか?」
「確かに質の良い翡翠ですから、倉庫に眠らせておくのは惜しいかもしれませんねぇ」
そんな話をしながらしばらく掃除を続けて、やっとリビングで休憩することになった。
「お疲れ様です。今、紅茶入れますね」
ジェルが紅茶を用意している間、俺はソファーにもたれかかって窓の外を見ていた。
――あぁ、出かけたいなぁ。きっと今頃は川沿いの桜も公園の桜も綺麗だろう。満開の桜の下で飲む酒は最高に美味いに違いない。
「なぁ、ジェル。お花見に行かねぇか?」
「いけませんよ、パンデミックなんですから。不要な外出は控えないとですし、お花見も中止です」
ジェルの言い分はもっともだ。今年に入ってから性質(タチ)の悪い伝染病が流行していて、世界中で猛威をふるっている。それに伴い、お花見だけでなくさまざまなイベントが自粛されていた。
「ジェルが障壁張ってくれたら大丈夫じゃねぇか?」
「それだとお花見してる間、ワタクシずっと障壁張りっぱなしじゃないですか。――そもそも障壁でウイルスは防げるんでしょうかね……?」
「それはわかんねぇけどさ、お兄ちゃんお出かけしたいんだよ~。もう家にいるの飽きた。お花見行きたい!」
あちこちの国が渡航中止になってしまったので、以前のように旅行することもできなくなった。
だからせめて、家の近所でちょっとお花見するくらいは許してくれてもいいんじゃないだろうか。
「なぁ、ジェルちゃ~ん。どこでもいいからさぁ~。お花見行こうよぉ~」
俺はソファーに座ったまま手足をブラブラさせて、全力で出かけたいアピールをしてみた。
「しょうがないですねぇ……」
ジェルはあごに手を当て、しばらく考え込んでいる。これは脈アリとみていいかもしれない。
「アレク。お花見ができるなら本当にどこでもいいですか?」
「おぅ、ジェルが一緒ならどこでもいいぞ!」
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