風の聖女は護れないっ! ~聖女の力を分けた結果、聖女は“あほの子”になった~

笹色 ゑ

文字の大きさ
118 / 156

118

しおりを挟む



 夕食の後でヴァーナードが倒れた状況を説明した。

「は? 死にかけた?」

 ヴァーナードが理解できない顔をしている。

「医師の見立てだと魔力枯渇だろうって話だ。まだ魔法の使い方に慣れていないのに、最大出力を試そうなんて言い出して申し訳ないことをした」

「いや……力量を過信していた自分にも問題はある。魔力供給は……アリアがしてくれていたのか?」

「倒れてすぐに魔力を提供してくれていたから、今問題がない。普通は血の繋がりのあるものが行うか、専門的な医師がするんだけどね。アリア殿とヴァーナードは魔力的にかなり相性が良かったみたいだ」

 魔力は平民でも僅かに持っている。魔法が使えるほどとなると平民でも魔法を使えるように教育がされる。

 魔力暴走で自他ともに被害が出る危険を避けるためと、魔力が枯渇して死ぬことがないようにするためだ。

 魔力枯渇に関してまだ解明しきれていなことも多い。今回のことに関しては純粋に使いすぎたことによるもののようだ。作り出した光の玉に魔力を注いだとき、過度に魔力を使い、停止できない状態に陥ったと考えられる。魔力枯渇は意図的に全て使うことで生じることもあるが、魔力暴走の一種として、使用を止められなくて起こることの方が多い。

 大抵は意識を失う。そして呼吸と心臓も停止する。出血多量のような状態と表現されることもあり、輸血するように魔力を与えて対処する。

 ここで魔力の相性が悪いものがすると、拒絶が起き、さらに与える魔力量が多くても少なくても死亡する。つまりヴァーナードは死亡率の高い状況だった。

 素人であるアリア殿が、本能的にそれをできたことにも驚いたが、丸二日、眠ることもなく続けていた。

 本来であれば専門の人間に変わるべきだったのだが、アリア殿に威嚇されてできなかった。

「本当に、アリア殿は規格外だね」

「ああ」

 流石に疲れているのか、小さく頷くとアリア殿が寝ている寝室に目を向けている。

「体調が不安なら今からでも医師に診てもらえるけど? 魔力枯渇は、後遺症が残ることもあるから」

「いや……今日はいい。明日に診察を頼みたい。私とアリアを。それで問題なければ研究はやめて新婚旅行に戻る」

「まあ、研究所にいる方が無理をしそうだからね。明日は念の為療養して、明後日の朝から飛行船を飛ばせるようにするよ」

「ああ、手間をかけさせるな」

「研究材料にしたのはこっちだからね。また解析結果が出たら知らせるよ」

 そんな話をして退席しようとしていると、寝室のドアが壊れそうな勢いで開いた。

 寝巻き姿のアリア殿がすごい勢いでやってくるとヴァーナードに抱きつく。座っていたはずのヴァーナードは、行動を見越していたように立って待っていた。

「どうした」

 問いかけに答えずに、アリア殿はしがみつくように抱きついている。

 寝巻きなので体のラインが見えてしまっている。ヴァーナードがそっとアリア殿を隠すように体の向きを変えた。

「今日はお暇するよ」

「ああ、世話になった」

 結婚したての夫が死にかけたのだから心配するなという方が難しいだろう。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...