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第二章

32.一旦忘れて。そして、さっさと、ベルトを緩めて?

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「ベルトを外して」


 サライは急速に警戒した。


「は?ふざけんなよ?おかしなことをしたら、ぶっ殺してやるからな」

「いや、その不格好な姿のまま廊下に出たら社長に殺されると思うけど?」


 すぐさま返してきたエヴァレットが面白かったのか、チャールズがゲラゲラ笑い出す。

「おまえ、エヴァレット系だから、警戒するのはわかるけどよ」


 すると当人が、


「何、エヴァレット系って。ボクはセクハラなんてされてことない」


とツンとする。


「未遂は何百件とあるだろ。マテリア使って難を逃れただけでさ」

「チャールズだってそうだろ?」

「オレはそんなのいなくても強いから」


 すると、エヴァレットが呆れたようにため息。


 だが、サライが


「マテリアって?」


と聞くと、二人とも「あ……」という表情をした。


 イタリア語で素材という意味だ。それがイギリスでどういう意味で使われてるのかは分からない。


「そ、そっかあ。そういう用語すらまだわかんない状態なのか。一旦忘れて。そして、さっさと、ベルトを緩めて?そうしないと皺になっているシャツを綺麗にできないんだけど」


とエヴァレットが話をそらす。


「ジャケット羽織るから見えないだろ」

「社長には見える」


 頑なな態度を取っていると、エヴァレットに背後を取られ、チャールズにベルトを外された。


「こいつ、暴れるからさっさとな」


 再びベルトを付けたときは、スーツに着られていた青年は、ちゃんとまともな姿になっていた。


 ジェルで髪を撫で付けられ、ジャケットを羽織らされ部屋を出される。

 そして、廊下で待っていたロレンツォと合流。


「いいね。ぴったりだ。さすが、聖人ホールディングスのアパレル部門」


(それ。アンジェロのウォークインクローゼットのスーツカバーの刻印だ)


「さすがに気持ちが悪いんだけれど。ここまでされると」

「私じゃない」

「じゃあ、あんたを代理人としてよこした奴の差金?どうやって僕の身長や肩幅を?」

「目メジャー」

「は?」

「絵描きは、写真を見ただけで分かる。まあ、私もだけど」

「ますます気持ち悪い。それに絵描きって?」


 ロレンツォが、サライの質問に答えること無くホールに入っていく。


 先に来ていた参加者が振り向きざわめき、ホール全体が騒がしくなる。
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