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第一章

15.アンジェロ。お前、一体何が我慢できなかったんだ?

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 SNSで呟いていないかどうか調べてみる。

 しかし、アンジェロのアカウントは特定できなかった。

 自分のスキルで探せなかったとは考えづらい。


「その手のものはやっていないと」


 代わりにアンジェロのことを呟く、他人のツイートを発見。

「世界一幸福な養子?まあそうだろうな」
 
 アンジェロの同級生が彼を「練習狂いのクソ真面目野郎!ゲイなのか!!」とこき下ろしているアカウントを見つけた。


 呟きを遡っていと、どうやらこの女、アンジェロが好きだったらしい。

 さらに、遡ると、隠し取りされブレブレのアンジェロの写真が数十枚。

 私服姿は、かなり質素だ。

 いや、はっきり言えばボロい格好をしている。


 首元が伸び切ったカットソーやサイズの合っていないパンツ。何度も洗濯したようで膝や肘など尖った部分が色が抜けかけている。


「あの親馬鹿ぶりから察するに、ロレンツォ公が息子にかける金をケチるようには思えない。だとしたら、アンジェロ自身が着飾ることに興味無し、と」


 他の女も、アンジェロと付き合いたいと呟いていたりする。

 そこから滲み出ているのは、アンジェロを利用して楽に生きていきたいという女の小狡く薄汚い欲だ。


「これだけピアノが上手いのに、才能以外で注目されて可哀想な奴」


 携帯は自宅。

 なので、居場所は特定できませーん、未成年収容所から出してくれてありがとう。じいちゃんを殺した犯人は自分で探しまーすと館のどこかにいる依頼人に一言言えば済む話なのに、なぜか、キーボードを叩く手は止まらなかった。


「アンジェロ。お前、一体何が我慢できなかったんだ?」


 未来は約束されていたはずだ。

 一生金に困らず、贅沢品に囲まれて過ごす生活。

 仕事だって片手間で十分。急な解雇に怯える心配はしなくていい。

 望むなら好きなことだけして生きていける。


 親がいなくて苦労したのなら、絶対にメディチ姓にしがみつきたいはず。


「ロレンツォ公に引き取られる前に何らかの苦労や恐怖を味わっていたと仮定して、あの男から与えられた特権、そしてこれから与えられるだろう莫大な富を手放してまで養子を止めたくなる理由……。付きたい職業があったけど、止められた?ピアニストじゃなさそうだよな。応援されているし。ゆくゆくは家業を告げと言われて、それが嫌だったのかな?美術品溢れる館に八年も住んで嫌う理由が分かんねえんなけど。じゃあ、別方面?……もしかして、恋愛?」


 サライはキーボードから片手を放してぱちんと指を鳴らした。


「ロレンツォ公のお眼鏡にかなわない相手と付き合っていて、別れろと言われた!十代なら恋愛至上主義。十分に有り得るだろ。つまり、失踪は駆け落ち?うわ~。甘酸っぺー」


 思わず、身体が震える。

 終着点を目指して燃え上がる激しさを想像したら、うえっとなる。


「そそのかされたかもと言っていたから、それがアンジェロの恋人ってことか?ロレンツォ公はそいつの存在は知っていて、でも顔や名前は知らなかった?」

 考えられるのは、

「父さん。恋人が出来たんだ。相手は男で、名前は……」

「聞きたくない」



 こんな感じだろうか?

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