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第四章

77.本気で知らないのか?『ユディトの帰還』も、ボッティチェリも?

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「ユディトに何をされた?」


 サライが答える前に、レオの携帯が震えた。

 さっそくヨハネがURLを送りつけてきたらしい。


「誰だそれ?」

「『ユディトの帰還』のユディトだ。ボッティチェリの」

「だから、誰だそれ?」


 しばし、沈黙があった。

 レオがこの世の終わりみたいな顔で、


「本気で知らないのか?『ユディトの帰還』も、ボッティチェリも?」


 そして、携帯を弄くると、サライに向かって放り投げてきた。



 画面の中には女が二人。田園らしき場所を歩いている。

 一人は召使い風で黄色いドレスに前掛け。バスケットを頭に乗せそこには男の生首が一つ。

 召使いの前方を歩くのは、青いドレスの女。

 片手に剣を持ち、憂鬱そうに歩いている。




 きっと生首は戦利品。敵を打った帰り道なのだろうか?

 だったらもっと満足そうな顔をしていてもいいはず。


「この女だ」

「なぜ、お前がユディトと接触してくる?」

「こっちが知りたい!この女がじいちゃんを殺したんだろ!!どうして絵の人物にあんな酷い殺され方をしなくちゃならないんだ」

「ピエトロの敵は、こっちで取る。大人しくしていろ」

「あんたには頼らない!」


 声、容姿、態度。この男の全てに不快感があるのだから。


「戦っても勝てないなら、暴き尽くして罠にはめてやる。名前はユディトで、絵描きがボッティチェリ。オープンソース・インベスティゲイションで調べりゃ絶対に出てくるはず」

「勝手に動き回るな」

「他人が僕に指図するな」

「他人じゃねえ」

「じゃあ、何なんだ!」


 すると、レオが黙った。


「腰振って、種付けただけの存在なんだろ?威張るな」


 レオが冷ややかな目でサライを見つめてくる。


「違う」


 その言葉ば意味するのは、血の繋がりが無いという意味か。それとも、影でできるだけのことはしてきたということか。

 サライは激しく頭を振った。




 この男の側は駄目だ。

 一緒の空間で息を吸うことすら嫌だ。




 でも自分には美術の知識が無いから、レオにへりくだったほうが絶対にいい。

 なんせオークショ―ナ―という仕事をしているのだから、知識は相当なものだろう。

 青いドレスの女、ユディトと言ったか、そいつのことが知れる。
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