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魔王の城
9話:仕立て人のベティさん
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食事を終えた後、ガルに声をかけられた。
「シエラ、先ほどはいろいろと驚かせてしまったようだな」
「ごめんなさい、騒がしくなってしまって」
「いや、こんな賑やかな食事も悪くない。家来たちも喜んでいたようだしな」
「なら良いんだけど。私も楽しかったわ」
「そうか。ところで、シエラの世話をする使用人を誰にするかまだ決めかねているんだが」
「私の世話?」
「あぁ。シエラの部屋の掃除や身支度を手伝う使用人が必要だろ? もし家来たちの中で気に入った者がいればシエラの世話を担当させるが、どうだ?」
「ううん、大丈夫よ。必要だったら私が掃除も洗濯も何でもするわ」
王宮では侍女のメアリーが身の回りの世話をしてくれていたが、実は誰かに頼らなくてもある程度のことは自分でできるのだ。
実家であるノイシュタール家の財政状況はあまり良くなかったので、あまり使用人を多く雇うようなことはできなかった。
王宮から支援を受けるようになってからは使用人に世話をしてもらうことが増えたが、それまでは身支度は日常的に自分で行っていたし、家事も一通りはこなしていた。
「てっきり、身の回りのことは使用人に任せて自分は何もしないもんだと思ってたが……シエラは変わってるな」
「だめだった?」
「いや、気に入った」
ガルは口の端を軽く上げて微笑んだ。
端整な顔から現れる、活き活きした表情に胸がときめくのを感じる。
「他に何かこの城で生活する上で必要な物があれば、遠慮なく言ってくれ」
「ありがとう。……でもどうして、敵であるはずの私にそんなに親切にしてくれるの?」
「シエラをこの城に客人として滞在させると約束したからな。それに――」
「それに?」
私の問いにガルは視線を逸らして、軽く咳払いをした。
「んっ……いや、なんでもない。――それで、何か必要な物はあるか?」
「そうねぇ……そう言えば、着替えが足りないのよね」
この城に来る前に森で持たされた荷物は、最低限の身の回りの品だけだ。しばらく滞在するのだから、できれば着替えが欲しい。
「ならばすぐに仕立てさせよう」
「えっ、今から?」
「あぁ。優秀な仕立て人を派遣するから部屋で待っていてくれ」
この城には仕立て人まで居るのか。
どんな人なんだろうか。
ガルに言われた通り、私は部屋で仕立て人が来るのを待っていた。
しばらくしてドアをノックする音がした。
「どうぞ」
「お邪魔するわね、シエラちゃん♪ アタシ、この城で仕立て人をしているベティよ。よろしくね!」
ベティと名乗る魔物は口調も女性みたいだしドレスを着てはいるが、顔つきは男性に見えるし、その裾から覗く下半身は蛇で、ガタイの良い上半身は筋肉質な腕が四本もある。
「えっと、ベティさんは男性……なのかしら……?」
「心は乙女だから安心してちょうだい♪」
ベティさんは慣れた調子でそう返すと、採寸道具を片手にウインクした。
「それじゃ、パパッと採寸しちゃいましょうね~!」
ベティさんは四本の腕のうち、二本を使って採寸しながら測定した数字を残りの腕を使って紙に記載していった。とても器用だ。
「すごい……ガルが“優秀な仕立て人を派遣する”って言ってたけど本当ね」
「あら~うれしいわぁ♪ ガル様ったらそんなこと言ってたのねぇ。任せてちょうだい、この腕でドレスも一気に縫ってあげちゃうわ♪」
ベティさんはそう言って力こぶを見せた。たぶん、ドレスを縫う時も四本の腕を駆使するのだろう。
「とりあえず今夜はナイトウェア用に、急ごしらえの簡単なネグリジェになるけども。また改めてもっと可愛いドレスいっぱい着せてあげるわね!」
「ありがとう、ベティさん」
「そういえばこの後は、お風呂に入るのかしら?」
「えっ、お風呂?」
そういえば、今日は外を走っていたし寝る前に汗を流せるならありがたいなぁ。
王宮では朝の身支度として入浴することが多いが、ここでは夜でも入るのだろうか?
「入れるなら入りたいけども……」
「じゃあ、ガル様にお願いしておくわね! 実はこの城の裏には湯量の豊富な温泉があるのよ。そこからお湯を引いてるから、いつでも溜めて浸かることができるのよ~!」
「えっ、お風呂にいつでも浸かれるなんて、すごい贅沢!」
王宮でも基本は蒸し風呂で、お湯に浸かれるなんて週に一回でもあれば良い方だったのに。
「じゃあ、後は任せてちょうだい。シエラちゃんはゆっくりお風呂に浸かってらっしゃいな♪」
採寸を終えたベティさんは、そう言って笑顔で手を振ると部屋を出て行った。
「温泉かぁ……楽しみだなぁ」
「シエラ、先ほどはいろいろと驚かせてしまったようだな」
「ごめんなさい、騒がしくなってしまって」
「いや、こんな賑やかな食事も悪くない。家来たちも喜んでいたようだしな」
「なら良いんだけど。私も楽しかったわ」
「そうか。ところで、シエラの世話をする使用人を誰にするかまだ決めかねているんだが」
「私の世話?」
「あぁ。シエラの部屋の掃除や身支度を手伝う使用人が必要だろ? もし家来たちの中で気に入った者がいればシエラの世話を担当させるが、どうだ?」
「ううん、大丈夫よ。必要だったら私が掃除も洗濯も何でもするわ」
王宮では侍女のメアリーが身の回りの世話をしてくれていたが、実は誰かに頼らなくてもある程度のことは自分でできるのだ。
実家であるノイシュタール家の財政状況はあまり良くなかったので、あまり使用人を多く雇うようなことはできなかった。
王宮から支援を受けるようになってからは使用人に世話をしてもらうことが増えたが、それまでは身支度は日常的に自分で行っていたし、家事も一通りはこなしていた。
「てっきり、身の回りのことは使用人に任せて自分は何もしないもんだと思ってたが……シエラは変わってるな」
「だめだった?」
「いや、気に入った」
ガルは口の端を軽く上げて微笑んだ。
端整な顔から現れる、活き活きした表情に胸がときめくのを感じる。
「他に何かこの城で生活する上で必要な物があれば、遠慮なく言ってくれ」
「ありがとう。……でもどうして、敵であるはずの私にそんなに親切にしてくれるの?」
「シエラをこの城に客人として滞在させると約束したからな。それに――」
「それに?」
私の問いにガルは視線を逸らして、軽く咳払いをした。
「んっ……いや、なんでもない。――それで、何か必要な物はあるか?」
「そうねぇ……そう言えば、着替えが足りないのよね」
この城に来る前に森で持たされた荷物は、最低限の身の回りの品だけだ。しばらく滞在するのだから、できれば着替えが欲しい。
「ならばすぐに仕立てさせよう」
「えっ、今から?」
「あぁ。優秀な仕立て人を派遣するから部屋で待っていてくれ」
この城には仕立て人まで居るのか。
どんな人なんだろうか。
ガルに言われた通り、私は部屋で仕立て人が来るのを待っていた。
しばらくしてドアをノックする音がした。
「どうぞ」
「お邪魔するわね、シエラちゃん♪ アタシ、この城で仕立て人をしているベティよ。よろしくね!」
ベティと名乗る魔物は口調も女性みたいだしドレスを着てはいるが、顔つきは男性に見えるし、その裾から覗く下半身は蛇で、ガタイの良い上半身は筋肉質な腕が四本もある。
「えっと、ベティさんは男性……なのかしら……?」
「心は乙女だから安心してちょうだい♪」
ベティさんは慣れた調子でそう返すと、採寸道具を片手にウインクした。
「それじゃ、パパッと採寸しちゃいましょうね~!」
ベティさんは四本の腕のうち、二本を使って採寸しながら測定した数字を残りの腕を使って紙に記載していった。とても器用だ。
「すごい……ガルが“優秀な仕立て人を派遣する”って言ってたけど本当ね」
「あら~うれしいわぁ♪ ガル様ったらそんなこと言ってたのねぇ。任せてちょうだい、この腕でドレスも一気に縫ってあげちゃうわ♪」
ベティさんはそう言って力こぶを見せた。たぶん、ドレスを縫う時も四本の腕を駆使するのだろう。
「とりあえず今夜はナイトウェア用に、急ごしらえの簡単なネグリジェになるけども。また改めてもっと可愛いドレスいっぱい着せてあげるわね!」
「ありがとう、ベティさん」
「そういえばこの後は、お風呂に入るのかしら?」
「えっ、お風呂?」
そういえば、今日は外を走っていたし寝る前に汗を流せるならありがたいなぁ。
王宮では朝の身支度として入浴することが多いが、ここでは夜でも入るのだろうか?
「入れるなら入りたいけども……」
「じゃあ、ガル様にお願いしておくわね! 実はこの城の裏には湯量の豊富な温泉があるのよ。そこからお湯を引いてるから、いつでも溜めて浸かることができるのよ~!」
「えっ、お風呂にいつでも浸かれるなんて、すごい贅沢!」
王宮でも基本は蒸し風呂で、お湯に浸かれるなんて週に一回でもあれば良い方だったのに。
「じゃあ、後は任せてちょうだい。シエラちゃんはゆっくりお風呂に浸かってらっしゃいな♪」
採寸を終えたベティさんは、そう言って笑顔で手を振ると部屋を出て行った。
「温泉かぁ……楽しみだなぁ」
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