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第一章

11.あんた、本当に僕に探偵まがいのことをさせたいのか?

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 四時間と少しのドライブを終えて、フィレンツェに到着した。


 ロレンツォの館は観光客で賑わうフィレンツェ市内のど真ん中にあり、鉄の門をくぐるとテニスコート四面ほどの広さの庭。中央で壺を抱えた女神の噴水があり、ドバドバと水を流していた。そこの脇に車を止める。


 ロレンツォが玄関を開ける。

 廊下をのびるのは赤い絨毯。

 さっそく、銀の甲冑と兜、用途不明のでかい壺がお出迎えだ。 


「こっちが普段使いしている食堂。アンジェロと最後に会話したのがここだ」

 覗くと横長のテーブルが置かれてあった。その奥は、ガス台やオーブンなど。窓からはさっきの中庭の緑が見えた。綺麗すぎて映画のセットの中にいるみたいだ。


 少し歩いて階段を上がる。

 その最中に現れるのは、絵、絵、絵。

 馬に乗っていたり、剣を振りかざしていたり、タッチが異なるから絵描きは全員違うだろうが、この館の雰囲気にぴったり収まっている。


 飾るのにかなりのセンスが問われそうだなと思いながら眺めていると、

「絵は好きかい?」

 ロレンツォが二階へと続く階段を上りながら、聞いてくる。

 

 無視した。


 ニ階の廊下からは先程の庭が見えた。


「地下一階、地上三階。客室は二百あり、住居としては南側の一面しか使ってない」

 聞きもしないのにロレンツォが教えてくれた。ちなみに、他の三面の部屋はコレクション部屋だそうだ。

「どうぞ。ここが当面、君の部屋だ。疲れがたまっているだろうから、少しゆっくりしたまえ」


 去っていこうとするロレンツォを、サライは「おい」と呼び止める。


 用意されていた客室には、何故かオレノ村の自室にあった品々が運び込まれていたからだ。

 窓辺のアンティークな机の上にはデスクトップのパソコン。八面あるモニター。ノート型パソコン。携帯はご丁寧に充電中ときている。

 床の隠し収納にまとめてあった貴重なフィギュアや本もダンボールに入って机の足元に置かれていた。


「どうして僕の荷物がここに?警察に押収されたのを取り戻してくれたのか?それにしたって手際が良すぎる」

「手際?そもそも君の荷物は警察に押収されていない。見つかったらやばいデータがわんさとあるだろうし、これ以上、複雑な事件にしたくなかったからね。運び屋に依頼しておいたのさ。駄賃をたんまりせびられたが、まあ、それはいい。息子の部屋は隣だ。居なくなった日のままにしてある。アンジェロの失踪理由が分かるなら、他の部屋も好きに見ていいよ」

 扉を閉めかけるロレンツォにサライは聞いた。

「あんた、本当に僕に探偵まがいのことをさせたいのか?」
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