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第六章
123.え?焼いてくれるの?
しおりを挟む手づかみで猛然と詰め込んで、窒息しかけたこと数回。
口の周りはベタベタで、服が汚れるのもお構いなし。
だが、食べるのに必死でもロレンツォから注がれる視線だけは感じ取れた。
そんなことが何回も続くうち、ようやく自分が変なのだと気づいた。
そのうち、人前で何も食べられなくなった。
そこから食事の席は、アンジェロとロレンツォの耐久勝負みたいになって毎回、数時間にも及んだ。
真っ当な世界では、一緒に食事をすることが大切。それを教えようとしているらしかった。
でもいつもロレンツォに白旗を上げさせた。
彼が去った食堂で、アンジェロは一人で皿に盛られた料理を平らげる。
パンパンに腹が膨れていても、消化が進んだ途端、耐え難い飢えがやってきて、夜中に真っ暗な食堂に忍び込んで食べ物を漁っていた。
お腹がすいているから下さいと言えば、ロレンツォは「いいよ」と言うはずなのに、言えなかった。
だから、冷凍のピザにこっそりかぶりつく。
生地もチーズもトマトもカチカチ。
だが、美味い、美味くないかは関係なかった。
ただ腹に収まればよかった。
命を繋ぐ。
それが、アンジェロにとって食事という概念だった。
でも、哀れな気分も覚えるようになっていた。
ロレンツォと暮らすようになって、人間らしさというものを知ってしまったせいだ。
食堂の隅で隠れてネズミみたいにコソコソと食事を取る自分は、惨めな存在だと自覚すると言いようのない悲しさが溢れてきて、そこからは毎回、泣きながら口に物を詰め込んだ。
ある日、いつものように泣きながら食べていていたら食堂の入り口に異形の者が立っていた。
ローブ姿でフードをかぶり鎌を肩に背負った骸骨だ。
罪を犯したままのうのうと生きている自分を殺しに来たのではないかと半狂乱になるアンジェロに向かって、死神はしゃがみこんで「シイッ」と骨だらけの人差し指を口に当てた。
天井を指差す。二階にはロレンツォの寝室がある。死神は自分が現れたことをこの館の主には内緒にしたいらしい。
そして、アンジェロの手から食べかけのピザを取り上げ、オーブンの蓋に手をかけた。
「え?焼いてくれるの?」
漂い始めた匂いが答えだった。
その後、死神は冷蔵庫を勝手に開けて、オリーブやチーズを出して食事に彩りを添え始める。
アンジェロが座る食堂に隅に一緒に座って、行儀悪く手で、つまり、骨だらけの指で摘んで、闇が広がっているみたいな空洞の口の中にポイポイと放り込む。
しまいには、ロレンツォがたまに飲むビールまで飲み始めた。
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