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第二章

40.冗談だ。これで少しは興奮も覚めただろう

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「よく覚えててくれたね。関心、関心。バーント・ノトケ。アンジェロは、バーントの死神さんと呼んでくれるがね」

「あんたも絵から出てきたってことか?つまり、絵の登場人物なのか?」

「いいや。人間だ。ちょっと特異体質のね。現時点ではそう説明しておこう」

「この世のどこに、死神に変身できる体質の人間がいるんだよ!!」

「だから、ここに」

「あああああ~~~~~っ、もう。話が通じない。あり得ないだろ。じゃあ、青いドレスの女もか?」

「あれは、正真正銘、絵の登場人物」

「じゃあ、二種類あるんだな。あんたみたいに、人間だけど絵の人物になれるのと、絵の人物そのものと。エヴァレットとチャールズが命令を絵の人物にしていたなら、青いドレスの女も誰かに命令されて動いているということか」
「今までのパターンでいったらそうだろうね」

「ってことは、あの女はイレギュラー?」

「それをこれから調べようとしている。それにしても、あの状況下でよく観察できているねえ。偉いぞ、サライ。
さ、上空は寒くて身体が冷えてしまう。行こうか。飛行機に乗れたのだから、高所は大丈夫だね?」

「そもそも、何で浮いていられる?!」

「言っただろ。死神だから」

「全然、説明になっていない!どこに行く気だ?降ろせっ!」

「いいけど」


 ロレンツォがサライの腹のあたりを掴む力を一瞬緩めた。

 足元にはかなり横幅のある河。そして、重厚で巨大な跳ね橋がライトアップされている。

 身体がゾワッとした。


「冗談だ。これで少しは興奮も覚めただろう」


 死神の声は少し疲れているように聞こえた。

 跳ね橋の方向に向かって飛び始める。

「これからどこに行くつもりだ?」

「行き先は、ロンドンパレス。歴史の古いホテルで、各国の王族御用達。そして、リチャード・クリスティンの連中の多くがそこを家代わりにしている。今夜の君の宿もそこだ。スウィートルームだから、快適なはず」

「宿なんかいらない。あの女を探せよ」

「再び出会えたところで何も出来ないだろうが。頭に血が上ると、一瞬で判断力が低下するようだな。特定屋。今、君がするべきことは、誰が使えるか見極めることだ」


 河を渡り終えるとすぐに大きな建物が見えてきた。

 死神はそこの屋上をめがけて鳥のように滑空。



 内部に入ると、最上階の廊下にサライを立たせた。

 膝がかくかくする。

 身体に力が入らない。

 自分は相当怖かったらしい。

 たまらず廊下にへたりこんだ。


「ほらね」
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