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第一章

14.虐待?それが嫌で逃げ出したとか?

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 そっちのほうが検索ボリュームが多そうだからだ。

 なんせイタリア一の資産家の息子。これから結婚適齢期に入るのならば、国中の、いやヨーロッパ中の女が舌なめずりしているはず。

 予想通りの検索ボリュームだった。


 同時に検索されているワードは、養子、彼女、ピアノ。

 軽く調べる。


「失踪息子はフィレンツェの音楽学校に通う十八歳、か」


 出てくる男の画像は、タキシード姿でピアノを背後にして優勝トロフィーやメダルを持っているのが多数。

「うわあ、優雅。それに、相当の腕があるみたいだな。へえ。動画もある。―――うめえ」

 ピアノの鍵盤を優しく撫でるようにして弾く姿は、クラッシック音楽が分からないサライでも唸りたくなるような腕前。

「ただの親馬鹿かと思っていたけれど、これを聞けば息子は優勝すると断言するだけある。ロレンツォ公の奴、いい息子を見つけたなあ。才能の塊だ。息子は息子で、イタリア一の資産家の養子になったんだから、幸運の星の元に生まれてきたようなもん」


 まるで対。

 パトロンと、才能ある若者。

 出会うべきして出会ったような二人に思えてくる。


 気になるのは息子の方が大柄な背中をいつも丸めていて、どことなく申し訳無さそうにしていることだ。茶色い瞳は怯えを含んでいるように見える。


「虐待?それが嫌で逃げ出したとか?ロレンツォ公はそんなことをするようには見えないけどな」

 サライはすぐに考え直した。

 人は見かけによらない。

 ついさっき、学んだばかりだ。


 偏屈な祖父に、身体を重る相手がいたように。


「こいつら、いつ、どうやって出会ったんだろう?」

 調べてみたら、養父養子の関係になったのは八年前。南イタリアの孤児院のようだ。しかし、そこはすでに廃院になっていて、それ以上の情報は出てこなかった。


「うーん?むしろ孤児院時代に何かあった?」


 そう考えることもできなくは無さそうだ。劣悪な環境の孤児院が実際にあると聞く。


 サライは忙しくキーボードを叩く。役所関連のデータベースに侵入した。


「ロレンツォ公の相続人は、アンジェロのみか」


 サライは部屋を見回す。


「じゃあ、数十年後には、全てのコレクションや資産がアンジェロの物に」


 何社かの携帯会社のデーターベースに入り込んで、アンジェロ・ディ・メディチの携帯番号を取得。ついでにロレンツォのも。そして、アンジェロの携帯の位置情報を確かめる。


「ええっと、携帯がある場所は、フィレンツェ。あ、この館か。置いて出て行ったってことか。つまり、跡を辿られたくないと。相当な覚悟を決めて出ていったんだな。だったら、日頃からかなり不満を溜めていたはず」
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