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しおりを挟むもし、アリアに対して不当な処罰がされるならば、ブルームバレーの王族にも血の雨を降らせていた。もし、今生で無理でも、来世かその先で確実に滅ぼしていただろう。
「明日……いや、明後日に正式に城へ招待する。其方たちも今日は疲れただろう」
そう言うと王と聖女から解放された。
ナツメの処遇を最後に確認したが、今回は何もなかったのだから誰かを罰することはないと答えがあった。
ホテルに戻るとアリアを見てシファヌはもちろん連れてきた使用人や警護は安堵していた。
「奥様……ご無事でよかったです」
心底安堵したようにシファヌが言う。
「えっと、もう元気になりました。安心してください」
アリアが言う。
「シファヌ、部屋で食事を摂る。アリアには消化にいいものを頼む」
「かしこまりました」
毒と言われたが、どんなものか理解できていない。だが、全く嘘とは思えない。
昨日、アリアは疲れて休んでいると考えていた。だが、アリアは体だけは丈夫だ。疲れる姿は見たことがない。それに、馬車の中で眼鏡を渡すと見えにくいと言い出した。治したと言っていたが、視力も治してしまったようだ。それだけで治療したという事実は実感ができた。正直、眼鏡が不要になったのは誤算だったが。
それに、あの場で見た事を思い出す。
夢現の世界のことは夢だったとしたい自分もいる。
食事を食べさせ、湯あみは省かせる。既に王宮でずぶ濡れになったので湯あみを済ませている。
「アリア……、これまでの事と、これからの事を話したい」
シファヌも下げて、席につく。
「……?」
アリアはこてんと首を傾げてこちらを見る。
「アリアは……聖女と呼ばれるような存在なのだろう。私に……昔の私だった者に力を与えた所為で、自由を奪われたのだろう」
「えっと、自由でなくなったのは、ヴァーナードだよ?」
アリアが首を傾げる。
「えっとね。次、嫌だったらもう私の事守ろうとしないで自由にしていいから」
「……迷惑なのか」
アリアは、何も覚えていないと思いたかった。覚えていれば、とても一緒にいたいとは思えないだろう。
私は何度も彼女を助けられなかった。苦しむ彼女の隣にいるしかできないダメな男だった。
「えっと、私は、ヴァーナード見つけちゃうと、他の人には渡したくなくなるから。でも、ヴァーナードは私といると大変だから」
「私のことが、嫌いでは……憎くはないんだな」
「嫌いな人と一緒にはいない」
アリアと私の間にあるテーブルが邪魔だ。
立ち上がり、アリアを前に膝をつく。アリアはそれを見て座る向きを変えた。
「ヴァーナード?」
不思議そうにしながら、アリアが手を伸ばして頭を撫でてくる。
「えっとね。次は、気にしなくていいから」
「ああ……」
アリアが少し寂しそうに笑う。
アリアとは、趣味が合う訳でもない。ずっと一緒にいる必要はないのだろう。だが、アリアが見える範囲にいないと心配になる。些細なことで幸せそうなアリアを見ると、他では得難い幸福感がある。
何よりも、私はアリアの幸せを願い自分では釣り合わないと思いながら、他にアリアを渡したくないと卑しくも考えていた。
「私は、来世でも君を探して、私の手で幸せにする」
「………」
アリアが困った子供でも見るように微笑んでいる。
「他人のために願って、私に呪われるなんてかわいそうな人」
「そう思うなら、素直に幸せになってくれ」
私は、森の中で一人で生きる美しい女性を目にした。
なぜ、あの場で救世主になることを願ったのか。ただ、あなたと共に生きたいと言うべきだった。
一目見た時から、笑った顔を見てみたいと思ったのに。
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