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第七章

157:二人して楽しそうだね。デート?

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 恵風が、薫風を迎えに来たときはいつも立ち話をする。
 今回はちょっと特殊な誘いに、尚に興味が湧く。
「じいちゃんちも和菓子屋なのか?」
「いや、上野の甘味処。老舗だぜ?」
 店名を聞くと、そこは、時雨と以前行ったことのある甘味処だった。
「どうする?」
 避ければいつまでも時雨を気にしていることになる。
「……行こうかな?」
 迷いながら、返事をした。
 いつも通り、翠雨の銭湯の掃除のバイトをし、氷雨の神社の御神地の収穫を手伝った後、恵風と待ち合わせて上野に向かった。
 翠雨に今日時間はあるかと言われたが、この予定があるので断っていた。
 上野恩賜公園の近くにある店は、夜になるとライトアップされて、歴史を感じさせる和風建築の外観が余計際立って綺麗だ。
 尚と恵風が案内されたのは江戸時代の内装が一部残る旧館だった。
「あ、ここ……」
「何だ、来たことがあるのか?」
「いや。こっちは始めて」
 尚は首を振る。そして、少ししどろもどろになる。
「来る予定があったんだけどさ、結局無しになっちゃって」
「ふうん?」
「何だよ」
「誰と行こうとしてたのかなって思っただけ」
 店内はすでに混み合っていた。
 日本各地にお得意様がいて、みんなこの日を楽しみにしているそうだ。
 やがて、お皿にのせられて、ハムスターみたいな楕円の形のおはぎが運ばれてくる。
 手捏ねのおはぎは、米の粒の食感がはっきり分かる食べごたえのあるものだった。
 きな粉は砂金みたいに細かく黄金色で、あんこは粒が大きく黒々としている。
「美味いっ」
 尚は思わず唸った。
「だろ」
と恵風は得意顔だ。いつも飄々としてるので、こういう表情は珍しい。
「今ままで食ったおはぎの中で一番だ」
「お前、今日、よく喋るね」
「恵風こそ、笑顔。レアすぎ」
 向かい合って食べていると知った声がした。
「悪尚じゃないか。最近、付き合いが悪いと思ったら」
 入り口に立っていたのは翠雨、氷雨、そして、時雨だった。
 高位神が三人もやってきたので、恵風は一気に緊張したらしい。急に無口になる。
 尚は、時雨の姿を盗み見した。
 恵風と一緒にいるところを見られて、なんだかバツの悪い気分だった。
 しかも、ここは今度は予約を取って旧館に行こうと時雨と約束した場所だ。
 動揺した自分に次第にムカムカしてきた。
「別にいいじゃねえか。守られない約束だったんだし」
と尚はそっぽうを向いて呟く。
 店はかなりの混雑で、尚たちの近くの席しか空いていない。
 そこに案内された時雨は、椅子に座りながらあっさりした様子で、
「二人して楽しそうだね。デート?」
と訪ねてきた。
 なにそれ?
 動揺してくれとまでは言わない。
 一瞬、表情ぐらい変えてくれてもいいじゃねえか、と思う。
 なんだよその、尚に、相手が見つかったみたいでよかったみたいな安心しきった顔。
「混んできた。上で食おう」
 恵風が急に席を立ち上がり、回り込んで来て尚の手を取る。
 何十回も会っていても、その行為は始めての経験だった。
「失礼します」
 上で食おうと言ったくせに、食べかけのおはぎは机の上に置いたまま。
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