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第七章
155.DNAの結びつきを超える何があるんだろ。あいつらには
しおりを挟む「もうロレンツォ公には任せておけないんじゃなかったのか?」
「事情が変わった。で、今度は何だ?」
「あんた、国際美術パスってのを持っているよな?」
「誰に聞いた?ヨハネか?」
「ロレンツォ公」
レオが眉をぴくりとさせる。
「顔写真付きだから貸せないぞ。金がないなら、美術館代ぐらい出してやる」
「だーれーが、絵の鑑賞なんてしたいと言った?!サン・マルコ修道院に行きたいんだよ、僕は。オレノ村の老人と関わった証拠を出せとあんたは言ってくれればいい」
「あいつらは、すんなり口は割らない」
「開示権ってのがあるんだろ」
「ロレンツォに頼め」
「死に体の死神は、尻を引っ叩いてもすぐには動かなさそうだ」
「珍獣よりな貴重な姿だな」
「きっと、ロレンツォ公って強いんだろ?この国で一番ぐらいに。じゃなきゃ、美術の警察や裁判官みたいなことできる訳ねえもんな」
「何が言いたいんだ?」
サライはロレンツォにしてみせたように、レオに向かっても自分の頬を突いて見せる。
「一部、砕けた跡があった。ユディトにやられたとしたら、息子に殺人犯扱いされた動揺があったのかなと思って?」
「お前はあいつに人間味を感じるのか?」
サライは、とある通話記録を調べたことをレオに話した。
「ロレンツォ公は、一年ほど前からオークション開催の数ヶ月前まで、『サルヴァドール・ムンディ』の件で何度となく中東の王子に連絡をしている。オークションを介さず取引しようってな」
「ふん。そうか。売り主はそんなことはオークション出品契約の場で、一言も言って無かったがな」
「あんたらに言ったところで、何に利益もないからだろ。金持ちっていうのはそういうもんだ」
サライは皮肉を言った後、「なあ」とレオに問いかける。
「どうしても分からないことがある。ロレンツォ公は、息子が描いた絵を集めていることを絶対に知られたくなかったはずだろ?反発が予想できたから」
「コレクション部屋には入れないよう鍵をかけていたはずだ。こういう類のな」
レオは扉の取っ手に向かって手を翳すと、カチンと錠がかかる音がする。
「だとしても、集めるべきじゃなかった。集めたって処分すべきだった。贋作なんだから」
「息子が命をかけて描いた絵をどうしても残しておきたかったってことだろ。親としての性。加えてそしてコレクターの性。それが足を引っ張った。ロレンツォの大いなる落ち度だ」
「血が繋がっていなくても、そこまでするものなのかな」
「DNAの結びつきを超える何があるんだろ。あいつらには」
レオは赤い梯子をどけて、丹念に壁の絵を眺めている。
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