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第七章

152.どこかで戦ってきたのか?雰囲気イケメンが台無しだぞ

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「どうした、どうした?」

「アンジェロの居場所だ。ここは、どういう場所だ?広場があってフィレンツェのド真ん中みたいだけど」

「うん。賑やかな場所だよ。普段はメリーゴーランドが回って、夜中でも屋台が立っていて観光客でいっぱい。アンジェロがユディトの手を握ったのもそこだ。あと情報としては、ビゴの店っていうロレンツォ公の幼馴染がやっている店があって、一階と二階はレストラン。三階にロレンツォ公のオフィスMUDVA.がある」

「MUDVA?」

「メディチ美術鑑定事務所の略称だ。Medichi Ufficio di valutazione artisticaの頭文字を取ったもの」


 サライはフィレンツェ市内の地図とにらめっこした。


「じゃあ、アンジェロはそこに隠れているのか?ビゴの店。ビゴの店。いや、そこじゃないな。隣っぽい」

「だとしたら、ロレンツォ公が一棟まるごと所有しているアパートメントかも。部屋まで突き止められるか?」

「四階の角部屋のようだ。賃貸人は、アレッサンドロ」


 ヨハネと顔を見合わせる。


「なんてこった!敵陣の住所まで探り当てちゃったぞ、ボクら」

「ボクらって、お前は何もしてないだろうが。ひとまず、ロレンツォ公に報告してくる」

「アホくさ。利用されるのがオチだっていうのに」

「あいつらは、よく真実を隠し、当事者に語らない、だろ」

「名セリフだ。誰が言ったんだろう?」

「お前はまだガキンチョだから分からないかもしれないけれど、隠すと同時に秘密を探って欲しいと相反する考えを持ってしまうのが人間だと思うんだけどね」


 ぽかんとするヨハネを置き去りに、一階奥の執務室を目指す。


「生意気だぞ!サライのくせに。こっちは五百歳を超えているんだからなぁっ!」という子供っぽい怒鳴り声が追いかけてきた。


 階段を降り、扉をノックする。


「入りたまえ」


という声がして素直に従うと、ローブを羽織った巨体が薄暗い部屋で執務机の奥にあるアームチェアにだらしなくもたれていた。

 鑑定番組でさらりと高級スーツを着こなして、軽妙な語り口でその場を沸かす男とは別人のよう。

 相当、気落ちしているようだ。


「やあ。サライ」


 死神が弱々しく手を上げる。

 頬の骨が、少し欠けていた。


「どこかで戦ってきたのか?雰囲気イケメンが台無しだぞ」


 サライは自分の頬をつついて見せる。


「何言ってるんだい?ますます男前になったんだよ、私は」

「全部調べたからな。あんたとボッティチェリの関係性」

「もう体調は万全なようだねえ」

 ロレンツォが動揺する様子は無かった。
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