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第六章

124.どうしたの、今日?人間みたいだ」

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 それから八年の間、彼は付かず離れずの距離で慰めてくれた。

 そして今、コーヒーカップを持った死神は、さっき身体をビクつかせたときに床に垂れたコーヒーの雫を眺めている。


「どうしたの、今日?人間みたいだ」


 死神はいつもの肩をすくめるポーズをすると、革のサンダルで行儀悪く茶色い水滴を拭う。

 そして、アンジェロを凝視。

 何が言いたいのかは分かっていた。


「うん。もう食事のスイッチは切れた。だから、大丈夫」


 答えると、黙って食堂を出ていく。

 背中に背負った鎌の穂先が、食堂の窓から差し込む月の光で鈍く光った。

 バーントの死神がいなくなってから、アンジェロは、大きく息を付く。


「今日、どこで寝よう。自分のベットはサライの吐瀉物で汚されてしまったし。ピアノ室のソファーでいっか」


 苦では無かった。

 贋作組織では、弱い者は雑魚寝が基本。だから、ソファーで眠れるのは贅沢なぐらい。

 アンジェロは床から立ち上がる。


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